第4話
決闘が終わり、自然に宴会が始まった。そして青年は__。
宴が始まった。ふむ、故郷存亡の危機にあって、これは意気軒昂で良いじゃないか。和むねぇ。飲酒は二十歳からだが、こんな状況ではそうも言っていられない。図らずとも主役扱いなのだから。
「ヴォルフガング様、凄まじい一騎討ちでしたな。いやぁ亡き妻にも見せてやりたかった」
「いや父上、母上はそんなもの見せられたら気絶してしまいます」
「……カーティス、あまり飲みすぎるなよ。シリウス、いつもすまないな」
メイヤー親子も上機嫌だ。カーティスは酒が入るとポンコツ気味のおじいちゃんになるが、おかげで妙に人気なんだよな。うん、私も大好きだよ。シリウスはいつも常識人だ。小さい頃は連れ回してすまなかった。
「よう大将、飲め飲め!よく姐さんに立ち向かえたもんだ!」
「うん、ヴォルフくん凄かったよ!」
今度はロジャーとフィオナか。2人とも孤児院出身だが、指揮能力が非凡なロジャーと戦闘能力が非凡なフィオナは、それぞれ歩兵指揮官と私の親衛隊とに配置している。2人ともカーティスの弟子だが、あいつハイスペックだよな。
「あたしとの模擬戦でも使った事ない技だったよねぇ。ケンドウとかなんとか」
「セレナ殿が強すぎてな……ああでもしなければ勝てん」
「それにしても、ゼロ距離で後ろから耳元に『次をどうぞ』は刺激が強くなーい?」
「そう言われてもな。乱暴な事は出来ないし……」
「はー……。自覚してやってるの?地獄に落ちちゃうよ」
「ノーコメントとするが、地獄には落ちるだろうな」
「色男はつらいねぇ」
フィオナがふにゃふにゃ笑いながら、好き放題言ってくれる。ふと、酔っているように見えて酔ったところを見た事がないロジャーが、躊躇いがちに問いかけてくる。
「んで、やっぱり娶るのか?」
「こう言うと殺されそうだが、私はパパと旦那と彼氏にはなりたくないんだ」
『!?!?!?』
焚き火がパチパチ音を上げる。風で何か倒れたかな、ガタンと音が響いた。逃げようかな……ふと、私の肩に手が置かれ、そのまま振り向かされた。
不覚。セレナが目の前に居る。がっちり肩を掴まれている。逃げそびれた。どんな力だよ。
「セレナ様、痛いんですが」
「まずその口調を改めろ」
「たすけて」
痛い痛い、肩がちぎれて砕け散る。
「すみません」
「改 め ろ」
「わかった、わかったから私の腕をもぎ取るのをやめてくれ」
やっと緩んだ。しかし、これはまずい。極めて良くない。撤退ルートは……。
「……」
「……」
バレたのか、また肩関節がギリギリ絞められる。君はいつも察しが良いよな。あ、少し緩んだ。よし、初手いくぞ。
「悩んでいるのだな」
「……死にたいのかしら?」
「待て落ち着け死んだら生き返れないだろう」
先手、メイアイヘルプユー?後手、死刑宣告。そして次手命乞い。うーん、選択を誤ると即死するタイプのクソゲーか。ん?セレナの手がするりと落ちて、やっと視線が外された。暫し俯いた彼女がふたたび顔を上げる。終わった、これは__。
目を潤ませたセレナの瞳から、ついに涙が溢れ落ちる。
「あなた、パパと旦那と彼氏にはならないの?」
***
時が止まったかのような空間で、青年と少女が向き合っている。
あぁ、やはり私は彼に認められていないんだな。無理もない。彼には届かないどころか、どれだけ追い縋っても離される。そしてついに、彼はこれから敵地の奥深くへ赴くのだと言う。そして、私はそれに同道する事も許されず、もしかしたらもう会えないのかもしれない。
『……』
いつもの穏やかな表情で私を見つめてくれる。昔はこれを無表情だと思って、無感動で無関心な人なのかと思っていたわね。それが改まったのは、カーティスさんのお孫さんを抱き上げる彼を見た時かしら。私は『……あなたって子ども好きなの?」と問い、彼は『うん、何でも好きだけど、この子は特に好きだ』と答えたくれたわね。
「……泣かないでくれ」
「えっ」
いけない、私泣いてたの……?しっかりしなきゃ、せめて激励して送り出さなきゃと思って……ダメ、涙がとまらないよ。
「大丈夫だ、俺は死んだ事がないから」
「そういう問題じゃない……」
そっか。そうね、私は彼を送り出したくないのね。理解したら落ち着いてきた。考えろ……ヴォルフはいつも考え抜いて事態を打開してきた。彼を送り出したくないなら、私も考えるんだ。そう、力技ではいけない。彼を屈服させるのに力は必要ない。
「あなたは私に同道を許さず、私は決闘に負けて覆せず、あなたはパパと旦那と彼氏になりたくない……」
「ん?どうした……??」
私はそばに居たい。そう、それなら。
「私はあなたの戦場に、勝手に着いていくわ」
「えっ」
「私と婚約しなさい」
「……やられた」
場を静寂が包み込み、そして__。
「私に着いて来い、婚約は成立させる」
「__」
もう涙がとまらない。こんどはとめなくていいよね?
「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」
本日2度目の歓声が上がり、青年には超弩級フラグがぶっ刺さった。
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