第9話
「…ばあちゃん、来たよー」
昼間の子ども達が再び訪れる。
しゃがんでいる祖母は首だけ振り返り、“そっとおいで”とか細く応え、少年らはそっと“忍び足”で近寄った。
「わっぁ!」
少年の一人から声が漏れ出すと、“ガサッ”っと勢いよく音が走り出す。
祖母は少年達に“しぃー”と鼻の前で人差し指を当てると、彼らも同じように人差し指を真似た。
しばらくすると、裏手の茂みから“ガサゴソ”と掻き分ける音と共に、姿を現したのは一匹のたぬき。
そして、馴れた足どりで祖母の膝下に近寄り、食べかけの野菜をかじり始めた。
祖母は触ることはなく、ただ食べてる姿を見守り、少年らもそれに倣う。
少しの間、たぬきの食べる音だけになる。
夏の空は日が暮れて、ほとんど夜空に映え変わった。
周囲の音は蛙の合唱が響き、昼間の暑さが柔らぐような夜風が凪いだ。
ようやく食べ終わると、距離を開け茂みの方へと向き、ちらっとほのめかす様に祖母を見て去って行った。
「…ばあちゃん、たぬきとやっぱり友だちじゃん!」
“すごいなー”と少年らの声が辺りに賑やい始め、祖母も“友だちかはやっぱり分からんねぇ”と言いつつも、満更でもなさげに声が明るい。
少年達の質問に耳を傾ければ、親離れが早かったのか、まだあどけなさが残る頃に見かける様になった事。
食べ残してしまう野菜を分け与えながら、“畑の野菜を荒らしちゃなんないよ”と声をかけていたのだと。
それが通じたのかは定かではないが、被害は無く済んでる様子が伺えた。
「ばあちゃんの言ってることがわかってるんだー」
そう言いながら、少年達は“バイバーイ”と大きな声を出しながら、門の外へと駆け出して行った。
「気を付けてなあー。前をしっかり見るんだよ!よそ見するんじゃないよー」
祖母も門の外に出て、彼らの背中を見送る。
自転車に跨がっている子の後ろをついた一人は、振り向きながら手をいっぱいに振っていた。
そして一人だけ祖母の家に残った少年は、そのまま祖母と中に入って行く。
少年の表情は見れないまま……
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