第2話
俺はエロ漫画の描き方を勉強する為、国枝さんの家にあるというエロ漫画を読むことになってしまった。
国枝さんの家は、いわゆる団地にあった。正直、彼女のイメージとは少々違った。国枝さんって、てっきりどこかのお嬢様だと思っていた。文武両道で上品だったから。どうやらそれは俺の偏見であったようだ。
「はやく上がって」
「なあ、ご両親は?」
「母なら今頃働いているよ。父はいない。うちは母子家庭なんだ。だから、しばらく親は家にいないよ」
「そうなのか、苦労してるんだな」
「まあね。だから早くエロ漫画を完成させて、いっぱい稼いで母に楽をさせてあげたいんだ」
「それはべつに、エロ漫画じゃなくてもいいだろ? バイトとかさ」
「わかってないな。ちょっとやそっとバイトしたくらいじゃ、大学費用は稼げない。もっとドカンと稼がないと。だからエロ漫画なのさ」
「エロ漫画って、そんなに稼げるものなのか?」
「今に分かるよ。私たちのエロ漫画が完成すればね。さ、エロ漫画貸すから早くきて」
俺は国枝さんに招かれて、家の中に上がった。家の中はそれほど広くなかったため、彼女の部屋にすぐたどり着く。
「ここが私の部屋だ」
そう言って彼女が部屋の扉を開ける。彼女の部屋はそれほど広くなかったが、大きな本棚があった。その本棚は半分は勉強に使う参考書、もう半分はエロ漫画で埋められているようだ。
「見てくれ、これが私のコレクションだ。凄いだろう? 少ない小遣いで集めたんだ。さ、好きな本を選んでくれ。どれでも貸してあげよう」
「選んでくれと言われても……」
女性の前で、エッチな本を選ぶのはかなりの抵抗があるぞ。国枝さんに、選んだ本の趣味があると思われてしまう。ど、どういう内容なら無難なんだ? いや、エロ漫画に無難などないのか?
「ふむ、素人には選びにくいか。仕方ない、私がいくつか参考になるオススメを選んであげよう。ええと、これとこれと……あとこれも読んでほしいな、それからこれとこれ」
俺が悩んでいると、国枝さんが代わりにエロ本を選び始めた。
楽しそうにいくつものエロ本をピックアップする国枝さん。俺の前にエロ漫画が山積みにされていく。
「ちょ、ちょっと待って。一度にそんなにたくさんは読めないよ?」
「それもそうか。ひとまずこのくらいにしておこう。さあ読んでくれ」
「今ここでか?」
「当たり前だ。読み切れない奴は持ち帰ってもいいが、これとこれは今感想が聞きたい。すぐに読んで」
そういって、国枝さんは二つのエロ漫画を俺に押し付けてきた。何かを期待した目で俺を見つめている。
「見られながらだと、ちょっと読みにくいんだけど?」
「私の事は気にしないでいいから。私も別のエロ漫画読みながら、君が読み終わるのを待ってる」
「ええ……?」
国枝さんと二人きりの部屋で、エロ漫画を読むの? そんなの、とても集中できそうにないんだが? 国枝さんは男と二人っきりだという事をちゃんとわかっているのだろうか?
「ふふ、二人きりの部屋でエロ漫画読むの、なんだか興奮するね? こういうシチュエーション、エロ漫画にありそうだ」
「……」
そういうの、思っても口にしないで欲しかったな。言われてしまうと、余計に意識してしまう。
こうして俺たちは、国枝さんの部屋で黙々とエロ漫画を読むことになった。
気が付けば俺は、何冊もエロ漫画を読んでいた。国枝さんのコレクション、めちゃめちゃ面白い。エロ漫画って、エロだけではなかったのか。俺はエロ漫画に対して、少し偏見を持っていたようだ。俺はそのオトナ向けのストーリーに魅了されていた。
そうしてまた一冊読み終え、顔を上げた時だ。俺は信じられない物を目にした。
「く、国枝さん!? なんですかその格好!?」
国枝さんが、とんでもない姿で部屋に居たのだ。なんと、ビキニタイプの水着姿になっていたのだ。白だ。俺がエロ漫画に集中している間に、いつのまにか着替えていたらしい。
「どうも君は、女性の体を描くのが苦手みたいだから。私が実物を見せてあげようと思って。実際に見たほうが参考になるだろう?」
「そりゃとても参考になりますが……その、国枝さんは恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしいよ。だからいいんじゃない。恥じらいが無いと、エロくない。ほら、私の恥ずかしい姿を目に焼き付けて参考にして。君の読んでるエロ漫画のヒロインと同じポーズするから。今どこ読んでる?」
「く、国枝さん!? 近い近い!」
水着姿で俺の手元のエロ漫画をのぞき込むものだがら、あまりの近さにドキドキしてしまう。
「ふむふむ、今はこのシーンか。ここのヒロイン、すごくエッチだよな。ええと、どれどれ、足はこう開いて……」
エロ漫画を見ながら、あられもないポーズになる国枝さん。刺激が強すぎて、俺には直視できない。
「こらこら、どこを見てる? せっかく恥ずかしいの我慢してポーズしてるんだから、ちゃんと見て参考にして」
国枝さんの刺激的な姿を見ていると、あっという間に時間が過ぎていく。
こうして俺たちは、遅い時間までエロ漫画の勉強をしたのだった。
それからさらに数日が経ち、ついに国枝さんにも納得してもらえるようなエロ漫画が完成した。いや本当に苦労した。
で、完成したエロ漫画をどうするのかというと、国枝さんは電子書籍として販売するつもりらしい。俺はそのあたりの事をよく知らなかったのだが、電子でなら個人でも簡単に書籍が発売できるようだ。紙に印刷して本にするのは、売れてからと言っていた。
そして間もなく俺たちのエロ漫画が配信されるという段階で、俺は国枝さんの家に急に呼ばれた。
「はあ……」
そこにはとても憂鬱そうな国枝さんの姿。
「どうしたの、国枝さん。もしかして俺たちのエロ漫画に何か不安が?」
「いや、そっちは大丈夫だ。完璧だよ。間違いなく売れる」
国枝さんは自信ありげに言い切った。いったいどこからその自信が湧いてくるのやら。
「じゃあ一体何に悩んでるんだ?」
「変態絵描き君。君のあまりにもなヘタレっぷりにさ」
「……へ?」
「女子の部屋に呼ばれて、二人きりでエロ漫画読んでそのあとなにもしないで帰るってどういうこと!? 恥ずかしいの我慢して、エロいポーズまでしたのに。エロ漫画ならとっくに何度も押し倒されてたよ!」
「いやいや、現実はエロ漫画じゃないんだから」
「もう! 私はエロ漫画みたいなことがしたかったの! だから君を選んだのに! 君はエロ漫画読んで何も学ばなかったのか!?」
「ええ……?」
「君は私が好きなんだろう? SNSにそう書いていたはずだ。それならば、隙あらば押し倒せ。――それとも、実は私のことなど好きではないのか?」
そういうと、どこか不安そうに俺を上目遣いで見上げる国枝さん。
「いやその……好きです。でも、まだ付き合ってもいないのに押し倒すのはどうかと……」
「ならさっさと告白しろ! そして押し倒せ! エロ漫画みたいに! エロ漫画みたいにだ! 私はそれを期待している!」
「そ、そんなこと急に言われても」
「――はあ、わかった、じゃあ先に約束してくれ。もし私たちのエロ本がたくさん売れたら、私を押し倒して告白すると。エロ漫画みたいに。いい?」
「は、はい」
確かに俺は国枝さんが好きだ。いつか付き合いたいとも思っていた。でもまさか、こんな形で告白を迫られるとは。
しかしまあ、素人の俺たちが描いたエロ漫画が、そんな簡単に売れるということもないだろう。告白はしばらく先になりそうだ。
――と、思っていた。
ところが、結論から言うと爆売れした。俺たちは一気にお金持ちになった。俺たちはエロ漫画家として名をはせたのだった。そして結婚した。
告白した日の出来事はまあ、いつか俺たちの描くエロ漫画になるかもしれないな。
国枝さんはエロ漫画が作りたい セラ @sera777
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