第4話 記憶の操作

 脳の中で新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質にファイルされている。

 今回の事件で、『貸金庫を借りた記憶がない』と言った被害者の二人の脳をBMIで捜査した結果、大脳皮質に手を加えられた痕跡があった。


 ただし、今回の犯罪に加担した六人の「出し子」については、その上の階層である「運び屋」まで、すべて逮捕することができた。

 まずは「出し子」については、銀行やその周辺には隠しカメラがいくつも設置されているので逮捕は楽であった。

 銀行の「顔のしわまで映る隠しカメラ」の映像を解析すると、以前に少しでも犯罪に加担した可能性がある人物であれば、「顔認証」で特定できる。

 

 今回初めて「出し子」をした犯人については、街角や駅に設置されている防犯カメラの映像を追って足取りをさかのぼることで、自宅まで特定できる。

 その「出し子」がナンバー式のコインロッカーに「物」を入れた映像があれば、その翌日に、そのロッカーから「物」を出した人物の足取りを追って、「運び屋」を特定できるのも同様である。


 最近の闇バイトの実行役が100%逮捕されているのは、このためである。

 

 警察や政府は公にしないが、現在の日本は、完全な「監視社会」なのである。


 ただし、今回逮捕された六人の「出し子」の内の二人については、BMIで脳内を捜査した結果、「出し子」をしたという記憶を消されていた。

「私は、無実の罪で捕まった。これは、えん罪だ」・・・

 物的証拠はあっても、犯罪を犯した記憶がない・・・

 

 犯罪組織がこれほど優れたBMIを使用していたということは、次は記憶を書き換えるであろうということは、容易に推察できた。


 『消された記憶を取り戻すには、どうすればいいか?』・・・

 その方法を相談するために母校の京阪大学を訪れた私は、とんでもない事実を知ることになったのである。

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