第3話 ロリ試験官の出した課題は……

「諸君らには一本の小説を書き上げてもらう」

 教室内の受験者らからは、即座にネガティブな反応が沸き起こった。

「小説ってマジかよ? 俺、国語は大の苦手科目なんだが」

「私、国語の教科書以外で小説なんて読んだこと無いんだけど」

 小説は試験勉強対策で問題集の例題文を読む程度だ。僕にとってはどうでもいいことだが、他の受験者たちにとっては切実な問題らしい。そもそも、元々の僕のモチベーションが低すぎる。いまだに、現在自分が置かれている状況に違和感を覚えている。

 異世界とか、転生とか、全く興味が無いとは言わないが、自分から積極的にそれらの分野にアプローチしたこともない。

 試験官には受験者らの声は届かない。


「数ある小説のジャンルから、君たちに書いてもらう小説はズバリ官能小説だ!」

 教室のあちらこちらから、またしてもどよめきが湧き上がった。

「ミステリーやSF、時代小説だとハードルが高いし、君等には無理そうだ。そこで公平で別け隔てなく誰もが書きやすいジャンルとして、官能小説……わかりやすく言うとエロ小説を選択した次第だ」

 一々言い直さなくても分かるって。

「それって、男性に有利なのでは? と納得できない女子もいるだろう? しかし官能小説は関してそれは当たらない。女子には女子なりの経験や夢想するシチュエーションがあるはず。非処女は過去の経験を活かすもよし、経験の無いものは妄想する初体験を原稿用紙に叩きつけるもいいだろう」


「ただし、BLモノや百合系はNGとさせて頂く」

 まあ、真っ当な判断だろうな。

「制限時間は八時間。原稿用紙五十枚以上であれば上限は無い。文字数の制限も無い。ただし、完結していることが条件だ。原稿の評価採点は、厳正に行われるから安心してほしい」

「厳正な審査とか言われても信じられないわ」

「もう少し情報の公開があって然るべき」

 との、尤もな意見が教室内から上がるが、試験官はそれらのクレームを一切受け付けない。

「最後になったが、諸君らに書いてもらう官能小説のジャンルをこれから発表する」

 教室に集められた、転生希望者の注目が再び試験官に集まる。

「ジャンルはズバリ『幼女』だ!」


 途端、教室のあちこちから一斉に動揺を隠しきれないどよめきと、反感を露わにした声に試験官を名乗る少女が毅然と答える。


「別に官能小説を書くことに異議はないのですが、そのテーマにちょっと……いや、かなり問題が有るように感じるというか……」

 僕に最初に声を掛けてきた中年男性が、ここにいる三十人の総意ともいえる模範的な反論を試験官に投げかけた。

「そうだ、そうだ!」

 教室の中にいる者達かが一斉に声をあげる。

 それには僕も異論は無い。

「そこは、当然のこと君らの裁量と技量に委ねられることになる」

 ロリ試験官は問答無用でその意見を突っぱねた。

「当然、常識の範囲内で書いてもらうことになる。リアルに幼女をヒロインに仕立て上げ、凌辱の限りを尽くすエロジジイが主人公などといったストーリーは却下だ。即、ゴミ箱行きだから心しておけ。そんなわけで、そのへんのデリケートな障壁は、君たちの創意工夫で乗り切ってもらいたい」


 まあ、世間一般的なイメージとしては間違ってはいないが、多少偏見を含んでるようにも思う。

 机の上にはすでに四百字詰め原稿用紙がうず高く積まれている。

 五百枚……? いやもっとありそうだ。

 その脇にはボールペンと鉛筆、万年筆、消しゴム等も用意されている。

 普段パソコンで文章を書くことが一般的な時代だ。

 しかも、自分とは縁遠い小説を執筆せよなどと言われても何から始めればいい?    予めあらすじなりプロットと呼ばれる設計図を書くことからか? いやいや、そんな回りくどい作業は余計に時間を浪費するだけだ。

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