照明と楽長と逃げる譜面
「照明くん、失礼。こちらにスコアが逃げてきていませんか?」
「楽長か。……スコア? 譜面ということか?」
「ええ。海の向こうから珍しいものを取り寄せまして。姿形がなんであるかは説明できないのですが、ともかく、譜面なのです」
「普通なら、スコア譜は逃げないものだと思うが」
「おっしゃるとおりです。その風変わりな作曲家は、紙に音符を書き付けるのに飽きてしまったようなんですな」
「……今、鶏を締め上げるのとピエロの高笑いが混在したような、奇声が聞こえたような」
「スコアですね」
「あれが?」
「曲の途中で、ホルンとオーボエの力技でそんな音を出す指示があったので」
「音を発する譜面か。もはや演奏しなくとも、その譜面を置いておけば用は足りるのじゃないか」
「この世のものとは思えない譜面の、この世のものでなんとか再現できそうな音楽を奏でるのが、我ら楽団の腕の見せ所である訳でして」
「そうか……」
「座長殿はこの楽曲を我々の生演奏で芝居に乗せよとご所望ですし。とはいえ、手元にスコアが無いことには指揮もふれません。楽団総出で追いかけながら練習するわけにも……」
「いいんじゃないか、追いかけながら練習。肺活量も鍛えられそうだ」
「……マーチング用の装備で集まるよう指示を出してみましょうか。劇場内の人払いも済ませて……しかし、走りながら演奏など、万一転倒などがあったら……」
「なにより、スコア自身が興味深そうに寄ってきているぞ」
「おや。相変わらず、近くで見ても名状しがたい」
「捕まえようとすると逃げるのだろう。こいつは移動楽団の先頭を気取りたいだけなのじゃないかな」
「そういうことなら、受けて立ちましょう。さっそく楽団の燕たちを呼び出さなくては。きっと劇場中に余す所なく、音楽が満ちてしまいますね」
劇場戯曲 空空 @karasora99
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