第7話

“水回りがせまいと、他も滞る”


よく祖母が口にこぼしていたなと、ふと

思い出す。


昔ながらの農家の家だ。


人の集う居間などは広いのに対し、水を使う場所は台所事情に詳しくなくても、見ていて子ども心にも手狭に感じていた。


そして大人一人が入るのがやっとな風呂も、昔ながらのレトロなタイル張りが所々剥げていたりするのも味はあったが、天井が全体的に黒ずんだのを見上げると、なんとも言えない暗さに身ぶるいしたものだった。


トイレは昔は汲み取り式ではあったが、流石に水洗式になっている。


もしなっていなかったら、子どもの頃に泊まるなんて出来なかっただろう。


そこもやはり狭かったな、と湯に浸かりながらふと天井を見上げ、思い出していた。


夏だとどうしても手狭なアパートの風呂では熱気で蒸し暑くて早く出てしまうため、(窓が無いのが禍して)ゆっくり湯に、なんてしてられない理由である。


風呂からあがり、せっかくだからと湯上がりにビール、冷奴に枝豆と夏の定番を券売機で注文し、カウンターに持って行く。


ものの5分くもしない内に、キンキンに冷えてるであろうジョッキに注がれた生ビールと、ザルに盛られた枝豆に小鉢の豆腐がネギ、生姜をのせて出され、席に運んだ。


ぷはーと言いたくなるのを抑えて、ゴクリと喉を潤わす。


正面に据えられたテレビを見ながら、つまみを口に放り込んだ。



「…続いて、次の話題に移ります!」


ニュースキャスターの明るい声にて表れた映像は、見覚えのある景色……


“あっ”と、無意識にこぼしながら映し出された青々とした山々に水の張った田んぼがただ一面に広がっているのを、ぼんやりと見入っていた。


そこは久しく途絶えていた場所…まさに祖母の住んでた田舎風景だ。


祖母は亡くなるまで、住んでたあの古い農家の屋敷で一人で暮らしていた。


年寄りの一人暮らしを昔からの近所の人達が気にかけたり、週3日のデイケアに通っていたりと、そう寂しく過ごしてる様ではなかったと聞いていた。


最初は通いじゃなく、いっそのこと生活の身の回りのために入居を提案したけれど、土いじりをしたい祖母はそこまでしなくても良いと言って、あの家に最後まで住んでいたらしい。


そして自分が亡くなった後は、この古くなった家を取り壊して好きに処分してくれて構わないと言い残していたのだと。


“入居したらお金かかるし、何より死んだ後にも色々とやることがあるだろう。その為にも少しばかり残しておかなきゃねぇ”と笑いながら話していたのだと、母が言っていたのをまた、思い出す。


そしてしばらくして朝、近所の人が祖母に朝食のおかずを持ってきた所、何の音沙汰がなく静まりかえっていたので部屋に上がると、布団の中で眠る様にして息を引き取っていたと、葬儀の時に聞いた祖母の最後の姿だった。(玄関の鍵は緊急用に当番の人が預かっていた)

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