溶解のメルト 〜従者の私は全てを守り抜く〜

風鳴 ホロン

第1話 プロローグ

 まだ、朝が早い空気がひんやりとする時間。私は重い雰囲気を持った扉を叩く。


「失礼します。お嬢様。」


 しっかりと一声かけて部屋の中に入る。たくさんの花瓶の中にささった花束が朝日に輝いている。窓に手をかけゆっくりとカーテンを開ける。


「起きてください。お嬢様。今日から学園に通うんですよ。早く支度をしてください。」


 そう、言いながら彼女を起こす。


「もう、朝、、後、3分いや、1時間待って。」


 そう言い、また布団に潜ろうとする彼女を起こす。開かれた彼女の眼は何とも言えぬ輝きを持っていた。




 この世界には魔法というものが存在する。誰もが魔法を使えると多くの人が思っているが、実はそうではない。この王国でも人口の二割が無能力者と呼ばれる魔法が使えない人々だ。そんな人たちは奴隷送りになったり、戦地の歩兵として第一線で戦う。いわゆる、肉の壁となっている。だが、その逆に一割よりも少ない人々は神から魔法よりも尊い恵みを受ける。それが、神眼。その眼は魔力がこめられており、見ただけで多大な恵みをもたらすといわれている。その眼の中にも上下関係があり、片方の目だけ恵まれているものを半眼もち、両方の眼に祝福をうけたものを両眼持ちといい、両眼は神眼よりも希少だ。

 また、逆に魔眼と言われるものも存在する。主に違いは、神眼は創造の力を基盤として作られたもの。魔眼は破壊の力を基盤として作られたものだといわれ、魔眼持ちは忌み嫌われている。今でも、魔眼持ちを見つけた場合は、国に通報され、専用の施設に入れられる。これには賛成する貴族が多いが、実際は奴隷商に魔眼持ちを流しているのではないかという噂が絶えず流れている。

 だが、実際には魔眼を持つものは神眼と代わりはないとされているが、人々は今でも悪い印象を多く持ち続けている。


「メルト!聞いているの?メルト・コードグラス!」


 私は、彼女の声で今自分が王都に行くための馬車に乗っていることを思い出した。つい、ぼーっとしてしまったようだ。


「すみません。お嬢様。少し、緊張していたようです。」


「もう、あなたはただ、堂々としてればいいの。私の、一番の従者なんだから、自信を持ちなさい。このミントのお墨付きなんだから。」


 そう、自信満々に話すこの方は私の主人である。

 ミンドレシア・コーズロット様、この国で伯爵の地位をもつ、貴族のお嬢様である。そして、私はメルト・コードグラス。彼女の従者にして、彼女とあまり年が変わらないということから、昔から好かれていた。だが、彼女は両眼の神眼をもち、今では多くの婚姻の申し込みがきているとか。

 そんななか、彼女が十五歳の誕生日。伯爵様から、王都にある学園に通うように言われた。彼女はもともと秀才であり、あまり学力の心配はないのだが、人と接することは、将来的に必要とされるとして多種多様な人々や文化が集まる王都にある、学園に行くことになった。だが、この学園は、全寮制が適用され、従者は一人のみという規定があった。これは、この学園は従者の教育にも力を入れており、従者も一人の学生として受け入れるという教育方針があるからだ。


 そして、私は彼女の推薦と年が一番彼女に近いこともあり、彼女の従者として、寮内での生活の世話を任されたということになっている。だが、しかしそれは一つの理由でしかない。一番、私がお嬢様の一人の従者を任されたのは、私の戦闘能力の高さだと私は考える。私は元々貴族の生まれではなく、平民として生きてきたようなものだ。だから、周りの使用人の人よりは体力には自信がある。また、魔力を持っているため、魔法への対策ができることも大きいだろう。何より、私は大切な一人娘のミンドレシア様を任されたからには、命を張ってお守りするほかないだろう。ただ、一つ心配があるとしたら、私の学力としか言いようがないだろう。貴族の使用人の方々よりもどうしても劣ってしまう。マナーと言語には自信はあるが、それ以外は不安しかない。まだ、未来の話なのに疲れがたまっていくようだ。

 思わず、「はぁ〜」と大きなため息が漏れてしまった。


「どうしたの?メルト。私と一緒に行くのは嫌だった?」


「いえ、むしろ嬉しいです。ただ、私がお嬢様の顔に泥を塗るようなことをしないか心配で…」

「メルト、後ろ向いて。」


 そう言われ、少し驚いたがおとなしく後ろを向くと、首の当たりに違和感があった。そして、何がかみ合った音がすると、私の首には彼女のきれいな眼と同じ光を持った魔石が埋め込まれた、きれいなネックレスが首からかけられていた。


「お嬢様?!どうして、こんな高価な物を。」


「いいの。メルトに渡すために作ったものだから。一緒についてきてくれてありがとう。とても嬉しいわ。でも、ブレスレットのほうが良かったかしら。メルトはもう、チョーカーをつけてるものね。首あたりがジャラジャラしているのは迷惑かな。」


 そう、寂しそうな目を向けられる。だが、返事をするのに時間がかかってしまった。だが、それは肯定の意味での沈黙ではない。ただ私はとても嬉しくて、目から涙がたれていた。それに気づいた、お嬢様は困惑しながらも、私を慰めてくれた。


「本当にありがとうございます。とても、とてもうれしいです。一生の宝物にします。」


「そんな重く受け取らなくていいから、もう、メルトったら。これ使って」


 渡されたハンカチを受け取り、涙を拭いた。まだ、入学式でもないのに、泣くのは早すぎたようだ。


「王都に着きますよ」


と声をかけられ、窓から外を覗くと、大きな街がきれいに並べられ、たくさんの種族の人々で賑わっていた。


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読んでくださり、ありがとうございます。

更新する頻度はバラツキがあると思いますが、少しでも、面白いと思っていただけたら光栄です。

 また、誤字脱字や、文章的に違和感を覚える所などがあれば、教えていただけるとうれしいです。



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2024年12月18日 16:00

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