第2話
「これでおしまいって言ったでしょ!」
「ちょっと面白かったじゃん。ほら、ただの噂だし。」
「噂だとしても、夜に思い出すじゃん!もうそういうのはやめたいの!」
「まあまあ、気にしないでよ。話してる分には何も起きないんだし。」
「何でこういう話って広まるんだろう?」
「そりゃ、怖い話って盛り上がるからじゃない?ほら、誰かが大げさに言ったのが元で……とか。」
「それが本当ならいいけどね。」
「いいけどって……他に何かあるの?」
「いや、例えば、何か本当にあった事件が元だったら怖いなって。」
「事件って、そんなの学校で起きたら大問題じゃん!」
「昔のことだったら、今は隠されてるかもしれないよ?」
「隠されてるって……それ、もうホラーじゃん。」
「いやいや、ただの推測だって。別に何か知ってるわけじゃないから。」
「あれ?何の話してるの?」
「わ!びっくりした……!急に話しかけないでよ!」
「ごめんごめん、ちょっと通りがかっただけなんだけど……なんか面白そうな話してたから。」
「面白いかどうかは微妙だけど、怖い話してたの。」
「怖い話?それいいね!何の話?」
「うちの学校の七不思議のこととか、トイレとか階段とか……。」
「あー、やっぱりね。うちの学校ってそういう噂多いもんね。」
「あ、詳しい?他にも何か知ってる?」
「うーん、まあ、ちょっと聞いたことある話とかなら……。」
「え、何それ!教えてよ!」
「本当に怖いけどいいの?」
「やだやだ!怖いならやめて!」
「でも聞きたいって言ってるし、どうせ昼間だし大丈夫でしょ?」
「まあ、気になるけど……本当にやばいやつじゃないよね?」
「やばいかどうかはわからないけど……ほら、図書室の話とか。」
「図書室?何それ?」
「夜遅くまで残ってると、貸出記録に名前が書かれてない本が棚に並んでるって話。」
「え、そんなの普通じゃないの?貸出記録なんていちいち見ないし。」
「違うんだよ。その本、名前が書かれてないどころか、どの棚にもないはずの本なの。」
「そんなの、たまたま戻し忘れたとかじゃないの?」
「そう思うよね。その本に触ると……次の日から誰もその人を見なくなるって。」
「えー」
「図書室の先生がその話を裏でしてたらしいんだよね。“あの本を動かすな”って。」
「そんなの聞いたら怖くて近寄れなくなるじゃん!」
「昼間は大丈夫だよ。ほら、実際に触る人なんていないしさ。」
「夜に残ったら……?」
「うーん、どうだろうね。図書室の奥って暗いから、そういうのが出てきてもおかしくない気がするけどね。」
「やだやだ!もうこの話やめよう!」
「まだ他にもあるよ。」
「何で他にもあるの!?」
「だって、学校ってそういう話が尽きないじゃん。ほら、体育館とかも。」
「体育館……?何かあるの?」「ほら、ステージ裏の鏡の話とか。」
「え、それ何?聞いたことない……。」
「夜に体育館で何かしてるとき、ステージ裏の鏡に映るはずのない“誰か”が立ってるってやつ。」
「やめて!本当に無理!」
「鏡の話って怖いよね。なんか特別感あるっていうか……。」
「特別感って、そんなのいらないでしょ!」
「昔の話だと、鏡って“別の世界への扉”って言われてるんだって。」
「やだやだ!そういうの本当に苦手だから!」
「あの鏡、昼間に見てもなんか違和感あるよね。」
「わかる!あの位置、なんであそこにあるんだろうって思う。」
「普通の鏡だと思ってたけど……そんな話聞いちゃうと、もう近寄れない。」
「でもさ、本当に映ったらどうする?」「どうするって……見ないよ!」
「見るなって言われたら、逆に気にならない?」
「気にならない!見たくない!」
「“誰か”が立ってたらさ、そいつ、こっち見てると思う?」
「やだ!考えたくない!」
***
「他にも何かあるの?」
「あるよ。だって、こういう噂って尽きないもんね。」
「もう十分怖いから!他の話題にしようよ。」
「他の話題にしたらそれはそれで怖くない?」
「どういうこと?」
「例えば、今こうやって話してるときに、誰かがこっそり聞いてるとか……。」
「もう!そういうのやめて!」
「ほら、聞いてないって証拠もないじゃん。」
「何それ!そんなの考えたら何も話せなくなるじゃん!」
「あー、それで思い出した。聞いたことある?“聞かれる話”。」
「聞かれる話?何それ。」
「学校で誰もいない教室とか廊下で、話をしてると誰かに聞かれてる気がするってやつ。」
「いや、それってただの気のせいでしょ?」
「そう思うでしょ。声を潜めたら逆に耳元で“もっと大きな声で話して”って囁かれるんだって。」
「ちょっと待って……それ本当なの?」
「噂だよ。何人も同じこと言ってるんだって。」
「同じことって……みんな囁かれるの?」
「そう。しかも、囁かれるたびにどんどん声が近づいてくるらしい。」
「実際には何も起きてないみたいだし、気にしすぎだよ。」
「いやいや、気にするよ!だってさ、囁かれたらどうすればいいの?」
「何もしなければいいんだって。気づかないふりをして、そのまま立ち去るのが一番らしいよ。」
「立ち去るって……声が近づいてきたら無理でしょ!」
「だから、近づかれた時点で……。」
「で?どうなるの?」
「わからない。誰もその先を話さないから。」
「考えてみると不思議だよね。どうして話してる内容を“聞かれる”んだろう?」
「聞かれるって……誰に?」
「それがわからないから怖いんじゃない?」
「そう言われると、なんか背中がゾワッとしてきた……。」
「背中とか言わないで!怖くなるから!」
「本当に誰かが聞いてたらどうする?」
「どうするって……無理。そんなの想像したくない。」
「話してる間に誰かが少しずつ近づいてきてたら?」
「やめてって!」
「いや、でもほら、こういうのって話さなければ平気だからさ。」
「いやいや、話してるじゃん!今、話してるじゃん!」
「まあ、確かに。この話って“場所”が関係してるんだよね。」
「場所って、どこで話すとヤバいの?」
「人気のない場所。例えば、夜の音楽室とか……。」
「音楽室!?」
「夜の音楽室って確かに怖いよね。ピアノの音が勝手に鳴るとか聞いたことあるし。」
「ピアノって……あの古いやつ?」
「そう。あれ、夜になると誰も触ってないのに、鍵盤が動くって話。」
「やだ!音楽室行けなくなる!」
「大丈夫だって。昼間は何も起きないから。」
「夜に何かあったらどうするの?」
「夜に音楽室にいることなんてないでしょ。」
「文化祭の準備とかで夜遅くまで残ったら……?」
「……まあ、その時はピアノに近づかなければ平気なんじゃない?」
「ピアノに近づかなければって……勝手に鳴り始めたらどうするの?」
「どうもしないで、無視するしかないでしょ。」
「無視できるわけないじゃん!鳴ってたら絶対に気になるよ!」
「ピアノの音を無視した方がいいんだって。無視しないと……。」
「しないと……何?」
「わからないけど、噂では、音がどんどん大きくなって……そのうち止まらなくなるって。」
「止まらなくなるって、どういうこと?」
「だから、ずっと響き続けるらしい。音楽室だけじゃなくて、校内全体に。」
「それ、本当に無理……。音楽室怖すぎ……。」
「怖いけど、なんか興味湧かない?」
「全然湧かない!」
「まあ、昼間は平気だし、大丈夫だよ。ほら、夜に残らなければいいだけの話でしょ?」
「噂ってさ、夜だけとは限らないじゃん……。」
「そういうこと言わないで!」
***
「もう他に怖い話ってあるの?」
「あるけど、これ以上聞きたい?」
「ちょっとだけなら……そんなに怖くないやつにしてよ!」
「そんな都合のいい怖い話なんてあるかなあ。」
「ほら、適当に軽いやつでいいから。」
「じゃあ、屋上の話とかどう?」
「屋上?なんか聞いたことある気がする。」
「夜に行くと鐘が見えるってやつだよ。」
「あー、それそれ!鐘を鳴らしたら消えるって話でしょ?」
「消えるっていうのが何なのか怖すぎるんだけど……。」
「でもさ、そもそも学校の屋上に鐘なんてないよね?」
「昼間はないらしい。だからこそ怖いんじゃない?」
「鳴らさなきゃ大丈夫なんだよね?」「多分ね。夜に残ること自体が嫌じゃない?」
「まあ、確かに。暗い学校ってだけで怖いもんね。」
「お前ら屋上の話してんのか?あれ、ほんと噂だけだぞ。」
「……何?急に入ってきて。」
「いや、聞こえたからさ。別に俺も話してたっていいだろ?」
「いいけど……知ってるの?屋上の話。」
「ああ、前に聞いたことある。鐘を鳴らすとどうなるとか、そんなやつだろ?」
「そうそう。それで鳴らした人がいなくなるとか……。」
「でもさ、そもそも屋上って鍵かかってるよね?どうやって鐘を見るの?」
「それな。俺も気になって調べたけど、誰も見たことないって言ってた。」
「じゃあ、やっぱり嘘?」
「まあ、噂は噂だろ。でも……なんか面白いよな、そういう話って。」
「全然面白くない!怖いだけなんだけど。」
「噂って元があるよね?何か本当の出来事がきっかけだったりとか。」
「あー、そういうのあるかもな。実際、昔の話とか?」
「昔って、例えば?」
「ほら、前に“屋上から誰かが落ちた”って話、聞いたことない?」
「……そんなの知らない。」
「初耳なんだけど。」
「ああ、結構有名だぞ?なんか、昔の生徒が事故で……とか。」
「ちょっと待って、それ本当なの?」
「さあな。ただの噂かもしれないし、実際に何かあったのかもしれない。その話が“鐘”に変わったんじゃないかって聞いたことある。」
「そういうの、本当に学校で起きてたら怖すぎるんだけど。」
「まあ、真相なんて誰も知らないよ。俺も噂で聞いただけだし。」
「鐘の話に繋がるのはちょっとリアルかも……。」
「だから噂が広まったんだろうな。話がどんどん盛られてさ。」
「それで“鳴らしたら消える”とかになったんだね。」
「そうそう。消えるって言われたら鳴らしたくなくなるよな。」
「鳴らさないし、そもそも屋上なんて行かないから関係ないけどね。」
「だな。俺もわざわざ行こうとは思わないし。まあ、話題にするにはちょうどいいよ。」
「で、話題だけ作って去るの?」
「おう。ほら、怖い話は女子の方が盛り上がるだろ?じゃ、頑張れよ。」
「……行っちゃったね。」
「ほんとに言いたいことだけ言って消えたね。」
「なんか、鐘の話が余計リアルに聞こえてくるんだけど……。」
「わかる。さっきの“落ちた”って話、めっちゃ怖いんだけど……。」
「やっぱり屋上行くの絶対やめよう。」
「うん。もう屋上だけじゃなくて、この学校自体、ちょっと怖くなってきた。」
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