第2話 貸金庫窃盗事件
貸金庫に入れておいた宝石や重要書類が盗まれるという事件は、多くの場合、その貸金庫を管理する銀行員の仕業であったが、最近では様子が変わってきた。
そもそも貸金庫と言うものは、一般の人たちには、よほどの心配性でない限り、必要ないものである。
言い換えると、貸金庫の利用者の半分は、遺産相続で本当は遺産として申請しなければいけない宝石や貴金属や株券を秘密裏に持っている、または人に見られたくない書類を持っている人達なのである。
そこで犯罪者は、貸金庫の中に入っているものを盗んでも、多くの場合、訴えられないことを知っているのである。
しかし、貸金庫を破る・・・貸金庫の中にあるものを、銀行に「本人が出した」と思わせて盗むのは、至難の業であった。
それが最近、貸金庫が破られる事件が多発しているのは、どうもBMIが使われているからだということが分かってきた。
ネットバンキングやキャッシュカードの暗証番号を調べて口座からお金を引き出すのと同様に、貸金庫も基本的には暗証番号が分かれば、中身が取り出せる。
貸金庫専用の鍵を使わないと貸金庫は開かないと言われているが、銀行は支店にあるすべての貸金庫のスペアキーを持っている。
「ごめんなさい、今日は、鍵を忘れちゃって」
と言えば、資産家夫人にふさわしい年恰好をして、その支店に1億円の預金を持っていることが分かれば、その口座の暗証番号さえ打ち込めば、貸金庫についても融通してくれるのである。
それらの犯罪にBMIが使われていることが分かったのは、犯罪者グループの拠点の一つにBMIの装置があったからである。
それは警察が使っているBMIに比べると型が古く、寝ている人の頭にヘッドギアをかぶせて脳とやり取りするというものであったが、警察が持っているものよりも優れた点が一つだけあった。
それは、記憶の一部を消すことができるという点である。
記憶が消せるのは犯罪者が狙う銀行に関するものだけだったが、驚くべきは、自分がその銀行の貸金庫を使っているということ自体を記憶から消すことができる点であった。
普通口座は打ち込みや残高確認をすれば、犯罪者に不正に預金が引き出されていたことはすぐに分かる。そして警察に相談に来れば、お金の流れを調べてもらえる。
しかし、貸金庫は、そうはいかない。
例えば、酒を飲んで寝ている間に貸金庫の暗証番号をBMIを使って調べられて、貸金庫の中に保管していたものを盗まれても、貸金庫を使っていたという記憶自体を消されてしまえば、誰も警察には相談に行かない。
私は、最近起こった貸金庫破りに関して、本人に成りすまして銀行の貸金庫を開けた、いわゆる「出し子」を調べてもらうよう刑事課に依頼した。
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