私と夏の終わりにやってきた風物詩
本黒 求
枯れ女とカブトムシ
「涼さんって結婚しないんですか?」
35で独身だと最近色んな人からこう言われるようになった。
「う~ん……別に結婚したいと思わないからね~、特に結婚に憧れもなければ、夢も感じないし」
「そんな考えでいると、いつか『枯れ女』になるよー」
枯れ女? 聞いた事が無いワードだったからあまり気にしてなかったけど、偶々スマホがお勧めしてきた記事に、「枯れ女とは?」、というタイトルが記載されていた記事が目に入ったので、読んでみる。
(ふむふむ、枯れ女とは【女性を捨てかけている人】、を指し示す言葉らしい)
枯れ女になるって言われたけど、私は別に女を捨てているつもりは一切ないよ?
更に記事を読み進めると、具体的に女性を捨てかけていると判断される行為について記載されているみたいなので、読み進めていく。
・恋愛に長くご無沙汰身
……いきなり一つ当て嵌まってしまった! 彼氏なんてもう5年以上いないよ。
・身なりに全く気を使わなくなった
これは……半分当て嵌まってしまっているかもしれない。
ファッションやメイク、肌ケアなんかに全く気を使っていない訳じゃないんだけど、以前より明らかに気を使わなくなっているかも……
どうやらこの二つが当てはまると「枯れ女」に該当するんだって。
だからと言って私が現状を改善する気があるのかと言えば、一切無いんだよね~
だって現状この状態で私は、それなりに人生楽しく生きていけてるんだもの!
仕事はそれなりにやり甲斐を感じて楽しんでやれちゃってるし、休日は趣味友ともそれなりに楽しく過ごせているから、ここ数年彼氏がいなくても特段寂しさを感じた事もない。
要は現状にそれなり満足しちゃってるのが、枯れ女化に直結しちゃってる以上、私は世間から見るとやっぱり枯れ女に該当するんじゃん!
こうして私事”小鳥遊 涼”は、35という年齢にしてまた一つ新たな悟りの境地に達したのであった。
*
「朝っぱらからこんな事考えてると、何か虚しくなってくる……」
朝食を食べながら弄っていたスマホが表示するお勧めの記事にて、「枯れ女」、に関する記事を覗いてしまった事が運のツキだったみたい。
私は朝からもう既にゲンナリ気味……こんな気分で仕事始めるとか嫌だよね~
そんな事を考えていると、在宅勤務における出勤時間が近づいてきたので、私は会社から渡されたPCの電源を入れ、出勤時間が来るのを待っていると、PCの先に見えたのは、活動時間を終えてゆっくり休んでいる姿を見せつけてくるアイツ!
(これから私は在宅勤務が始まるというのに、目の前で堂々と休んでくれちゃうなんて、何ともいい身分だよね~!)
なんて憎たらしい目で私は、飼育ケース内で休んでいるカブトムシを見ていると、ふと思うのは
(やっぱり安請負する物じゃなかったかな……)
そんな私の後悔の念など露知らず、PCの向こう側から同僚の朝の挨拶が聴こえてくる9月の終わり頃。
そして戻れるなら戻りたいと思うのは、8月が終わりを迎えるあの日。
私がコイツを世話する羽目になった出来事を思い返す……
*
今年も記録的猛暑だった所為か、世間では、「果てして8月が終わったら本当に少しは暑さが和らぐのか?」、なんて話題で持ち切りだった頃、突如お兄ちゃんから一本の連絡が入った。
なんでもこの新型ウィルスが世界の至る所で蔓延しているお陰で、海外渡航するのも厳しい世界状況下だというのに、以前から何度も話題にしていた海外出張が、まさか今のタイミングなって急遽決まり、なんとお兄ちゃんは、この海外出張に家族を同行させるという思い切り過ぎる決断を下していた。
お兄ちゃん曰く、「子供達に貴重な体験と経験積ませるまたとないチャンス!」、との事だけど、今のこの国の状況なら周囲から大いに非難される事でも恐れないで決行出来るのが、お兄ちゃんが超大手の重役候補たる所以なのかもね。
そんな私みたいなごく普通の一般人と違うお兄ちゃんが、「海外に行く前に私に託したい物がある」、なんて言ってきたから、何かと思ってお兄ちゃんの所に行ってみる。
そしてお兄ちゃんが私に託したい物とは、お兄ちゃんの息子であり、私にとっては会う度につい可愛がってしまう甥っ子であるゆうくんが、この猛暑の中、態々山に行ってまで捕まえて来たカブトムシだった。
ちなみに私にカブトムシを託して来た理由というのが【私が自宅出勤なら時差があってもお互い起きてる時間が重なるから、ブトムシの様子が気になった時にライブ配信で様子が見れるから!】だって。
あのね、私がいくら家に居るって言っても、お互い起きてる私の時間のほとんどが”仕事中”だという事忘れてない?
そんな私の気持ちなんて一切考えてないお兄ちゃんの中では、私がカブトムシ飼育を引き継いでくれる事は既に決定事項のように話を続けてきたので、私は
「カブトムシの飼育なんて嫌だよ!!」
っと、キッパリ断りの一言をいれてあげた。
しかしこの程度の事で簡単に折れる様子を見せないお兄ちゃんは、「世話してくれた分の報酬は絶対出す」、という提案を持ち出し、私はその言葉に対して僅かながら聞く耳を持つ姿勢を見せてしまったのが良くなかった!
そんな私の様子を見たお兄ちゃんは、「待ってました」、と言わんばかりに、ゆうくんに声を掛け
「おねぇちゃ~ん! おねが~い!! カブトムシを、ぼくのかわりに、かってください!!!」
あからさまに狙ったタイミングで、お兄ちゃんが用意したセリフを、たどたどしくも一生懸命私に伝えてくるゆうくん。
例え言わされてる感が分かったとしても、その言葉を一生懸命言う姿はとても可愛らしい。
そんなゆうくんのお願いとおねだりの前に、あっさりと落とされてしまった私は、カブトムシの飼育を内心嫌々ながら引き継ぐことを承諾してしまった。
こうして私と夏の終わりにやってきた夏の風物詩との生活が始まった……
飼育に関する道具に関しては、既にお兄ちゃん達が使ってる物をそのまま譲り受けるだけだったので、特に何も準備する必要もなく、飼育の手順も
「餌である昆虫ゼリーが切れたら交換する事と、二日に一回ぐらい霧吹きで土を湿らせてね」
と言われたぐらいだったから、これならペット買う気が無い私でも、なんとかなりそう。
ちなみに私か代理で飼育する事になったカブトムシは、オスとメスがそれぞれ大きいサイズと小さいサイズが一匹ずつの合計4匹。
ちなみにゆうくん曰く
「おおきオスとメスがけっこんしてて、ちいさいオスとメスはあいじんだよ!」
という説明を受けたけど、ちょっと待って? ゆうくん一体何処でそんな言葉覚えたの??
そしてこんな小さな空間の中で夫婦と夫婦それぞれの愛人がいるって、どんな修羅場な環境!?
(まー、どうせ言葉の意味も良く分かってないで言ってるし、カブトムシは人間みたいな修羅場とは無縁だろうけどね~)
なんて事を思っていた私。
しかしそんな間に受けたらトンデモな相関図は、案外的を得ていた事を預かった初日に私は思い知る事になる。
就寝しようと電気を消し、ベッドで寝転がりながらスマホを弄っている私の耳に、突如カブトムシの入った飼育ケースから、”ガシ! ガシ!”、という謎の音が響き渡る!
何事かと思った私は咄嗟にベッドから起き上がり、飼育ケースを恐る恐る確認しに向かう。
(え!、どうして飼育ケースからこんな音が?)
音の原因が気になりつつ、未知の恐怖に怯えながら飼育ケースを覗く私……すると飼育ケース内では、餌置き場の上でメスとメスが体を激しくぶつけ合って餌場を取り合っていた。
てっきりカブトムシってオス同士だけ喧嘩するんだと思ってたけど、人間と同じように女同士のバトルも勃発するんだね!
もしかしてコレって、ドロドロしたドラマでよく見る妻と愛人によるキャットファイト的な?
なんて思っていると、餌場に近付いてきたオスに対しても容赦なくメスは体当たりを仕掛けていた。
そしてメスの体当たりを食らったオスは、いそいそとその場から退散していく……何か思ってた状況よりこの飼育環境は、過酷で修羅場な環境みたい。
そしてカブトムシの世界においても怒った女の強さは底知れない物があるみたい。
カブトムシの世界においても、男女の関係って複雑なんだね……
そして飼育開始して三日目になると、飼育ケースの至る所に汚れが目立つようになったので、この状態を放置してもいいのか気になった私は、ネット検索でどう対応すべきか調べてみる。
するとSNSやブログにおいて、衛生上良くないから清潔を保つためにも掃除は必須!、との御意見。
カブトムシ飼育の報酬は既に前払いで頂いちゃってるから、最低限の世話はしないとな~っと思った手前、飼育ケースを掃除する事に。そんなに大きくない飼育ケースだから掃除なんてすぐ終わるよね~!
なんて私も考えていた時がありました……実際にやってみると、カブトムシの飼育ケース掃除って想像以上に手間が掛かる!
ケースの壁にこびり付いた汚れは、どうやらカブトムシのオシッコみたいで、しっかり拭かないと取れないし、エサ入れもカブトムシが食べ散らかした昆虫ゼリーで至る所がベトベトかつ土塗れ!
ネット検索で、「カブトムシの飼育なんて他のペットに比べたら簡単だよ☆」、なんて記載しているブログを幾つか拝見したけど、結局の所その意見って経験者かつ慣れた人の意見でしかないのよね。
やはりネットの意見を鵜呑みにするのって危険だね。
分かってはいたけど、その事を再認識した今日この頃。
飼い始めてから二週間近く経過した9月の上旬、二匹のメスの内、小さいメスが引っ繰り返ったまま動かなくなっていた。
元々カブトムシの寿命は夏が終わるころには、「その殆どがその生涯を終える」、的な事を耳にした記憶があったので寿命が尽きたのかな?
私はその短い生涯を終えて、飼育ケース内で一切動かなくなった一匹のメスを見て
「良~し!、これであと三匹だ~!!」
なんて思わず言って喜んでいた。
そして既に海外で暮らしているお兄ちゃん達にチャットアプリで、カブトムシのメスが一匹ご臨終した訃報を、をょっと悲し気な感じを醸し出しながら入れる。
そしたらまだ起きている時間だった為か、直ぐにお兄ちゃんからビデオ通話が入ったので受けると、スマホ画面に最初に映るのは、ゆうくん!
するとゆうくんは、開口一番に「メス一匹死んじゃったんだね~」、とちょっと寂しそうな声を出す。
だけどその言動とは裏腹に、スマホ越しに映るゆうくんの手には海外で買ってもらった玩具がしっかりと握りしめらていて、視線もビデオ通話の相手である私より、手に持っている玩具の方に向かってチ~ラチラ。
(……既に興味が別の方向に向いてるじゃん!)
そしてその光景をしっかりと見た私は、ビデオ通話を切る前にお兄ちゃんに
「もう私が飼う必要ないんじゃない? ゆうくんあんまりカブトムシに興味なさそうだし」
っと、カブトムシ飼育もう終わらせもいいんじゃないのかな?っという方向で話を勧めてみるけど、お兄ちゃんからの返答は
「ゆうは涼の報告を楽しみにしているから継続に決まってるだろ!」
と言われてしまので、結局私とカブトムシの戦い?は、残念ながらまだまだ終わりを迎えれそうにはないみたい。
時期は9月の中旬。
最近姿を見せないと思っていたもう一匹の大きめのメスが、腐葉土の中でお亡くなりなっていた。
(残す所はオス二匹!)
そう思うと、ゴールが少しずつ見えてきた感があったので、ちょっと嬉しい気分でお亡くなりなったメスの死骸を片付けていると、白い2mmぐらいの薄いクリーム色をした丸い物体が飼育ケース内に転がっている事に気が付いた。
「なんだろう?」、と思ってその物体について調べてみると、どうやらカブトムシのメスが産んだ卵みたいだね。
そういえばカブトムシを預かる際に
「けっこんしたカブトムシのこどもがみたい!」
なんて、ゆうくんが言っていたのをふと思い出したけど、正直言って私は芋虫とかミミズとかウネウネ系の生き物は、大の苦手だから幼虫の面倒なんて見たくない!
だから私は、「この卵をこのまま報告する事なく処理しよう」、と決意したが、自分の手を汚したくない私としては、「何とかして己の手を汚さずして卵を処理する言い方法が無いか?」、と再三お世話になっているネットにてカブトムシの卵について調べてみると、私にとっては喜ばしい情報が見つかる!
【卵は見つけ次第親と隔離しないと、親が卵を潰してしまいます!】
この情報を得た私の取るべき行動はただ一つ! 見て見ぬふり!!!!! コレに限る!!!!!!!!
愛して止まないゆうくんには悪いけど、私の最低限の務めはカブトムシの成虫飼育であって、幼虫飼育というブリーダー染みた事じゃないのよ。
そもそも誰が苦手なタイプの生き物を、好き好んで飼育したいと思うかな?
こうして私はメスが必死に生んだ生命の源を保護する事も隔離する事もなく、只その場に放置する事に決めたので、私が発見した卵は存在事闇に葬られた。
そして9月の下旬になると、中々しぶとい二匹のオスの内、先にその生を全うしたのは小さい方のオス。
こうしていよいよ残す所は一番大きなオス一匹のみ!
ついに私のカブトムシ飼育生活のゴールは目前だ!!
そして10月に入り、もはや完全に日課となったカブトムシの様子チェックすると、この日のカブトムシの様子は何時もと違って、明らかに動きが鈍く弱弱しくなっていた。
その様子は、カブトムシ飼育初心者の私でさえ、近いうちにこのオスにも死期が訪れるのを感じ取れるぐらい。
だけど弱弱しくても懸命に動くカブトムシの姿は、何とか必死に生きようと足掻いてる姿にも見え、私は今更になってこのカブトムシに対して、「もう少し元気に生きてほしい」、なんて自分勝手な考えを持ってしまった。
どうやら一カ月ちょっと四六時中一緒にカブトムシと生活していたことで、多少なりカブトムシに情が移ったみたいだけど、こんな私を一カ月前の私が見たら、「ホント自分勝手なヤツ!」って間違いなくツッコんでそう。
こうして再びネットの海を探り、「カブトムシが元気になる方法はないのか?」、と調べてはみたけれど、いくら私の求める答えを探しても出て来る結果は「こうなったらもう寿命」という非常な現実だけで、私の今更感のある足掻きなど既に手遅れだ! という現実を知ら占めるように、最後のオスは動きが緩慢になったのを確認した三日後に、ピクリとも動かなく無った。
こうして私のカブトムシ飼育生活は、ようやく解放された感と、多少なり愛着を持ち始めた物を失うという喪失感、何とも矛盾した気持ちが交差する複雑な心境で終わりを迎え、カブトムシの死体や飼育で使った物をこのまま放置する訳にもいかないので、処理する事にしたんだけど、その際無暗に野に放つのは土壌汚染に繋がる可能性があるという事なので、私は可燃ゴミとして処理するという旨をお兄ちゃんに伝える。
するとお兄ちゃんから、「捨てる前に幼虫が居ないか確認する」、という連絡が入ったんだけど、何気にカブトムシ関連の報告関して一番食い付いてるのって、間違いなくお兄ちゃんだよね?
「最後に幼虫残ってないかのチェックしろ」なんて、ゆうくんの意見聞く前に私と話を付けてるぐらいだし!
これぞよく聞く「子供と始めた事が、実は大人の方がハマってる」の典型的な例なんだと思った。
こうして燃えるゴミの袋の中に、飼育ケース内に残っていた腐葉土を広げ、お兄ちゃん達にビデオ通話でその様子をみせるけど、やっぱり幼虫の姿は見当たらない。
それは当然、だって私が計画的に卵が残らない状況を作っていたんだから!
そんな私の計略なんて露も知らないのお兄ちゃんとゆうくんは、スマホ越しに私がビニール袋に広げた腐葉土の中から一生懸命幼虫を探しているけど、そんなに一生懸命探した所で無駄だけどね~
期待を裏切るようで悪いけど、私だって苦手な物は出来るだけ避けたいと思う極めて普通の人間だから許して。
そんな事を考えつつ、お兄ちゃんの指示に従って土を弄っていると
「ねぇ、おねえちゃん! いまなんかうごいた!!」
(そんな事ある訳ないよ~)
と思いつつ、スマホ越しに大きな反応をみせたゆうくんの言葉に従って、何かが動いたという場所を穿り返してみると
「ひっ!!!!!!!!!!!」
思わず声にならない声が出てしまった!
私が声にならない声を上げてしまった理由……それは私が誕生させないように策を講じたハズの存在が一匹だけ”モゾモゾ”と動いていたからに他ならない。
こうして終わりを迎えたと思っていた私のカブトムシ飼育生活は、幼虫飼育という名の望んでない次のステージへ進むことに。
……まさか策士策に溺れるという事を、カブトムシから教わる羽目になるなんて。
生き物の子孫を残そうとする底力って本当に逞しいね……
こうしてダダ下がりのテンションの中始まった幼虫飼育。
しかし意外にも成虫飼育を経験していると、成虫飼育に比べてほとんどやる事がないという嬉しい事実が発覚!
やる事と言ったら餌である腐葉土を三カ月に一度ぐらい交換する事と、湿度管理ぐらい。
成虫のように餌を頻繁に交換したり、ケースの掃除を頻繁にやる必要がないと、お世話が非常に楽に感じてしまうのは経験の成せる技かな?
もっとも大した手間もトラブルもないと思っていた幼虫飼育だったけど、幼虫飼育二か月目に成虫飼育より遥かに嫌なトラブルが発生。
それはキノコバエという羽虫の発生だった。
自分の部屋に置いてある物の中に大量の羽虫が湧いている光景と、小さい羽虫が自分の部屋を飛び回るのは、非常に気分が悪かったので
「良し、幼虫飼うのもう止めよ!」
と本気で思った事もあった。けど
「せっかくそこそこ幼虫大きくしたのに、ココで止めるのって、途中で投げ出した感があって嫌だから、羽虫対策が出来たら飼育を続けよう!」
なんて我ながら飼い始めた時には絶対なかった考えが思い浮かんだのは、成虫と違って幼虫は時間を重ねる度に大きくなるので、あんなグロテクスな生き物とは言え不思議と私が育てている感が湧いたから、成虫同様愛着湧いちゃったからなんだよね。
だからと言って触りたいとは露にも思わないけど!
こうして幼虫が大きくなる方法と、発生した羽虫対策を調べ、飼育素人の私でも出来そうな事だけをチョイスしてやってみる事にした。
まず羽虫対策として、羽虫は幼虫の餌となる腐葉土から発生するので、発生した場所から外に出さなけばこれ以上被害は広がらない。
だから飼育ケースを100均に売ってる洗濯ネットの中に入れて羽虫が外に出れないようしつつ、羽虫が湧いたらドライヤーの熱を当てて羽虫を駆除!
コレを一カ月ぐらい繰り返していると、いつの間にか羽虫事キノコバエは一切発生しなくなったので、羽虫対策と処理は無事に解決!
次は幼虫を大きくする為に私がやれそうな事をやってみる事に。
まず手を出したのは【幼虫が大きくなる】というどの界隈でもよく聞くような触れ込みの入った腐葉土を購入して、飼育ケースに導入してみた。
要はお金の力に頼っただけ!
それに幼虫用の高級腐葉土一袋の値段なんて人間の食べてる高級食材からすれば、うん十分の一の値段だったし、最近外出がめっきり減ってお金を使う事が減った事もあったからか、特に何とも思わない出費に感じた。
そしてこの事を友達に話したら
「自分にお金かけないで、カブトムシなんかにお金かけてるから枯れ女化が進むんだって……」
って言われて呆れられちゃったけど。
そして私が幼虫を大きくするためにもう一つ出来そうな事が、低温飼育と呼ばれる飼育方法で、要は冬の間に活動を停止するカブトムシの幼虫を15℃程度の温室に入れ、冬でも幼虫を緩慢に活動させての成長を促す飼育方法らしい。
もっとも私はそこまで厳密に温度管理が出来る自信は無いので、とりあえず冬場は暖房の効果が及ばない玄関に飼育ケースを移した後、飼育ケースは適当なサイズの段ボールに入れた後、段ボールの中に宅配便なんかでよく使われる緩衝材を入れて、幼虫飼育用の人工温室のような物を作り、後は春が来るのを大人しく待つことに。
こうして寒い冬が終わり三月の終盤になると、気温が夜でも15℃を下回らない環境へと変化したので、私は幼虫を再び温室から自室に戻し、再び目に届く範囲で飼育を再開する。
冬が終わって気温が暖かくなると、幼虫は蛹に変化する前に今まで以上の大食漢へと変貌するようで、この時期からは餌である腐葉土交換が日に日に大きく減ったのので、餌交換は一カ月に一回やってあげた。
その際幼虫の体は500円玉より大きくなっており、体長だけでいったら10センチぐらいになっていて、始めて見た時は2センチぐらいだった事を考えたら、かなりの成長したのをしみじみ感じる。
そして幼虫の体色は、白から薄い黄色に変化したんだけど、どうやら黄色に変化すると蛹へと変化する準備が始まった兆候みたい。
このまま順調にいけば6月ごろには蛹に変化するらしいので、私の幼虫飼育のゴールも遂に見えてきた!
そして五月に再度の腐葉土の交換するために、幼虫を土から穿り返してみると、幼虫は更に黄色味を帯びた体色に変化していたから、幼虫は蛹に変化する準備が更に進んでいる様子。
どうやらコレが私にとって、この幼虫の為に出来る最後のお世話になりそう。
こうして6月になって全く腐葉土が減らなくなったから、恐らく幼虫は蛹になる状態に映ったと思うんだけど、どうにもケースから見える場所で蛹なる準備を進めている訳ではなさそうなので詳細は分からないんだよね。
てっきり私が見える場所で蛹になってくれると勝手に思い込んでいたら、蛹を見える場所で作ってくれるかどうかは運が絡むみたいで、絶対に飼育ケースから見える場所に作ってくれるとは限らないみたいだし、この段階に入って下手に幼虫に刺激を与えちゃうと、蛹から成虫へと変化する際に、羽化不全という症状を引き起こして死んでしまうケースがある!
との事だったので、下手に触る事が出来ない以上、後は無事に羽化してくれる事を願うしかないみたい。
そして時期は七月の終わり。
海外からお兄ちゃん家族が一度日本に帰国するという連絡が入り、その際
「カブトムシの幼虫がどうなったのか見たい」
という事で、私の家に来る事に。
こうして私の元に、約一年ぶりお兄ちゃん家族が元気な姿を見せに来てくれた。
そして成虫となった姿を見せないカブトムシが、成虫になったか確認したい!とお兄ちゃん達が言ってので、その要望に応えるべく、私は土を慎重に穿り返す。
するとそこには無事に蛹から羽化したメスのカブトムシの姿が!
ちなみに大きさは5,5センチぐらいで、果たして大きく育ったのかは良く分からないけど、私としては手塩に掛けて育てた幼虫が立派に成長した姿を見せてくれた事に大いに感動していた。
だけど本来の飼い主?であるゆうくんは
「メスじゃなくてオスがよかった……」
っと不満気の様子で、シレっと私の感動に水を差して来るのだが、こればっかりは育てた私にしか分からない感動なので仕方がないかな~
そして私はお兄ちゃんとゆうくん、そして私が育て上げたカブトムシのメスと共に、私達はお兄ちゃん達がカブトムシのメスの親を捕まえたという場所に来ている。
「じゃあバイバイしよっか」
「うん、バイバイ~」
私は育てたカブトムシのメスをこれ以上育てる気はなかったので、本来居るべき形に戻す事にした。
我ながら自分勝手な考えかもしれないんだけど、私がこのまま飼い続けた所で私はこれ以上繁殖させる気もないとなると、このメスは本来生物として全うすべき目的である子孫繁栄に携わる事すら出来ないんだよね。
だったら本来居るべき場所に戻してあげて、本来の生を全うさせてあげた方が、私に買い殺されるよりはよっぽどマシだと思った私は、その旨をお兄ちゃん達に伝えた。
するとこの事に対して文句を言ってきたのは、案の定一番カブトムシにハマってる様子を見せたお兄ちゃんだったけど、このメスの生き方をどうするかを決める権利があるのは、育てた私の特権だと思うし、「そんなに育てたかったら自分で育てて!」って言ってやったら、渋々私の言う事に従う様子を見せた。
そりゃそうだよね! だって他人任せに育てさせといて文句ばっかり言っても、説得力ゼロですから!
文句があるなら何事も自分でやった上で言いましょう!
(しかし何事も実際にやってみないとその本質は見えてこないという事を、カブトムシから再度教わるなんてね~
幼虫が育つので楽しい気持ちになったんなら、もし我が子なんて育てたら私は一体どうなっちゃうんだろね?)
そんな事をふと思いつつ、私は私が育てたカブトムシが森の中に消えて行くのを見届けた。
私と夏の終わりにやってきた風物詩 本黒 求 @th753
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