第8話

それにしてもまさかテレビで見かけるとは思いもよらないものだと、残りわずかなビールを飲み干し、席を立つ。


盆に乗せた食器を片付け、自販機のあるコーナーのマッサージ機に腰掛けた。


5分百円を二回かかり、凝った肩や背中をほぐされてると程よく眠気が襲い出す。


眠気ざましに自販機の500mlの缶ビールを片手にプルタブを引き抜いた。


そのまま休憩処に向かい、黒塗りのテーブルにビールを置き、横たわる。


荷物を端に寄せながら、仰向けに寝転んだ。


片腕を額にのせたまま人気もまばらな空間に、何時しか微かな意識さえ、瞼と共に閉じていた。



祖母がいたあの青々とした山々にむせび合う程の蝉の声音。


ぽつねんと一人、広渡る快晴の下、立っている横で幼い少年らがかけって行く。


“ヒュッ”っと颯爽と音が向かっていく方へと翻れば、歓声を上げたままの少年らがそこにいた。


「ばあちゃーん!!」


少年が呼び叫ぶ方角は、かつて見覚えのある古い家が佇んでいる。


「ばあちゃん、たぬきと友だちってほんと?」


少年の奥を見れば、縁側で一休みしている祖母がいた。


懐かしい思いがふと、込み上げてくるのが分かる。


何気に目頭を押さえながらも、彼らの会話に耳を澄ました。


「…友だちかどうかはたぬきに聞いてみないとわからないねぇ」


湯飲みを両手で受けてお茶をすする祖母にお構い無く、子どもらは視線を外さない。


「田んぼにいたじいちゃんが、ばあちゃんのことそう教えてくれたんだ」


“そうかい”と微笑んで子ども達と弾んでる祖母を眺めていれば、“夕方においで”と声をかけていた。


野生の動物はやはり夜行性だからか、夕方以降にならなければ、こんな暑い日中に来るはずもないのは、容易な事だ。


そう思った瞬間に、夕方の場面に切り変わっていた。

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