第3話

 「ねえ、怖い話、これで最後にしてよ。ほんとにもう限界だから。」


「えー、まだ聞きたいけど……まあ、最後なら仕方ないか。」


「で、どんな話にするの?」


「やっぱり一番有名なやつじゃない?」


「一番有名?……って、まさか、“知らない子”の話?」


「そう。それがうちの学校の怖い話の代表でしょ。」


「絶対怖いやつじゃん!」


「まあまあ、最後なんだから盛り上げたいじゃん。」


「“知らない子”の話って、どこまで本当なの?」


「さあね。みんなが同じこと言うから、ちょっとリアル感あるよね。」


「どんな話か教えてよ。一応聞いたことはあるけど、詳しくは知らないんだよね。」


「あれでしょ?帰り道で“誰か”に追いかけられるって話。」


「そう。その“誰か”は姿が見えないんだよね。足音だけが聞こえてくるの。」


「え、怖すぎる。足音が聞こえるのに姿がないって……。」


「でもさ、それってただの気のせいなんじゃないの?風の音とか、動物とか。」


「普通はそう思うよね。この話の怖いところは、足音がちゃんと“人間”の動きに合ってるってとこなんだよ。」


「人間の動きって?」


「例えば、自分が止まったら足音も止まる。歩き出したら足音も一緒に動き出す。しかも、だんだん近づいてくるんだって。」


「近づいてくる……?それ、本当に気のせいなのかな……?」


「それが、気のせいじゃないって言われてる理由なんだよね。」


「そんなの考えたくもない!」


「でもさ、話の核心ってそこじゃないんだよ。」


「え、まだ怖い部分があるの?」


「そう。だって、“知らない子”って、ただ追いかけてくるだけじゃないから。」


「じゃあ、何するの?」


「呼ぶんだって。」


「何て……?」


「“振り向いて”って名前を呼ぶんだよ。しかも、耳元で囁くように。」


「耳元!?それ、振り向いたらどうなるの!?」


「振り向いたら……終わり。」


「終わりって何!?」


「誰もその先を知らない。振り向いた人は、次の日から学校に来なくなるって話だから。」


「やだやだやだ!もう帰り道が怖くなる!」


「名前を呼ばれたら振り向きたくなるじゃん……。」


「そう。それが“知らない子”の狙いらしいよ。」


「狙いって……本当にいるの?“知らない子”って。」


「さあね。この話が昔からあるのは確かなんだよね。」


「昔から?どれくらい前からなの?」


「うちの学校ができた頃からって聞いたことある。」


「そんなに前から!?」


「そう。最初はただの“幽霊の噂”みたいな感じだったらしい。」


「それがどうして“知らない子”になったの?」


「わかんない。だんだん“足音が聞こえる”とか“名前を呼ばれる”って話が加わって、今の形になったんだって。」


「誰が最初に言い出したのか知りたい……。」


「それが誰なのかもわからないんだよ。先生たちも“夜遅くまで残るな”とか“帰り道は気をつけろ”って言うじゃん。」


「確かに。あれって本当は“知らない子”の話を知ってるからだったりして。」


「やめてよ!もう外歩けなくなる!」


「実際に体験したって人、いたよね?」


「いた!確か同じクラスの子が言ってた。“足音がずっと後ろから聞こえた”って。」


「それで、その子どうなったの?」


「……次の日、休んでた。」


「休んでたって……まさか、関係あるの?」


「さあね。すごく怖がってたらしいよ。“もう夜歩けない”って。」


「それだけ?その子、今は大丈夫なの?」


「今は転校したって聞いた。理由は知らないけど。」


「転校……それ、本当に“知らない子”のせいじゃないの……?」


「そうかもね。結局のところ、噂なんだよ。」


「噂って、火のないところに煙は立たないって言うじゃん。」


「だよね……。誰かが最初に体験したから広まったんでしょ……?」


「そう考えると、やっぱり怖いよね。“知らない子”って。」


「でもさ、この話、夜だけってわけじゃないらしいよ。」


「え、昼間も!?」


「そう。帰り道なら、時間は関係ないって聞いた。」


「やだ、もう本当に帰り道歩けなくなる……。」


「大丈夫だよ。噂だって!ほら、普通にしてれば何も起きないんだから。」


「普通って何!?どうすれば普通なの!?」


「わからないけど、無視するしかないんじゃない?」


「無視しても、名前呼ばれたらどうするの……?」


「だから、聞かなかったことにすればいいんだって。」


「無理だよ!耳元で囁かれたら絶対振り向いちゃうもん!」


「だから、“知らない子”に会わないようにするしかないね……。」


***


「本当に、怖い話はこれで最後だよね?」


「うんうん、これで最後。もうこれ以上話したら、私も無理。」


「“知らない子”の話って、やっぱり何度聞いても怖いよね。」


「そうなんだよ。だって、自分の名前を呼ばれるってのが一番ゾッとする。」


「名前を呼ばれるだけなら、まだいいけど……耳元で囁かれるって、もう完全にアウトだよね。」

「でもさ、そもそも“知らない子”って、本当にいるのかな?」


「わかんない。こういう話ってさ、どっかから生まれるんだよね。」


「そうそう。誰かが最初に体験したことが、噂になって広がったんだと思う。」


「その“最初の人”って誰なんだろうね。」


「それがわかんないから怖いんじゃない?だって、誰が広めたのかすら曖昧な話じゃん。」


「うちの学校だけじゃなくて、他の学校にも似た話があるって聞いたことある。」


「本当?」


「うん。ほら、“帰り道に誰かがついてくる”とか、“振り向いたら消える”とかさ。」


「ああ、聞いたことある。それってもう“知らない子”そのものじゃん。」


「うん。学校ごとに微妙に話が違うのがまた怖いんだよね。」


「例えば?」


「例えば、名前を呼ばれたら返事しちゃいけないとか、足音が一定のリズムで聞こえるとか……。」


「リズムって?」


「“知らない子”がついてくるときの足音が、普通じゃないんだって。」


「普通じゃないって、どういうこと?」


「タタッ、タタッ、って、妙に規則的なんだけど、途中で急に止まるんだって。」


「想像するとめっちゃ怖い……。」


「そのリズムって、人間っぽいよね。逆にそれが一番怖いかも。」


「確かに。“動物の音”とかじゃなくて、“人間の足音”なのがリアルすぎる。」


「やっぱり人間なのかな。“知らない子”って。」


「人間なら、逆にもっと怖くない?」


「……どういうこと?」


「だって、幽霊とかなら“そういうもの”って割り切れるけど、人間だったらさ……そいつ、なんでそんなことしてるの?ってなるじゃん。」


「あー、確かに……。ただの人間だったら、なんで名前を知ってるのかとか、どうやって耳元に来るのかとか、謎が多すぎる。」


「やだやだ!もう本当にやめたい!怖すぎるって!」


「知らない子って、もしかして……。」


「なに?」


「……いや、なんでもない。考えすぎだと思うし。」


「なにそれ!気になるじゃん!」


「本当にどうでもいいことだって。」


「あ、もうこんな時間なんだ・」


「もうそろそろ帰らないとだよね。」


「うん、時間も遅くなっちゃったし。」


「みんな、一緒に帰る?」


「私は反対方向だから無理かな。」


「あー、そうだよね。じゃあ、ここで解散する?」


「そうだね。今日も話しすぎちゃったし。」


「怖い話の後で一人で帰るの、やっぱりちょっと嫌だな……。」


「大丈夫だって。ほら、噂は噂だし。普通に帰れば何も起きないって。」


「そう思いたいけどさ……。」


「まあ、気をつけて帰ろう。じゃあ、また明日ね!」




「…ねえ」


「ん?どうしたの?」


「今日さ、一緒に話してた“あの子”って、誰だったっけ?」


「あの子?……え、誰?」


「ほら、最初からいたじゃん。“知らない子”の話、すごい詳しかった子。」


「あー、あの子。名前聞いたっけ……?」


「聞いてない。」


「……誰だったの?」


「……さあ?知らない子。」

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