第3話 実践では結局シンプルなのが強いよね

 新しい朝が来た、希望の朝だ。

 今日、魔物相手に初勝利を上げて俺伝説の幕開けとするのだ!


 川で顔を洗って準備完了。装備も荷物も何一つ無いぜ。

 ダンジョンは町の中心付近にある。この町はダンジョンからの産出物によって栄えているダンジョン町だ。武装した冒険者共で溢れるヤベェ町。

 いつもならダンジョンの近くで荷物持ちとして雇ってくれる冒険者を待つんだが、今日は俺もソロの冒険者だぜ。ポケットに入れた珠の感触を確かめて入口に向かう。

 しかしそこには嫌な顔をした連中がいやがった


「お~いガキぃ、今日も俺たちが使ってやろうかぁ?ギャハハハ!」

 あ、あのドブ野郎!あれだけのことをした癖に、よくも舐め腐りやがって!

「てめぇ!昨日は金も払わねぇで殴り倒しやがって!お~い、みんな!こいつらの仕事を受けたらひでぇ目にあうぞ!一銭も払わずに殴って逃げやがった!」

「あぁん!?舐めた口きいてんじゃねぇぞ!」

「知るかダボが!くたばれ!」

 俺は力を手に入れたんだ!こんな奴らにビビるこたぁねぇぜ!


「ぶっころす!」

「バーカバーカ!そんな装備をつけて追いつけるかよ!あ~ばよ~!ガーハッハッハ!」

 ケツを突き出しておちょくってやったぜ!次に会う時は俺がボコってやるからなぁ!今は馬鹿の相手をしているほど暇じゃあないんだよ。

 さっさとダンジョンに入った。



 ダンジョンは不思議な場所だ。広く深い洞窟の中に沢山の魔物が徘徊している危険な場所なんだが、同時に特殊な鉱物や植物も存在していて人々の欲望を掻き立てる。魔物の体も特別な素材だったりするし、何より全ての魔物の体内に存在する魔石が重要だ。

 魔石はエネルギーの塊であり、町の至る所でさまざまな用途に利用されている。まぁとにかく売れるんだよ。

 ダンジョンに潜る冒険者たちは大抵この魔石を集めに行くわけ。で、それを買い取って回す事で町が潤うわけだな。

 俺もダンジョンに入るために冒険者登録を済ませてある。最強の見習いG級のポール様とは俺のことだぜ。



 ダンジョンに飛び込んだが、中にも結構人がいる。と言っても殆どは強い敵や資源を求めて真っ直ぐ下層へと進むので、そのルートを外れてしまえば取り合いになる程ではない。


 入口付近には外の森と大差無い幾つかの薬草類が取れたり、魔物も外の森と大差無い雑魚が出現するんだけど、ここらで雑魚狩りをするくらいなら荷物持ちをした方が利益になるのが現実だ。過疎エリアである。


「お、いたいた」


 少し探すと早速スライム発見だ。岩陰でウネウネと動いている謎の生命体。ダンジョンの掃除屋とも呼ばれるコイツラは階層を問わずどこにでもいて、大抵は無視される存在だ。だが今日の俺はお前たちを狩るぜ?覚悟しな!

「ひかり!」


 カッ!!


 強い光が放たれるのを腕で目を覆ってやり過ごす!よし、目が眩んだはずだ!

 しかしスライムの様子には特に変わりが無いな……。目、あるのかな?

 ……まぁいい!攻撃だ!硬く鋭い石槍のような石よ出ろ!


「いし!」


 すとん。


 足元に突き刺さる石槍。クッソ危ねぇよ!ちくしょう、スライムの上でやらないと駄目だった!


「こなくそぉ!」


 まだだ!突き刺さった石槍を引き抜いてスライムを突く!

 奇妙な手応えと共に穂先がスライムを貫く。くたりと萎れて動かない様子を見て勝利を確信した。


「やったぜ初勝利!」


 あれほど苦労したスライム相手に、一切抵抗させずに勝利した!……まぁナイフでもあれば簡単に処理できる雑魚魔物ではある、結局ただ石槍で突くだけになってしまった。


 倒したスライムだが、こいつらの体は酸を持っていて魔石を取り出すのが面倒なんだ。ナイフがあれば簡単に倒せるし小さな魔石も抉り出せるが、金属のナイフが酸で傷んでしまうので放置されるのが通常。だがこいつの小さな魔石でも10個もあればまともな飯が食える、なんとか取り出したい所だよな。

 俺にはバッチリ策があるぜ、昨晩の内に色々考えたんだよ。

「酸出ろ酸出ろ」

 こわごわ右手を近づける。触らなきゃ生み出せないのがこの能力の弱点だな、火傷したくねぇよ。


 コロンコロン。


 なんとか触れた手が火傷することもなく、【酸】と書かれた珠が転がった。小さなスライムだが珠の数はちょうど10。これって結構強い酸だったってことかな?

 酸を抜かれたスライムの体は手で触っても何とも無い状態だったので小さい魔石を取り出した。指先にちょこんと乗るくらいの小さな魔石だ。こういうのは砕いて溶かすって聞いた。

 利用価値があるのはいいことだ、今はこいつらを狩って飯代を稼げればいい。

 灰色の【酸】の使い道を考え、にんまり笑顔が溢れてしまった。



 その後も続けてスライムを狩っていった。石の槍を持っていればスライムを倒すのは容易い。

 使い捨ての武器が生み出せるって何気にチートじゃない?これって俺の無双物語始まっちゃうんじゃないか。【光】?知らない子ですね。


 嬉しくて走り回ってしまった。かなり疲れたが集まった魔石は30個、【酸】の灰珠は10個だけ持って後は酸に戻した。

 そして今、目の前に薬草がある。

 専門家じゃないので正式な名前すら分からない、薬草と呼ばれていて持っていけば売れるって事しか知らん。

 これからは何が抜き出せるんだろう?癒し効果だけ抜き出すとか出来るんだろうか?


「うーん、草?」

 生み出される【草】、まぁ草だな、だって草だし。草を抜き出された薬草はぼろぼろと崩れだし、灰の様になってしまった。

 とりあえず使ってみようか。

「くさ」

 指先にもさりと草の感触。さっきの草が小さくなって新登場!落ち目のコンビニかよ。



 草じゃ駄目だな。もっと違う物を抜き出す必要がある。

 光を珠にした時は空間の中の光を抜き出した。前世知識のある俺には分かる、光は通常の物質では無い。光子という質量の無い粒子は存在するが、俺が視覚で捉えたのは光子そのものではなく光るという現象のはずだ。

 俺は光子を認識すら出来ない、あの時認識していたのはハッキリと目に見える光そのもの。言ってみれば光という現象・概念を抜き出したんだ。

 なら薬草から抜き出す概念とは?

「癒やしだ。癒やしの効果を抜き出せ」




 手のひらにぽとりと落ちる感触。俺は【癒】の珠を手に入れた。

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