呼ぶ声【会話のみ】

☆ほしい

第1話 起

「ねえ、こっち来て」


「なんだよ、急に」


「静かに。音、聞こえない?」


「音って、何のことだよ」


「だから、聞こえない?この、変な音……カリカリって」


「……お前、また怖い話か?」


「違う!本当に聞こえるんだって」


「……マジでやめろよ。そういう冗談、嫌いだって知ってるだろ」


「だから、冗談じゃないってば。ほら、こっちに耳を近づけて……」


「……いや、なんも聞こえないぞ。どれだけ静かでも、そんな音しないだろ」


「うそ、さっきまで聞こえてたのに……待って、あっちの部屋から……」


「ちょっと待て!お前どこ行くんだよ!」


「いいから来てってば!早く!」


「……ったく、何だよこれ。お前、こんな夜遅くに何してんだよ」


「ここ、このドア……さっきから向こうで何か動いてる音がするんだって」


「……おい冗談きついって」


「本当に……ちょっと、開けてみるね」


「やめろ!待てって!」


「大丈夫だって。見てみるだけだから……ほら、何もない。空っぽでしょ?」


「だから言っただろ。何もないって。これで納得したか?」


「……でも、絶対に聞こえたんだよ。カリカリって、ずっと」


「ただの風の音とかだろ。ほら、窓少し開いてたじゃないか」


「……うん、そうかも……でも、なんか気持ち悪い」


「気のせいだって。ほら、戻ろうぜ」


「……うん」


***


「まだ考えてるのかよ」


「だって、あの音、絶対普通じゃなかった」


「お前、前も似たようなこと言ってたよな。何だっけ?あの時も深夜でさ……」


「ああ、あれ?押し入れの中で動く音がするってやつ」


「そうそう。それで、お前が見に行ったら結局何もなくてさ。俺、散々付き合わされた記憶しかない」


「でも、あのときの音も絶対に何かがいたと思う」


「いねえよ。お前の頭の中にいるだけだって」


「……本当にそうかな。なんか、最近家の中が変な気がするんだよね」


「変って、どこが?」


「雰囲気っていうか、なんか冷たい感じがする」


「それはさすがに気のせいだろ」


「……ううん、違うと思う」


「……マジかよ。いい加減やめろよ、そんな話ばっかしてたら眠れなくなるだろ」


「ごめん、でもさ、もし次また何か聞こえたら、一緒に確認してくれる?」


「……はあ、分かったよ。でも、これが最後だぞ」


***


「起きろ!」


「……ん?何?」


「今、変な音したよな?」


「え、音?どんな?」


「カリカリって、壁の向こうから……冗談じゃないぞ?」


「……本当?」


「本当も何も、俺、寝てたら急に聞こえたんだよ。起きたらまだ続いてるし」


「……ちょっと待って……今は……聞こえない」


「いや、確かに聞こえたんだ。お前、絶対聞いたって言ってたあの音だろ」


「……わかった、行こう」


「おいマジで行くのかよ」


「だって、確かめないと気持ち悪いでしょ」


「……そうだな。でも、何もいないって分かったらもう寝ようぜ」


「……分かってる」


***


「ここだ、ここから聞こえたんだって」


「……さっきのドアの向こう?」


「いや、違う。もっと奥の……こっちだ」


「ちょっと待って、それって納戸の方じゃない?」


「そうかも。でも……音はここから聞こえた」


「……開けるのか?」


「開けるしかないでしょ。ほら、懐中電灯つけるから……いくよ……」


「……どうだ、何か見えるか?」


「……いや、ただの納戸だよ。ほら、古い荷物が山積みで……」


「待て、今……ライト、そっちの隅を照らせ!」


「……え、何もないじゃん」


「いや、さっき……何か動いた気がしたんだ」


「……ちょっと待って、もう少し中を見てみる……あれ?」


「どうした?」


「……おかしい。さっき置いてあった箱、動いてる気がする」


「やめろって、もう十分だろ」


「いや、確かに動いてる!ほら、見て!」


「……マジかよ……これ、どうすんだよ」


「ちょっと待って、箱をどかしてみる……」


「やめろ!触るなって!」


「大丈夫だって……ほら……」


「……何もない……本当に、ただの空っぽ……」


「……いや、でも、確かに動いてたぞ。俺、見てたんだから」


「……うん……なんでだろう……」


***


「また音がした。」


「何の音だよ?今度はどっちからだ?」


「わからない。でも、さっきより近い気がする。」


「近いって……やめろよ。そんなこと言うな。」


「本当なんだって。ほら、また聞こえた!」


「……今度は俺にも聞こえた。なんだこれ、壁の中か?


「たぶん……動いてる感じがするよね。」


「感じるって、そんなこと言うな!……お前、本当にやめる気ないのか?」


「だって、気になるじゃん。絶対普通じゃないでしょ?」


「普通じゃないからやめようって言ってるんだろ!」


「でも、このまま放っておけないよ。もし何かいたら……」


「いたらどうするんだよ!俺たちでどうにかできるわけないだろ!」


「それでも、何が起きてるか見なきゃ気が済まないんだよ!」


「……お前、本当に変わってるよな。」


「いいから、ついてきてよ」


「ついてきてって……はあ、分かったよ。でもマジで、これが最後だからな。」


「うん、ありがとう。ほら、音が聞こえた方向に行こう。」


「……また暗いな。懐中電灯、もっとちゃんと照らせよ。」


「わかってる。でも、この先、何もないように見えるけど……」


「音がしてるのは確かだろ。なんかいるんじゃないのか?」


「……いや、何かいる感じじゃない……空気が変だもん。」


「空気が変?なんだそれ。お前、怖がらせようとしてるだけだろ?」


「違うって。なんか、寒くなってきてる。……ほら、感じない?」


「……たしかに、さっきより冷たい気がするな。でも、それが何だってんだよ。」


「何かが近づいてきてるんじゃないかな……」


「そういうの本当にやめろ。もう帰ろうぜ。」


「でも、帰ってもこの音、また聞こえそうな気がする。」


「だから聞こえたら無視しろよ!関わるとろくなことにならないって。」


「関わらない方が変だって。何かがいるのに気づかないふりする方が怖いでしょ?」


「怖いのはお前のその発想だよ!普通は無視するんだよ、こういう時は!」


「でも、これ……音だけじゃない気がする。……あ、聞こえた!ほら!」


「おい……今の、さっきよりはっきり聞こえたぞ。……しかも近い。」


「うん……これ、壁の中じゃない。もうすぐそこ……」


「すぐそこって、どこだよ!?お前、どうするつもりだよ!」


「とにかく、もう一度だけ確認してみる。『誰かいますか?』って。」


「……何勝手に聞いてんだよ!やめろって!」


「でも、もし返事が来たら、それで分かるでしょ。」


「分かったらどうするんだよ!そもそも返事なんか来ない方がいいに決まってるだろ!」


「……静かにして……今、聞こえなかった?」


「聞こえなかったって……待て、なんだ今の……声か?」



『いるよ』



「……『いるよ』って……聞こえた……よね?」


「聞こえた……わけないだろ!嘘だよな?」


「……でも、本当に聞こえたんだよ……子供みたいな声で……」


「マジでやばいぞ。これ、本当にヤバいやつだ!もう帰ろう!」


「でも、気になる。返事があったんだから……次はもっとはっきり聞けるかも。」


「聞けるかもって、お前、何考えてんだよ!普通じゃないだろ!」


「でも、ここまで来たらもう……あと少しだけ、いい?」


「よくないって!絶対何かあるに決まってる!もうやめろ!」


「……最後に一回だけ……『あなたは、ここに何をしているの?』」


「やめろって!……今度は聞こえないだろうな……」


「……聞こえた……?」


「……何か……笑ってる……?」


「笑い声……?やめろ、そんなの……逃げるぞ!」


「……でも、この笑い声……すぐ後ろから……」


「後ろ……振り向くなよ!絶対に振り向くな!」

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