第3話 転

「止まれって言ってるだろ!どこに行くんだよ!」


「わからない……でも、奥に行かなきゃいけない気がする……」


「奥って、何があるんだよ!?出口じゃないだろ、絶対に!」


「出口かどうかなんてわからないけど……呼ばれてる……」


「呼ばれてる?誰にだよ!?そんな声、俺には聞こえないぞ!」


「聞こえるんだよ……はっきりと……『来い』って……」


「来るな!それ絶対おかしいだろ!お前、正気か!?」


「正気かどうかなんてもうどうでもいい……動かなきゃ、もっと怖い気がする……」


「怖いって……何が怖いんだよ!行ったらもっとやばいことになるって、普通わかるだろ!」


「でも……ここで止まったら……もっと酷いことになる気がする……」


「酷いことって、何だよ!?具体的に言えよ!」


「わからない……でも、このままだと全部が終わる……」


「お前……何言ってんだよ!全部終わるって、どういう意味だよ!?」


「わからないけど……足が止まらないんだよ……引っ張られてるみたいで……」


「引っ張られてる?誰にだよ!?何もいないだろ!」


「でも、感じる……背中に……冷たい何かが……触れてる……」


「嘘つくなよ!そんなのいないって!」「嘘じゃない……ほら、今も……」


「本当に触れてるのか?お前、大丈夫か?」


「わからない……でも、動かないと……もっと近づいてくる気がする……」


「近づいてくるって……何がだよ!?何も見えないぞ!」


「……影みたいな……黒い何か……輪郭がぼやけてて……」


「影……?そんなのどこにもないだろ!」


「でも、見えるんだよ……目の端で……はっきりは見えないけど……」


「もういい!行くのをやめろ!無視しろ!」


「無視できない……もうここまで来たら後戻りできない……」


「後戻りできる!俺が引っ張るから戻るぞ!」


「……でも、もう遅い……声がもっと近づいてる……笑ってる……」


「笑い声……?何言ってんだよ!そんなの聞こえない!」


「聞こえるんだよ……耳元で……囁いてるみたいに……」


「囁いてる……?何をだよ!?」


「『早く来て』って……何度も何度も……」


「振り向け!俺の顔を見ろ!そんなの信じるな!」


「振り向けない……背中が重い……誰かが乗ってるみたい……」


「背中に誰か!?そんなのありえない!錯覚だ!」


「……錯覚ならいいけど……でも、これ……冷たすぎる……」


「冷たいって……何かがいるのか?」


「わからない……でも、笑い声だけが耳の中で響いてる……」


「まだ戻れる!手を伸ばせ!俺が絶対助けるから!」


「……もう扉が見える……目の前にある……」


「扉!?そんなの開けるな!絶対にだ!」


「でも、開けなきゃいけない気がする……これを開ければ……全部が……」


「全部が何だよ!?言えって!」


「終わる……全部が終わる……でも、終わらせないといけない……」


「おい!そんな扉、開けたら絶対に戻れなくなるぞ!」


「……わからない……でも、止められないんだよ……」


「待て!俺が止める!」


「……扉が開く……勝手に……」


「止めろ!絶対に開けるな!」


「でも、もう動いてる……何かが押してる……」


「押してるって……何がだよ!?」


「わからない……でも、力が強い……」


「お前、そっちに行くな!離れろ!」


「無理だよ……足が止まらない……」


「なんで止まらないんだよ!戻って来い!」


「……扉の向こう、何かいる……」


「見るな!絶対に見るな!」


「でも、動いてる……影みたいなのがたくさん……」


「影!?どれくらい近いんだよ!?」


「すぐそこ……もうこっちを見てる……」


「お前……本当に見てるのか!?目を閉じろ!」


「無理だよ……目が離せない……」


「何が見えるんだよ!?言えよ!」


「……人みたいだけど……顔がぼやけてる……」


「顔がぼやけてる!?それ、本当に人なのか!?」


「わからない……でも、動いてる……たくさん……こっちに……」


「たくさんって、何体だよ!?」


「数えきれない……部屋中いっぱい……」


「嘘だろ!?こんな狭い場所にそんなにいるわけないだろ!」


「でも、本当にいる……ほら、声も……聞こえるでしょ?」


「声って……笑い声か……?」


「うん……耳元で……どんどん大きくなって……」


「振り向くな!絶対に後ろを見るな!」


「でも、背中にも……何かが触れてる……」


「触れてるって……逃げるぞ!手を掴め!」


「無理だよ……動けない……全部が重い……」


「重いって……何が重いんだよ!?」


「わからない……でも、足も冷たい……」


「冷たい?それ、本当に触られてるのか?」


「うん……何かが足元を引っ張ってる……」


「引っ張ってる!?離せ!こいつを離せ!」


「やめて……もっと強くなる……」


「もっと強くって……今度はどこだ!?何が動いてる!?」


「扉の向こう……全部こっちに来る……」


「全部って、何が!?影か!?それとも声か!?」


「両方……影も声も……一緒に近づいてる……」


「振り向くな!絶対にだ!」


「無理だよ……これ以上は……耐えられない……」


「耐えられる!俺がここにいるだろ!絶対助けるからな!」


「でも……もう笑い声が……頭の中を埋め尽くしてる……」


「無視しろ!声なんか聞くな!」


「無理だよ……声が……何かを呼んでる……」


「呼んでるって……誰をだよ!?俺たちか!?」


「たぶん……でも、もう遅い……扉が……開ききった……」


「嘘だろ!?何が見えるんだ!?」


「……全部……全部がこちらを見てる……」


「全部って、何だよ!言えよ!」


「……笑ってる……全部の影が……」


「影が笑ってる……!?目を閉じろ!」


「無理だよ……目が離せない……こっちに来る……」


「こっちって……どこだ!?何が来るんだよ!?」


「全部が……一つになって……近づいてる……」


「一つになって……それは何だ!?」


「……わからない……でも、もう……目の前……」


「目の前って……どこだ!?お前、大丈夫か!?」

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