第2話 これってチートじゃん!

 素晴らしき我が家に帰ってきた。

 この俺、ポール様が1人で暮らす家だ。

 スラムのガキと一括りにされるが、俺の家はスラムじゃなく川の近くに自分で作り上げた立派な家だ。

 石を組み、スラムのぶっ壊れた家から木板を頂戴して作り上げた。釘の一本すら使ってない芸術的建築物だぞ。冬は寒いが夏場は風通しがよくて涼しい、光を取り込む構造になっていて明るい我が家。口の悪い連中は家ですら無いと言うが、住めば都と言うだろう?どうせ俺1人が寝るだけの場所だからこれでいいんだよ。


 そんな事より拾ってきた珠だ。指先に乗るくらいのサイズで黒色、そしてもっと黒い文字で【光】と書いてある。黒地に黒文字なのに暗闇の中でも何故か鮮明に見えるのが不思議だな。

「ひかり」

 とりあえず試してみると、一瞬光りを放って珠は消えてしまう。何かに使えるか?目眩ましには弱いよな。ゆっくり光るなら灯りに使えるんだけど。


 よし!ゆっくり光れ!ゆっくりやってみろ!出来る出来る!絶対出来るって!諦めんなよ!

「ひ~か~~り~~~」

 珠はぼんやりと淡い光を放ち始めた!凄いぞ!調整できるんだ!

「すっげぇ…これって魔法だよな」

 前世では憧れでしかなかった魔法。この世界でも一部の人にしか扱えない神秘。それが今俺の手に!


 もっと色々試してみよう。使える物なら俺が成り上がる為に使うんだ。

 まずは屋根の隙間から差し込む月明かりに集中する。

(光出てこい光出てこい)

 ぱらぱらぱらと、幾つもの珠が空中に生み出されて落ちてくる。これ無限か?

 光から光の珠が出る。じゃあ土なら?

 家の外の土を眺めて土出てこいと念じるが何も起こらない。

 光しか駄目?いやいや俺のウルトラユニークスキルがそんなチャチなわけないさ。土さんお願いしますよ、まじ土さんリスペクトっす。

 外に出て土を撫でながら念じると、今度は【土】と書かれた珠が浮き上がってきた。


「触れていればいいのかな?」

 家の壁に触れて念じると【木】を生み出すことに成功した。しかしその珠と引き換えに家の壁が崩れだす。

「ちょま!ちょま!戻すから待って!崩れないで!」

 壁に【木】の珠を押し付けると逆に吸い込まれて行き、壁も元に戻ったっぽい。


 分かってきたぞ。これはその物体が持つ要素を抜き出しているんだ。土からは土、木からは木、そう考えると無意識に光から抜き出せたのはツイてたな。



「すげぇぞ!この珠を売れば大金持ちになれるのでは!?」

 これでこんな生活とはおさらばだ!これを売って美味い飯を食って綺麗な部屋で寝る事が出来る!

 いや待て、前世を思い出す前の俺ならそれで満足したと思う。でも今の俺はそんな物じゃ満足出来ない。

 そうだ、世界を見て回りたい、最強の冒険者になりたい、魔王を倒して姫と結婚する事だって出来るかも知れない。

 こんな珠は聞いたことがないし、漢字だって見たことがない。これはきっと俺だけの力だ!これを使ってビッグになるぜ!それが俺の目標だ!


 ビッグになると決意して拳を握りしめた!珠を持ったままの拳を!そしたら突然珠の感触が無くなってしまった。

「や、やべぇ消えちまった!」

 慌てて手を開くと一つだけしか残っていない。何故消えたんだろう?時間?握ったから?


 一つだけ残った【光】の珠。灰色っぽくね?黒だったよな?

「ひ、ひかり」


 カッ!!


「うぎゃああっ………目がっ…!目がぁぁぁぁあっ!!」

 今度こそ本当に目を焼く強烈な光にやられ、俺は目を開けられずに悶絶した。

「うごごごごご……」

 ちくしょうなんでこんな目に…。いやこれは栄光への試練だ、受け入れよう。もっと挑戦するんだ、諦めるな俺。


「ふぅ、ひどい目にあったぜ」

 2.3分待ってようやくまともに目が見えるようになった。これなら充分目眩ましにつかえるぞ。

 これがあれば弱い魔物くらいなら自分で倒せるかもしれん。今までは一番雑魚のスライムにすら運悪く勝てなかったが、ついに俺にも運が巡ってきた。


 試しに【光】を追加で生み出し、くっつけと念じながら押し付けるとにゅるりと合体した。どんどん合成しても大きさは変わらず、合計10個分になった所でそれ以上入らなくなった。黒色だった珠は灰色に変化して、なんとなく今まで以上に力があるように感じる。

 さっきのは5.6個程度だったし、これなら魔物も腰抜かすぜ!俺の初勝利は近い!



 しかし何か攻撃手段が欲しいな。石で殴ればいいと思いきや、スライムの奴はブニブニしてて受け流されちゃうんだ。手間取っている間に手に取り付かれて火傷みたいになる。たぶん溶かされてるんだろう。


 手元にあるのは【光】と【土】、土も試してみるか。

「つち」


 ぱさっ。


 珠が土に変わった。ただそれだけ、体積も一緒に見える。普通の土だ。

「………」

 いや、いやいや、【光】に比べたらインパクトは無いが、まだ諦める段階じゃない。

 外の土を触って【土】の珠を量生した。合成すればきっと大丈夫さ、せっせと上限まで詰めて灰色になった【土】の珠を握ってごくりと唾を飲み込んだ。

 「つち」


 どしゃ。


 土砂が落ちたんだ、どしゃって。

「どうしろってんだ…終わったか?」

 なんで土そのままなんだよ、土魔法と言えば「ストーン・バレットォ!」みたいな感じだろ?なぜ君は土なんだい?

 ん?ストーン?石じゃん。そうだ、光がゆっくり輝くように、土を固くすればいいんだ!天才かよ!

「硬い土だ、硬いやつ、バッキバッキのバッキンガムな『つち!』」


 どしゃ。


「おぅ……」

 触ってみると硬い土だった。こんな土じゃあ碌な作物も育たねぇ、そんな土だ。

 違うんだよ、俺が欲しいのは石なんだよ石!なんで土から土しか出ねぇんだ!

 土から……土から土が出るのは当然…か?

 そうだ。なんとなくゲームの土属性みたいなイメージを持ってしまっていたのが間違いなんだ。土は土に、石は石にだよ。

 石ころを手にとって石出てこいと念じたら【石】と書かれた珠が生まれた。


「勝ったな」

 しかし小さな石ころからは一つしか生み出せない。木の時の様にすぐに崩れたりはしなかったが、地面に放り投げたらバラバラの砂粒の様に解けてしまった。

 まぁ石なら石畳みがある。夜中なので辺りに人もいないし、座り込んで石を量産して合成していく。どんどん生み出せるが崩壊するのが怖いので灰珠が6個出来た所で止めた。



 さて実験だ。とりあえずデカくて重い石が出せたらそれでいい。強い光で怯んだ魔物の上に落とすんだ。

「いし」


 ドスン!


 小さな珠が数十倍サイズの石へと変化した。これが頭に落ちたら痛いだろう、小指に落ちたら悶絶だ。だがこれが必殺かって言うとな……。

 ただの石じゃ駄目だ、硬く鋭い石。敵を貫く石槍をイメージするんだ。

「いし」


 すとん。


 呆気なく軽い音で落ちた石、それは薄い刃を地面に食い込ませて立っていた。

「勝ったな」




 勝利を確信して寝た。明日はまたダンジョンだ。







――――――――――

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