第4話 結

「しっかりしろ!」


「……目の前に……いる……」


「いるって……何がだよ!?何が見えるんだ!?」


「……わからない……でも、顔が……」


「顔!?顔がどうした!?」


「たくさんある……全部違う顔が……笑ってる……」


「そんなの嘘だろ!?目を閉じろ!見なければ大丈夫だ!」


「無理だよ……目が勝手に開く……」


「勝手に!?何言ってんだよ!お前、俺の声聞いてるだろ!?」


「聞いてる……でも、笑い声が消えない……」


「声なんか気にするな!俺がここにいる!絶対助ける!」


「……手を掴んで……お願い……」


「掴むぞ!離れるなよ!一緒に逃げるからな!」


「……冷たい……でも、まだ届く……」


「届くって、何がだよ!?もっとしっかり掴め!」


「無理……足元が崩れてる……引っ張られてる……」


「崩れる!?何だそれ!?絶対に離れるな!」


「でも……引っ張られる……どんどん下に……」


「下にって……床がないのか!?」


「わからない……でも、足がどんどん沈んでいく……」


「嘘だろ!?俺の方に来い!引っ張るぞ!」


「……手が届かない……どんどん遠くなる……」


「まだ間に合う!俺を見ろ!こっちだ!」


「無理だよ……もう何も見えない……全部暗い……」


「暗いって……お前、どこに行ってるんだ!?」


「……引き込まれる……もう……無理……」


「無理じゃない!まだ俺がここにいる!絶対助ける!」


「……ありがとう……でも、もう届かない……さよなら……」


「さよならって何だよ!?行くな!戻って来い!」


「……全部、影に……」


「影って、何だよ!?言えよ!……おい!返事しろ!おい!!」


「おい!まだいるのか!?返事しろよ!」


「……聞こえる……?」


「聞こえる!どこだ!?どこにいる!?」


「……わからない……暗い……何も見えない……」


「暗いって、何がだよ!?目を閉じてるのか!?」


「違う……目は開いてる……でも、何もない……全部が真っ暗……」


「絶対諦めるな!俺が助けるから、声を聞け!」


「……声……どんどん遠くなってる……」


「遠くなってるって、そんなことあるかよ!お前、ここにいるだろ!」


「……もう……手も届かない……冷たいものが……」


「冷たいものって、何だよ!?何かに触られてるのか!?」


「……掴まれてる……引っ張られてる……もっと下に……」


「下に!?下って何だ!?床があるだろ!?」


「……ない……どんどん沈んでいく……終わりみたい……」


「終わりじゃない!まだ間に合う!俺が引っ張るから、手を伸ばせ!」


「……無理だよ……もう、力が入らない……」


「力を出せ!諦めるな!ここから一緒に出るんだ!」


「……でも、もう足が……何も感じない……消えていく……」


「消えていくって……何言ってんだよ!?そんなことあるわけないだろ!」


「……声が……また聞こえる……近づいてくる……」


「声!?また笑い声か!?」


「……違う……今度は囁いてる……耳元で……」


「囁いてるって、何をだよ!?」


「……『早く来い』って……何度も……」


「来るな!絶対に行くな!そいつの言うことなんか聞くな!」


「でも、足が……勝手に動いてる……止められない……」


「止められる!俺がここにいる!絶対に引き戻す!」


「……ありがとう……でも、もう届かない……光もない……」


「光がない!?俺、懐中電灯を照らしてるだろ!見えるはずだ!」


「……光が遠い……全部、暗闇に飲み込まれてる……」


「光なんか消えるはずない!俺がここにいるんだ!お前を連れ戻す!」


「……でも、笑い声が……もう耳の中いっぱいで……消えない……」


「無視しろ!その声なんか気にするな!俺の声だけを聞け!」


「……無理だよ……声が、全部を覆ってる……逃げられない……」


「逃げられる!絶対にだ!お前が諦めなければ戻れる!」


「……でも、目の前に……扉が……開いてる……」


「扉なんか入るな!そっちに行くな!」


「……もう遅い……引き込まれてる……」


「引き込まれてるって……何が!?誰が引っ張ってるんだよ!?」


「……影が……たくさんの影が……全部一緒に……」


「影が!?影なんかに負けるな!手を伸ばせ!まだ間に合う!」


「……ありがとう……でも、もう無理……力が抜けていく……」


「無理じゃない!俺が助ける!声を出せ!」


「……声も出ない……もう……全部が消えていく……」


「嘘だろ……まだ大丈夫だろ……返事しろよ……」


「……」


「おい……聞こえてるか!?返事しろ!おい!!」


「……」

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