第3話 貸金庫の記憶
警察の不便なところは、被害届が提出されない限り、その案件を捜査できないという点である。
銀行も、昔は捜査令状がない限り、お客様のお金の流れを警察に教えることはなかったが、「オレオレ詐欺」や「偽電話詐欺」が横行するようになってからは、おかしな振り込み依頼や妙な来客があったら、所轄の警察に内々に知らせる体制ができた。
そこで私は、各銀行の窓口業務を担当している女性銀行員と顔見知りになっている若いイケメンな刑事さんたちに頼んで、最近一か月の間に各銀行の貸金庫を使った顧客リストを出してもらった。
まだ被害届が出ていないのに、そのような捜査が許されるかどうかと言う点であるが、私は警察の上層部には、それを「内偵」という犯罪を未然に防ぐための捜査として認めてもらえるという自信があった。
女性銀行員も若いイケメンな刑事さんたちには弱く、
「これは、あなたの銀行の信用にかかわる問題ですから」
と言われれば、上司の採決を待つことなく、『ここ一か月の間に貸金庫からものを出したか入れたりしたお客様リスト』を出してくれた。
後は、そのリストにある人たちに直接会って、『○○銀行の貸金庫から○○日に、何かを入れたか、出したりしましたか?』を聞くだけであった。
その結果、六人が『そのようなことをした覚えはない』と答え、その内二人は、『貸金庫からものを出した覚えはなくても、捜査には協力しない』と述べ、二人は、『捜査に協力する』と言い、残る二人は、何と、『私は、その銀行の貸金庫を使った覚えはない』と言ったのである。
間違いなく最後の二人は、BMIを使って、「銀行の貸金庫を利用している」という記憶を消されていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます