第4話 処女作の執筆

 そもそも八時間の制限時間内に、最低五十枚以上も原稿用紙を埋めることが僕に可能だろうか。


 いっそ、僕のような未経験者にとっては思いつくままに原稿と向き合うほうが、逆に戸惑いが少ないのかもしれない。


 とは言え、女性経験が皆無……というか、ぶっちゃけ童貞の僕に果たして試験官を納得させるだけの官能小説書けるだろうか。


 ありふれたストーリーやキャラだと他のライバルたちとの差別化が難しい。

 ともあれ、ひと通り思い浮かべるだけのアイディアをノートに羅列してみた。


 テーマというか題材は『幼女』だったな。

 外見は成人女性だが中身は幼女……とかはありきたり。

 幼女型ロボットとかだと最悪だ。ち×ぽも勃たんだろう。

 他の異世界転生希望者たちも悩んでる様子だ。

 法律で幼女との性行為が許される国だったら? 

 どこにそんな寛容な国があるというのだ?!

 少なくともこの国では一発退場だよ。


 なら、こんな変化球はどうだ?

 今現在自分が置かれている現状をそのまま、原稿に落とし込んでいくのもありだろう。

 ちなみに出だしはこんな感じで……。


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 自分の前には一枚、A4サイズの用紙が置かれている。

 僕は筆記用具の中からボールペンを選んで、一枚目の原稿用紙にペンを入れた。

 机の上に置かれたその紙には【幼女を題材に官能小説を書け。枚数は原稿用紙五十枚が下限。上限はなし。制限時間は八時間。その後は合格者一名の発表を以て異世界転生希望者の選抜試験は終了。合格者はその後、然る手続きを終えると直ちに異世界へ旅立ってもらう。また、不合格者二十九名は、ここでも記憶を全て消されて、以前通りの生活を送ってもらうこととする】と、簡潔だがやや高圧的な文言が記されていた。

「八時間後に再び、私は戻って来る。それまで、せいぜいエロい官能を一本書き上げるんだな!」

 小学五、六年くらいにしか見えないロリ試験官はそう言い残して教室を出ていった。

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 ここまでは、これまでの状況を踏まえての導入部分だ。

 主人公は、極々平凡な二十代後半の会社員でいいだろう。

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 その日の夕方。会社を定時に上がっての自宅ワンルームマンションへの帰り道。翌日は土曜で休日だ。ふと西の空を見ると、今までに見たことのない……面妖で気味悪い、まるで真っ赤な血を空にばらまいたかのような夕日が僕の目に飛び込んできた。

 赫色とオレンジ色がグラデーションを織りなし、美しくもあるのだが、僕には……そう、まるでこの世の終わりを告げているように感じられた。

 僕は鬱屈とした気分のまま、その場を一刻も早く立ち去ろうと早足でマンションに向かった。

 マンションまで二、三分のところにある氏神様を祀った小さな神社の前を通りがかった時だ。僕の目に神社の賽銭箱に背を持たれてしゃがんでいる女の子……いや、服装や髪型から大人の女性のようだ。

 人目もあって治安は良いとはいえ、こんな人気のない神社でうずくまっているなんて……。

 その女性のことが心配になって、普段なら通り過ぎているところだが、なぜが放っておけなくて女性の近くまで近づいていった。

「あの~、大丈夫ですか? 僕にできることがあれば言ってください」

 するとその女性が顔を上げた。

 整った顔立ちの小顔の女性だった。化粧っ気のないすべすべの肌をしている。歳は……二十歳前後だろうか。肩まである髪はクシャクシャで、泣いた直後のように目は充血していて今にもまた泣き出しそうな、そんな不安そうな表情を浮かべていた。

 かなり落ち込んでいるのは明らかだ。危うい感じがして、このまま黙って放置しておくわけにもいかない。

 僕は改めて、怪しい者ではことが彼女に伝わるように、慎重に言葉を選んで彼女に語りかけた。

「しばらく僕があたりを見守っていますから、落ち着いたら泣いている理由を話して下さい。すこし頼りないけれど、力になれることがあるかもしれませんし」

 目を両手でこすりながら女性がようやく口を開いた。

「捨てられた……。男に捨てられたーっ!」

 彼氏にフラれた……ということらしい。その女性はしゃくりあげながら声を絞り出すようにして話し始めた。しかし、まだかなり情緒不安定なようだ。

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 その後は一気に、思いきいり想像できうる限りのエロいシーンを叩きつけるように書き綴った。

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「ひん、ひ~~、あう……、い、イクううううううー!」女は、声を張り上げ、鳴き叫ぶように歓呼の雄たけびをあげて、クライマックスを極めようと一心不乱に腰を僕の恥骨に打ち付けながら、女はついにその瞬間を迎えた。

                         

                                   〈終〉                          

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