第2話 承

「振り向くなよ!」


「だって、すぐ後ろから……誰かいる!」


「いるとか言うな!絶対見るなよ!」


「でも、足音……聞こえるでしょ?ほら、ゆっくり近づいて……」


「だから言うな!そういうこと言うと、本当に来るだろ!」


「もう、ダメだ……何かが触れた気がする……肩に……」


「おい嘘だよな?嘘だと言えよ!」


「振り向いてもいい?これ、見ないとわからないでしょ?」


「ダメだって!振り向いたら終わりだ!」


「でも、このままじゃ耐えられない……」


「手を握れ!一緒にここから出るぞ!」


「え、どこに?でも、後ろにいるのに……」


「だから振り向くな!絶対にだ!俺が先に引っ張るから、ついてこい!」


「うん、わかった……でも、手が冷たい……」


「冷たい?誰の手だよ?しっかりしろ!」


「あなたの手……じゃない……」


「何言ってんだよ!俺、ちゃんとお前の手握ってるだろ!」


「でも、もう一本の手が……ほら、誰かが握ってる……」


「やめろ、嘘だって言えよ!」


「本当に……誰かいる!後ろにいるんだよ!」


「絶対話すな!とにかく走れ!」


「走るって、どこに?出口がわからない!」


「ライト、前を照らせ!出口探すぞ!」


「でも、暗くて……後ろの気配が……ついてきてる……」


「気配とか言うな!気づいたら負けだ!黙って走れ!」


「でも、声が聞こえる……笑ってる……」


「聞こえない!何も聞こえない!俺たちは逃げられる、絶対だ!」


「でも、笑い声が止まらない……追いついてくる……」


「嘘だ!そんなの全部嘘だ!お前、しっかりしろ!」


「ほら、そこ……扉が……!」


「扉?出口か?」


「うん、たぶん……開けてみる……」


「気をつけろよ!開ける前に確かめろ!」


「……開いた!これで外に出られる!」


「よし、急げ!扉を閉めて……」


「……待って、外……真っ暗……」


「なんだよ、それ。外だろ?どうして暗いんだよ?」


「わからない……でも、出たはずなのに……音が止まらない……」


「マジで何が起きてるんだよ!外に出たんじゃなかったのか?」


「ここ……外じゃないのかも……また別の部屋……?」


「そんなはずあるかよ!扉の向こうは外だっただろ!」


「でも、見て……壁が……またある……」


「嘘だ……俺たち、どこにいるんだよ……」


「ねえ、音……また近づいてきてる……」


「走れ!まだどこかに出口があるはずだ!」


「でも、この扉……もう開かない……」


「開かない?どうしてだよ!外に出たんだろ?」


「わからない……でも、閉じ込められたみたい……」


「いや、絶対出られる!壁でも何でも壊してでも出る!」


「でも、笑い声……もうすぐ後ろ……」


「もういい!お前、目を閉じろ!声を無視しろ!絶対何も見るな!」


「でも、気配が……近い……」


「だから振り向くなって言ってるだろ!目を閉じて、出口を探すんだ!」


「……でも……これ……誰かが肩に……触れてる……」


「……今、触られたって……誰だよ……?」


「わからない……でも、確かに肩に……冷たい手が……」


「嘘だろ……振り向くなって言ったよな……?」


「振り向いてない……でも、動けない……」


「動けないって、どういうことだよ!」


「なんか、足が……つかまれてる……」


「つかまれてる!?どこだ!?見えないぞ!」


「わからない……でも、冷たい……動けない……助けて……!」


「しっかりしろ!引っ張るぞ!」


「やめて……余計に締め付けられる……」


「……じゃあどうすればいいんだよ!何か方法があるはずだろ!」


「……声が……聞こえる……また笑ってる……」


「笑い声!?どこからだよ!まだ後ろか?」


「……いや、もう後ろじゃない……頭の中……」


「頭の中って……何言ってんだよ!しっかりしろ!」


「無理だよ……これ……助からない……」


「助けるって言ってるだろ!こんなところで終わりたくないんだよ!」


「でも、これ……どんどん強くなる……体が冷たい……」


「冷たいって……手が……お前の手が冷たくなってる……」


「そうでしょ……もう無理……」


「そんなこと言うな!絶対に逃げられるからな!」


「……誰かがいる……近くに……」


「誰かって、誰だよ!見えないぞ!」


「見えないけど……感じる……すぐそばに……立ってる……」


「だから振り向くなって!そいつに負けるな!」


「でも、声が……耳元で……」


「耳元って、そんなに近いのか……!?耐えろ!」


「……もう……無理かも……」


「無理じゃない!目を閉じて!声なんか無視しろ!」


「無理だよ……この声……消えない……」


「俺がいるだろ!一緒に逃げるんだ!絶対助かる!」


「……笑ってる……『まだ行かないの?』って……」


「何が行かないだよ!誰だ!出てこいよ!」


「……『ここにいるよ』って……すぐ近くで……」


「近くって、どこだよ!?見えてるのか!?」


「見えてないけど……影みたいなものが……」


「影!?どこだ、教えろ!」


「……でも……動いてる……部屋中に……」


「部屋中……そんな馬鹿な!」


「ほら……見て……もうそこに……」


「そこって、どこだよ!絶対見るな!」


「でも、どうして……笑ってるんだろう……」


「聞くな!考えるな!そいつの思う壺だ!」


「でも、この笑い声……ずっと耳から離れない……」


「無視しろって!俺が引っ張るから、出口を探すぞ!」


「出口……もうないよ……ここは……」


「そんなこと言うな!必ずどこかに……」


「……消えた……声が……」


「消えた?本当か?」


「でも……寒い……冷たさだけが残ってる……」


「気を抜くな!まだ何が起きるかわからない!」


「……うん、でも……なんか、軽くなった……」


「軽くなったって、何が?」


「足……もう、つかまれてないみたい……」


「本当か?動けるのか?」


「……うん、たぶん……」


「よし、立て!急いでここから出るぞ!」


「でも、まだ何かいる気がする……」


「そんなの無視だ!さっさと出るぞ!」


「……あ、また音が……」


「音?どこだ!?」


「わからない……でも、今度はもっと奥から……」


「奥って……なんで奥なんだよ!出口は反対だろ!」


「……でも、呼んでる気がする……」


「呼んでるって……聞きに行くつもりか!?」


「……行かなきゃいけない気がする……」


「行くな!絶対行くな!そんなの罠に決まってる!」


「でも……足が勝手に……動いて……」


「止まれ!止まれって!」


「無理だよ……止められない……」


「どこに行くんだ!待て!待てって!」

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