第2話
俺が喫茶『猫の夢』を開いてから数週間が経過した。
客の出入りはまちまちで、気持ち空いている時間の方が多いといった感じか。
俺が最初にイメージしていた「如何にも潰れそうな喫茶店」からは若干違うが、それでも暇な時間が多いのでスマホでゲームをして時間を潰している。
今のところ俺一人で動かしているが、いずれ「潰れちゃいますよー」って言ってくれるようなアルバイトを募集した方が良いかもしれないな。
暇だったとしても、一人だけで動かしているというのはあまりにも不自然だし、ていうか繁盛期が仮にやって来た時に客に迷惑を掛けてしまう。
しかしその場合、お給料はどれくらいが良いだろうか?
要相談で人によって見合ったお金を出したい気分だが、それだと絶対に人はやって来ない。
とはいえここで最低賃金1500円とか書いたらどうなってしまうか。
人が来てくれるか、あるいは警戒してだれも来ないか。
どちらだろう。
迷った末、結局最低賃金1400円で要相談と書いて張り紙を店の外に張り付けておく事にする。
一体いつ頃になったら募集の子がやってきてくれるか、一応ここら辺には近くに学校があるので学生が募集に釣られてやって来る可能性はある。
あるいは、一応その学校にもある程度恩があるので、校長にさりげなくそのような話を通してみるのもありかもしれない。
なんにせよ、今日は雨が降っているので誰も来ないだろう。
わざわざ傘を差してくるような店でもないし、あるいは雨宿りで入って来る奴がいるかもしれない。
そう言う時の為にフリーで提供出来る生姜スープを用意しているのだが、今のところこれを振舞った事はない。
美味しいのに、残念。
なんて、思っていたら。
からん、ころん。
店の扉が開かれる音が聞こえた。
「いらっしゃ――」
なんかずぶぬれでかつ、血痕が付着した制服を着た女の子が立っていた。
「……」
お客さん、如何にも非日常の住人って感じの見た目っすね。
例の学校の生徒なのか、そこの制服を着た少女。
銀色の長髪で緑色の瞳をしている。
童顔だが、しかしその下にある胸はとても豊満だった。
……若干だけど、硝煙の匂いがするな。
銃か?
いやでも、こんな小さな子が銃の匂いを漂わせ――ブレザーの上着に隠してるな。
まあ、今はどうでも良い。
「はい、これ。タオルを使ってくれ」
俺は近くに置いてあった乾いたタオルを彼女に差し出す。
それに対し、少女は驚いたような表情をする。
「聞か――ないの?」
「ん?」
「私が何か、聞かないの?」
「あー、それ。長い話か? だとしたら風邪ひくかもだから、まずはちゃんと身体を拭いてからにしてくれ。シャワー室を貸しても良いし、着替えも一応あるにはある」
アルバイト用に用意した奴だけどな。
そう言う俺に彼女は小さく「こくり」と頷いて見せる。
とはいえ、シャワーは使わないだろうとは思った。
その場合、絶対服に隠された銃を見られると思うだろうし、俺だったら絶対にその危険を冒したくない。
という訳で沢山のタオルを用意して服を含めて拭かせて、その間に飲み物の生姜スープを提供する。
「ほれ、飲みな。美味しいから」
「ありがとう……」
ふーふー、と冷ましてからゆっくりとカップに入ったスープを飲む。
思わずと言ったように「美味し」と口にする彼女に俺は内心ガッツポーズをする。
「そうか、美味しいか」
「うん。とても身体が温まる」
「自慢の奴なんだけど、全然飲んでくれる人がいなくてさー。君がそう言ってくれてとても嬉しいよ」
「……その」
彼女は店内に張られていたアルバイト募集のチラシを見、俺に尋ねてくる。
「アルバイト、募集しているの?」
「ん? ああ、そうだな」
「それは、私みたいな子でも、大丈夫?」
「いや、それは大丈夫だけど」
「私、それに応募しても良い?」
その言葉に少しだけ躊躇する。
というか、厄介事を持ち込ませたくなかった。
しかしここで断ったら彼女が危険な場所に飛び出していきそうだったので、俺はしばし思考した後「……問題ない、けど」と答えるしかなかった。
「それじゃあ、試しにしばらくここの制服を着て働いてみるか?」
「うん――あ」
「どうした?」
「迎田茜」
彼女はうっすらと微笑んで言う。「私の名前、だよ」
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