第5話 フリーダム


「……どうなっていやがる、ウアイラ」

「あら、なかなか伊達になったじゃないの、ヴェイロォン?」

「やかましいわボケぇ!」


 真っ黒こげになったヴェイロンは意味不明な事態に肩を震わせ、背後から足音を響かせてきたウアイラへと怒鳴り散らした。


「どうもこうも、こういうことなのよ、ヴェイロン」

「ちっとも要領を得んぞ腐れボケが! 何が何なのかちゃんと説明しやがれ!」

「うっさいわねぇ、このバカ魔王は……はいはい、じゃあよくお聞きなさいな」


 ウアイラは一つ咳払いをすると言葉を続ける。


「呪いにも色んなものがあるのは分かる?」

「色んなもの?」

「単純に分けて個に影響を及ぼすもの、そして全に影響を及ぼすものとがあるのよさ」

「ふむ……」

「この子の場合、全に影響を及ぼす呪いがかかってる……っぽいような気がすんのよ」

「また酷く曖昧な……それに今の現象はそんな程度で済むことではなかろうがよ……」


 突然の落雷という現象。

 しかしアポロ本人は驚く素振りもなく、どころか非常に申し訳なさそうな顔をしてヴェイロンを見つめている。


「それが起こっちゃうからこその神の呪いよねぇ。つまりはね、超常ちょうじょうの主とも呼べる神格の長ともなればさ、それこそ超自然的な現象すら呪いの効果として発動できちゃうわけよ」

「なんという出鱈目だ……」

「そもそも……ねぇ、アポロちゃん?」

「は、はい、なんでしょうか」

「あなた、さっき空を吹き飛んできたわよね。衣服もボロボロだったけど、何があったの?」

「ええと、その……地雷キノコに馬車ごと突っ込んでしまって……」

「……どう油断したら地雷キノコと衝突するのだ? ニオイで分かるだろうに。第一、馬がいてそんなことが起こるのか?」

「現に起こってんでしょ?」

「うぅむ、難儀だ……」


 今時、童でもそんな真似はない――ヴェイロンは呟きつつアポロを見つめる。


「けどね、何よりも恐ろしいのは……本人だけは無事だってことよ」

「いやいや、空を吹き飛んできて無事も何もなかろう」

「そうかしら? 大爆発に巻き込まれておいて身体的な怪我は何もないし、偶然だの奇跡にせよあんたがアポロちゃんをキャッチしたじゃない」

「それは悪運というやつではないのか?」

「違うわ。それこそがこの子にかかった呪いの本質よ。この子にかけられた呪いは他者を巻き込み、最悪は殺したり滅ぼすような状況でも、本人のみは絶対無事であるっていう呪いなのよ」


 つまり、それは疫病神のようなものだった。

 不幸を撒き散らすが当人は無事で、周囲を傷つけるばかりの厄災にも等しい呪いだった。

 それこそがアポロの呪縛であり、ウアイラの言葉に彼女は顔を俯け、静かに涙を零す。


「……恐ろしいですよね、こんな女。普通にしているつもりでも周りが傷ついて、そんな中で私だけがいつも無事で」

「アポロちゃん……」

「御想像の通りですよ、魔王ヴェイロン。私は西の果てにある聖ガヤルド国という国家の第一王女、アポロ・グンペルト・ガヤルドです」

「……ふん、そうかよ」


 恐怖の疫病神――そんな彼女は一国の御姫様だった。

 ヴェイロンは腕を組むと鼻を鳴らし、やはり難儀だと零す。


「これは……王家そのものにかけられた呪いか、ウアイラよ」

「……かもねぇ。恐らくは代々、正室の長女が対象とされるんじゃないかしら」

「はい、その通りです女神様。ガヤルド一族では代々長女がこの呪いを引き継ぎます」

「……対象が女に限るというのは実に糞極まるな。そうは思わんか、ウアイラ」

「あー、でもなんとなく察するわー……」

「そうだな……」


 まるで〈思い当たる節でもあるような二人〉だが、アポロは説明を続ける。


「この呪いの発端となったのは約二百年前のことだといいます。なんでも……我が先祖が、神のきさきである女神をほふった、とか……」

「ほおぉー……随分と血の気の多い話だな。まるで人の為すことに思えんぞ。それこそ〈魔のやること〉だろうになぁ」

「ま、まぁまぁ、古い人類ってのは結構やること派手だったからねぇ?」

「神と名のつく連中はどいつもこいつもうざったい性格のようだな……おい、小娘」

「は、はい……」

「及ぼす効果は他人にのみ、というが……貴様自身に直接害はないのか?」

「それはないです。副次的に作用したり影響することはありますけど、直接的なものは一度もありません」

「ある種は〈加護のようなもの〉か……しかし、何代にもわたる呪縛とはな。どうなのだウアイラ、貴様でなんとかなるのか」

「なんであんたが気にしてんのよ? 人間のことなんて興味ないくせにさ」

「馬鹿者、この小娘のせいで既に我が家に被害が生じている。即刻これを解消せねば新たな被害が生まれるかもしれんだろうが」

「ふーん……ま、そういうことにしておこうか?」


 アポロは慣れたように困った笑顔をつくるが、その表情には悲しみの色が紛れていた。


(やっぱり、迷惑よね。そうよね……爆発は起こすし雷は落とすし、私、やっぱり……)


 実をいえば、アポロは自身の呪いを解決できるとは思っていなかった。


 まるで逃げるように国を出たアポロは、そのまま雲のように消え去り、誰にも被害を与えることなく、静かに暮らしていこうと考えていた。

 しかしそれすらも叶わないとなると、いよいよアポロは最後の手段を考える。


(死んだ方が、いいよね)


 本人の意思も都合もお構いなしに周囲には害が振り撒かれ、それにより傷ついてきた人々を数え切れないほどにアポロは見てきた。

 中には命の危機に陥る者もいたりして、その都度アポロは自責の念に埋もれ、周囲も周囲で無言ながらに彼女を責めた。


 負の環境で生きてきた彼女にとって、自身の命というのは、然程重要ではなかった。むしろ多くの被害をもたらす、悪しきものだとすら考えていた。


「けどま、どうにかなるってのは……難しいわよ。いくら私といえどね。呪いを施した神本人じゃないし……」


 そのウアイラの言葉にアポロは決心がついた。


(そっか……やっぱり無理なのね。なら、もう、私は……)


 アポロの目尻に涙が溜まる。

 こんな時、悲しみという感情があることにアポロは内心で驚いたが、それでも今までのことを考えると、自分は泣いていい立場にはないと思った。


「あの、ありがとうございました、女神様。とんだご迷惑をおかけして……」

「え? えぇと、アポロちゃん?」

「やっぱりそう簡単に解決するわけないですよね。お邪魔しました」

「い、いやいや、お邪魔しましたって……」


 ベッドから立ち上がるアポロ。彼女は震える身体で出口へと向かう。

 しかし、そんな彼女の前に立ち塞がる大男がいた。


「……なんですか」

「あぁ? 別になんの用もないわ」


 それはこの家屋の家主をのたまうヴェイロンで、彼はどこか不服そうな、ともすれば不機嫌そうな表情でアポロを見下ろしていた。

 見上げる形のアポロは鈍い眼光で視線を返すが、それを見つめるヴェイロンは舌を打ち眉間に皺を寄せる。


「ならどいていただけますか」

「ふざけるな小娘、貴様がどけ」

「……なら、さようなら。お世話になりました」


 言い合う気すら失せ、アポロはヴェイロンの真横を通り過ぎていく。

 互いは背を向け合う形になるが、そんな去り行くアポロ背中に向けてヴェイロンが言葉を紡いだ。


「なんだ、もういいのか。雑魚とは悲しい生き物だな」

「…………」

「果たして貴様が何の為にここまでやってきたかは知らんが……可能性がないと知れたら全てを諦めるわけか」

「なんなんですか、あなたは」

「何も糞も、隠居した元魔王だ」

「そうですか、それはご立派ですこと。それではさようなら」

「ああ、さらば……といいたいがな、小娘」


 場を去るべく歩みを続けているアポロ。

 しかし彼女は唐突に動きを失った。


 何せ、今、去り行く彼女の肩をヴェイロンが掴んでいるからだった。


「どうしてくれるんだ、あの天井を」

「……離した方がいいですよ、魔王ヴェイロン」

「知るか糞ボケ。いいか、この生意気娘めが。貴様が悪いんだぞ。雷なんぞを落としてくれたせいで、せっかくの新居に穴が開いたではないか」

「金銭なら払います。ですから早く離れてください」

「黙れ。誰が金の話をした」


 ヴェイロンは天井へと指を向ける。


「直せ。お前の手でだ」

「……あなたは、本当に、なんなんですか……?」

「だから、元魔王――」

「人をおちょくるのも大概にしてよ!」


 ついにアポロは怒鳴り、ヴェイロンへと振り返ると肉薄する勢いで捲し立てた。


「誰が好き好んで雷なんて落とすのよ、近寄らないでっていったのに近寄ったのはあなたじゃない! 呪いの話だってしたのにそんな忠告すら無視したのはあなたでしょう! 悪いとは思ってるわよ! けどねっ……私だって、こんな呪いなんて、いらないのよっ……!」


 激情に支配されるアポロは思いの丈を散々に叫んだ。


 それはきっと彼女の内にある感情の全てで、長く溜め込み、それを一切口にせず過ごしてきた彼女が、今生こんじょうにおいて初めて口にした自身のありのままだった。


 何せ感情の起伏や心の変化一つで景色が変貌する可能性がある。

 故に彼女は激情の全てを堪え、それを封じてきた。


 ところが彼女はついに泣き叫んだ。


 己の思う苦しみを吐き出した時、彼女は不思議と胸の内が軽くなった気がして、歪なことではあるが、彼女はこの時に初めて自由に表現することを体感し、これこそが生命の持つ〈生きる〉ことに直結するものなのだろうと実感する。


 しかし運命とは残酷であり、身を蝕む呪いとは正しく呪いのありのままだった。


 彼女が怒気を露わにすると同時、見る間に空の色合いがかげり、黒く染まり、不穏な空気が漂い始める。


「あわわわ、ちょっ、アポロちゃん落ち着いて! これまたヤバイのがくるってば!」


 暗雲の垂れこめる空から雨が降り、雷が空を飛び交った。

 先までの快晴が嘘だったかのようで、意味不明な事態に森の妖精達は混乱し、動物達は逃げ出し、自然の多くは悲鳴を上げた。


「ふん……いらないだのなんだの、ならばどうにかすればよいだろうが」

「できないから困ってるんでしょ! 神頼みだってする程なのよ!」

「それで、その神本人が無理だといえばそれで終わるのか。実に無様だな、雑魚め」

「っ……あんたなんかに、何が、何が分かるのよ……!」


 轟々と空で雷鳴が轟き、雷は束となり、ヴェイロン邸の真上で渦を巻いた。

 最早平穏な〈眠りの森〉の姿はどこにもなかった。


 その様子はさながらに魔王城の景色と酷似するほどに禍々しい様子で、断罪の時を思わせるような、絶体絶命の瞬間だった。



                ◇



「おい、テスタロッサ、こりゃヤバイぜ!」

「ええ、とんでもない勢いだわ……姫様の身になにが……!?」


 森を彷徨っていた少女達――ボーラとテスタロッサはようやく湖畔へと到着し、空の様子を見て焦燥に駆られた。

 二人は雷が落ちるであろう場所――ヴェイロン邸を発見すると一目散に駆けだし、中にいると思われる姫君の下を目指す。


「おおい、姫さまぁ!」

「御無事ですか……って、な、なに、あの大男は!?」


 扉を蹴破り、二人はアポロ達が対峙している寝室まで辿り着く。

 しかし飛び込んできた光景といえばアポロがヴェイロンに怒鳴り散らす瞬間で、二人は理解が追い付かないながらに、アポロの様子を見て確信を抱いた。


 間違いなく途轍もない呪いが襲うと。

 それこそアポロの怒髪冠を衝く姿に相応しい程の恐ろしい呪いの一撃が〈眠りの森〉に降り注ぐだろうと。


「こりゃやべぇ、おい、そこのあんた! 逃げろ、早く!」

「誰だか知らないけど、とんでもないことになるわよ!」


 二人の手が伸びたのと、アポロが涙を零しながらに叫んだのは、ほぼ同時のことだった。


「私は、私はぁっ……ただ、幸せになりたかった、だけなのに……!」


 空で渦巻く極太の雷が、ついにその身を地へと落とした。

 激しい音と衝撃によって世界は数瞬の間、白く染まった。


 落下地点はヴェイロン邸。

 地上に突き刺さった雷は新築だったヴェイロン邸の屋根を完全に吹き飛ばし、周囲は焦土と化す勢いだった。


 しかし、そんな光景だというのにもかかわらず、信じられないことが起こっている。


「幸せになりたい……か」


 確かに屋根は吹き飛んだ。

 世界は焦土と化す程の衝撃に包まれもした。


 しかし、その中にいたアポロ達は、皆、無事だった。


 先のような衝撃に包まれたとしたら人も魔も木っ端微塵に消し飛ぶのが当然だ。

 ところが、そんなものを意に介さない化け物がこの場に確かに存在していた。


「自身の気持ちが明確に分かっているのに、貴様はその理想や願いを捨て去るというのか」


 ただ、拳を天へと突きつけている――それだけ。

 それだけのことで、なんとヴェイロンは、先の雷の一撃を粉砕していた。


 地上の全てを薙ぎ払う一撃を、超自然的な暴虐の嵐を、彼は拳の一つで受け止め、どころか押し返し、己の背を山のように隆起りゅうきさせると、それこそ払拭ふっしょくする勢いで拳を振り抜き、世界を襲った極太の雷を真正面から全力でぶん殴り、呪いの脅威を打ち消して見せた。


 ウアイラまでもが腰を抜かし地に這いつくばる中、ヴェイロンは皆に見上げられながら静かに歩み、傍で泣きじゃくっているアポロに向かって淡々と言葉を口にした。


「小娘。確かにこのボケ神は無理かもしれぬといっただろう。だがそれで諦めるのは早すぎるのではないか」

「だっ……だっ、て……」

「だってじゃない。いいか、小娘。それと決めたことであるならば……そう簡単に諦めてはならぬ。困難だろうが苦難だろうが、それでも尚と立ち向かわなければ、貴様は死ぬその瞬間まで絶望に支配されたままだぞ」


 ヴェイロンは再度アポロの肩を掴んだ。

 その挙動に対しボーラとテスタロッサは驚愕の限りだったが、当の本人であるアポロは、もう、何の文句も口にはしないし、彼の行動に驚きもせず、己を真っ直ぐに射抜くヴェイロンの瞳を見つめ返していた。


「ウアイラのみで無理ならば他の神に頼ってもよかろう。いっそ存在する全ての神と対話してもよかろう。そうでもしなければ解決できぬというのであれば、そうすればよいのだ」

「そ、そんな、簡単な風にいわないでよっ……」

「簡単ではないだろう。だがそうもしなければ解決できぬのだ。ならば……やるのだ」


 理想を語るような物言いだが確かに手段というのは多くはない。

 皆はヴェイロンの言葉に何もいえずただ立ち尽くすばかりで、力強い台詞が不思議と胸に突き刺さっていた。


「マジで珍しいこともあったもんじゃないわね。あんたが人を案ずるなんて……ねぇ?」

「何を勘違いしていやがる、ウアイラよ。今の話を聞いていれば分かるだろう、吾輩のいいたいことくらい」

「はぁん? 諦めずにがんばりぇー、ってエールでしょ?」

「阿呆か。つまりはだ、貴様でどうにもならんのならばここにいる必要などないだろうが。そうなると小娘は〈眠りの森〉に用はなくなるだろう?」


 いいつつ歪な笑みを浮かべるヴェイロン。

 その表情と、段々と本音が見えてきたウアイラは、一気にげんなりとした顔をしてヴェイロンを睨むと「やはりこいつは糞な性分だ」と呟く。


「もてなしも十分に済んだし、やることも終えたのだ……おい、小娘よ」

「な、なによ……」


 ぽんとヴェイロンはアポロの肩に手を置き、朗らかに笑むと、優しい口調でこういった。


「出ていけ」

「へっ」

「何を呆けたようにしておる。ウアイラが役立たずだと分かったなら他をあたれ」

「んなっ、あんたって奴はぁ……!」

「事実なのだろう? 御大層に女神だなんだと名乗っておいて解呪すらまともに出来んとは見下げた間抜けもいたものだ……おーおー、無様極まるわ」

「ぶっ、ぶぶぶぶぶっ殺すわよ腐れ魔王くるぁああああ! 神相手に嘗めた口きいてんじゃないわよ、あぁああん!?」

「ハーッハッハッハァ! でかい口を叩こうが貴様が何も出来んのは事実だろうが、それを棚に上げて矜持きょうじを語ろうとは愚かにも程があるわ!」

「むっ、むきぃいいいい! このこのこのこのぉおお!」

「ふん、きかんなぁ、柔い拳程度じゃマッサージにすらならんぞボケ神ぃ……!」


 憎悪を籠めて拳を振るうウアイラ。それを涼しい顔で受けるヴェイロン。

 問題の当人――アポロは既に蚊帳の外で、彼女は呆けるばかりだった。


「姫さま、無事か!?」

「あ、あの者等は一体!?」

「ボーラ、テスタロッサ……」


 近侍の二人は状況が飲み込めないままだが、アポロの下へ駆け寄ると無事を確認し、安堵の表情を浮かべると深く息を吐き、一応は事なきを得たと脱力までした。


「あのね、その……あちらの女性はね、女神様なのよ……」

「おぉ、マジでいたのかぁ……にしたって凶暴そうな性格だな、本当に女神様なのか……?」

「こら、ボーラ! それにしても、あっちの大男は一体……? 先程、雷を拳一本で受け止めていましたよね……?」

「つーよりは雷を粉砕したようにも見えたぜ……ありゃ普通じゃねえよ、何者なんだい、ありゃ。魔の者なのは間違いないだろうけど……」

「うん、その、あのね、二人共……信じられないかもしれないけど、よく聞いて」


 乙女達は言い争うヴェイロンを見つる。


 大きな背丈に赤い髪。青い角まで生えていて筋肉をよろうかのような見てくれ。

 何故か背には鍬を負い簡素な着物を纏う姿だが、まるでアベコベな姿には、きっと誰もが困惑するだろう。


「あの大男はね……魔王なのよ」

「……は?」

「今、なんと……?」

「だからね、あの魔の者こそが、私達人類の敵……魔王ヴェイロンなのよ」


 何せ恐怖の代名詞として知られる魔の首魁は辺鄙な地に居を構え、隠遁いんとん生活を満喫していて、そんな悪の大権現、魔王ヴェイロンは神格の長である女神ウアイラと言い争い、彼女にぽかぽかと殴られては大袈裟に嘲笑う。


 これが本当に魔王だと信じる者がいるだろうかと考えてアポロは即座に否だと思い、同じ感想を抱くボーラとテスタロッサも状況に苦笑しつつ、声を揃えて「マジか」と呆れを零す。


「この腐れた因縁もいよいよ終わり時よ、バカヴェイロン……! 今日という今日は嫌という程に教育してやる……!」

「はっ、上等だ腐れボケ神めが……かかってこい糞垂れぇ!」


 魔王ヴェイロン、隠遁生活を始めて三日目のこと。

 呪いの姫君とその近侍、合わせて三名のもてなしを完遂――したのか、なんなのか。

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