第5話
ブラッドバーン家から私たちクロックフォード家へ、夜会の招待状が届いた。
父と母は眉を逆立て、ライオネル様を散々にこき下ろした。
「なんて無神経な男だ。うちの純情なエレシアをもてあそんでおきながら……! この夜会であいつとメイスン嬢との婚約発表がされると、もっぱらの噂じゃないか!」
「そうですよ、本当に困ったものだわ。ドレスを新調するお金にも事欠いてるのに、よりによって格式高い公爵家の夜会に招待されるだなんて……ああでも、騎士団の方がたくさんいらっしゃるなら、もしかしてエレシアにも新しい出会いが……」
「そんなものあるわけないわ。それに私、最初からライオネル様とは何でもないって言ったでしょう?」
両親のいる居間を出て、自分の部屋へ引っ込む。
夢は見ていないつもりだった。
けれど、いざ目の前にライオネル様と他の女性との婚約をつきつけられると、どんなに強がっても、胸がつぶれそうなくらい苦しい。
「……でも、友人としてお祝いをしないとね……」
涙をこらえ、自分の部屋の、大好きな本がぎっしりと詰まった本棚を見上げる。
私は、ライオネル様に婚約のお祝いの品を買えるようなお金など持っていない。
ドレスを新調するお金も、うちにはないくらいだ。
一生に一度しか行けないだろう、公爵家の夜会だ。
地味な私でも、せめてきれいなドレスを着てライオネル様に会いに行きたかった。
けれど、仕方がない。
自分がドレスで着飾るよりも、大切な友人に素敵なお祝いを贈りたいから。
私を友人と呼んでくれて、それを証明するように貧乏伯爵家であるわが家にも夜会への招待状を送ってくれたライオネル様に、お祝いと、最後のお別れをしよう。
ブラッドバーン家の夜会に出たら、私は田舎の伯母の屋敷へ行き、そこで一生暮らそうと決めていた。
本棚から貴重な本を次々に取り出して箱に入れると、古物商を屋敷へ呼び出して、箱ごと買い取ってもらった。
私は本を売ったお金を持って侍女と町へ行き、ライオネル様に似合いそうな、黒獅子の彫刻が入った美しい飾り剣を買った。
これを夜会で彼に渡し、お祝いの言葉を伝えることができたなら、もう心残りはない。
***
三日後が夜会という日、わが家に平べったい箱が届けられた。
父は私を呼び、不思議そうに言った。
「お前にだそうだ、エレシア。差出人は……『庭師より』? どういうことだ?」
「えっ……庭師って……」
庭師の知り合いなど、夏にアサートン卿のカントリーハウスで出会った、あの腰を痛めたおじさんしかいない。
けれど、なぜあのおじさんが……?
届いた箱をおそるおそる開けると、とても高価そうなドレスと靴が入っていた。
ドレスは上品な
靴も同色だった。
同封されていたカードには、こう書かれていた。
「親切なお嬢さんへ。バラの水やりのお礼に、君にドレスを贈ろう。これを着て、ブラッドバーン家の夜会に出てほしい」
私の頭の中に「?」が飛び交う。
水やりのお礼?
ということは、やはりあの庭師のおじさんからよね?
……まさかおじさん、実は、とてもお金持ちだったの??
まるで小説のような出来事に疑問は尽きなかったけれど、とても素敵なドレスと靴であることに間違いはない。
それに……碧色は、ライオネル様の瞳の色だ。
なんだか、私の秘めた恋心を見透かされているようで怖かった。
でもせっかくのご厚意だし、そんな偶然は誰も気がつかないだろうし……。
ライオネル様に会うのもこれで最後だ。
私は、そのドレスを着ていくことに決めた。
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