困窮

生活は困窮した。売れるものは売ってお金を作っていたが到底足りるものではない。生活費も渡せない。それになのに俺は妻に「お前が働けばいいだろう。今まで誰のおかげで暮らしてこれたんだ!俺の稼いだ金だ俺がどう使うかは俺の勝手だ!」と言って、見栄を張り続けた。

妻とは喧嘩が増え、会話が無くなってきた。


どうにかして金を得なくては生活できなくなる。いろいろ考えていたがふと年金はどうだ?繰り上げ受給をすればいいのではないか?繰り上げ受給をすると月々の年金が減って生涯その金額になると聞いているが今生活できないんだこの手しかない。俺はそう思い年金の繰り上げ需給を受ける手続きを取った。


年金支給日。俺は期待して通帳を記帳したが振り込まれていたのは32万余り。年金は2ヶ月分だから月にすると16万。こんなはずはない。確か年金定期便には月額24万ほどと記載されていたはずだ。俺は年金事務所に確認の電話を掛けた。


『はい、川崎年金事務所です』

「年金の支給額について問い合わせしたいのだが」

『年金の支給番号、お名前、住所を教えてください」俺は言われた通りに教えた。

松尾昭まつおあきらさんですね。支給額に間違いはありませんよ』

「しかしあまりにも金額が少なくないですか?」

『松尾さん、55歳で退職なさったのでしょう。それから5年間国民年金を納めていらっしゃいませんね。ですから40年の満額ではなく、35年分の納付額で年金は計算されています。それに繰り下げ受給ですから金額が少なくなるのは当たり前です。

それと、扶養家族に入っていらっしゃる奥さまですが、こちらも国民年金を納めていませんね。その分の年金も納めないと満額は貰えませんよ。納付書が来ているはずですから早急にお納めください。でわ』そう言うと電話は切れた。


国民年金の納付。会社を辞める時に確かに説明はあったし、納付書も来ていた。だが、俺は無視していた。生活の楽しさに目が奪われ、大事なことを忘れていた。

いまさら収めようにも、納める金が無い。金が無いから繰り下げ受給をしたのだ。

俺は完全に追い詰められた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月22日 12:00
2024年12月23日 12:00

無計画 星之瞳 @tan1kuchan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画