危急存亡の春(1/5)
前回のあらすじ: 遅刻したらUFOに襲われました。
今の珍事をこんな感じで纏められるのは、当事者としては誠に遺憾なのだが、実際事実なのだからどうしようもない。
破壊された地面を見てしばらく放心していたが、UFOから次のビームを撃つ予備動作が確認されたため、僕は未だに寝込んでいる少女をおぶって逃げ出した。
やがて第二のビームが撃ち出されるも、今度は見切ったので余裕で壊すことに成功。さっすが僕!
とはいえ、この破壊力はマズい。いずれ立つ場所すら消える勢いなので、どうにかして止めたい。
…どうやって?分からん。
逃げながら考えてみよう。
怪しい大学にUFOが現れた。なぁるほど…これが偶然で済むわけがない。
…推理もクソもないが、これが正解だと仮定すると、UFOは大学のもの。
遅刻者を爆殺するために送り込む刺客と思えば、合点がいく…わけないな。滅茶苦茶にも限度ってもんがある。
とはいえ、他の可能性も思いつかない。ホワイダニットを気にしている場合じゃないな。大事なのは、殺人を起こさせないことだ。
仮に大学のUFOとすると、建物までビームで撃ち抜くことはないだろう。
現に、二桁に届きそうなビーム数をもってしても、建物に被害はない。
となると、やはり逃げ場は講堂!急…
どっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!
…講堂に続く階段が破壊された。
「えぇ…」
どうしても僕達を建物に近づかせたくないらしい。
その狡猾さは僕を引かせるのに十分だ。
別の建物に行こうとしても、多分同じことをされる…この状況はまさに袋の鼠だ。
…こうなったら応戦しかない。
一度少女を降ろし、手のひらに収まる瓦礫を広い、見定める。よし。
己の持つ最大限の力を込め、UFOに向けて解き放つ。
「はあっ!」
ビームを撃てるのはなにもUFOだけじゃない。一直線に獲物を屠る殺意を持った僕の投球も、まさにレーザービームと形容していいくらいの出来だった。
どうやら、火事場のクソ力ってのは本当に存在するらしい。僕史上一番の好投だ。
瓦礫は見事に命中。「コツン」、と間抜けな音がしたと思ったら、今度は「プシュ~…」とスカしっぺのような音をだし、遂には「ぼかん」、となんともショボい爆発をを起こし、フラフラと空中を移動し始めた。千鳥足と例えたいところだが、地に足がついていないので不適切だな。
完全に壊れた車のような雰囲気を醸し出しており、やはりというか、ゆっくりと地面に近づいていき、墜落した。
「あれぇ…」
肩透かしを食らった気分だ。
100発でも投げる気があったが、その気持ちは空回り。
…いや弱っ。設計ミスだろ。
…まあ助かったからいいか。墜落したUFOを確認したいところだが、まずは治療だな。もどかしいが、背に腹は代えられない。
ガイダンス後に残骸がそのままであることを祈ろう。
「やるではないか、人の子よ」
突如、芝居がかった声とともに、拍手音がどこからともかく流れた。
この如何にも強そうな印象を持たせる台詞と声…黒幕か!?
声がした方向を探ると、漆黒のロングコートを着た男が影から降臨した。
「あ…ありが、とう?」
どう返答するか迷ったので、とりあえず褒められたお礼をすることにした。
いきなり喧嘩を売るのも、質問攻めにするのもよくない。仮に敵だったら怒らせたくないからな。まずは様子見をすべきだろう。
「困惑しているようだね。無理もない。だが、慣れるんだ。ここは特殊な場所。汝ら人の子が到底理解し得ないことが日常的に起こる、
…よくやったな。これで僕の困惑はさらに増した。
放たれた言葉に難しい単語は含まれていない。カオスをわざわざ漢字に変換していそうなのが容易に想像できて腹立たしいが、意味はわかる。
ただ、理解はしたくないな。「混沌の震源地」というのが文字通りの意味をするならば、先程のUFOは余興にしか過ぎない可能性がある、ということだ。
「ここってのは…この島のこと、だよね。どう特殊なのかは、もう身に沁みて理解したよ。どういうからくりなの?」
言葉を発する際、丁寧語とタメ語、どちらで話すべきか迷ったが、結局タメ語に落ち着いた。
フードが深く被られていて目が視認できないが、ロングコート男は間違いなく同年代の人間。彼に合わせて、僕もタメ口で話して問題ないだろう。
「いいや、汝はまだ何も理解していない。島のことも、大学のことも、真実も、すべて!」
またもや芝居がかった口調で、男は大袈裟に、あたかもミュージカルの主演かのように振る舞い、僕の無知を断言してみせた。
「…そう?じゃあ教えてよ、と言いたいところだけど、生憎急ぎの用事があるんだよね。ほら」
背中の少女を彼に見せる。既に白かった僕の肌着が赤く染められており、事態が急を有することが伝わっただろう。
「ほう…それは急がねばならぬな。だが安心したまえ、人の子よ。汝が求める答えは講堂にある。そこで情報を得るが良い。もっとも、その講堂に至る道は既に潰されているが、な」
男は階段の残骸を指差した。まるで断崖絶壁だな。ただ、そんな光景を見せられても、僕は無意識に口角を上げていた。
「なぁるほどぉ…講堂は彼女を手当出来る人間と僕の求める情報、両方があるんだ?じゃあ完璧じゃん。行ってくる。…あ、ちょっと手伝ってくんない?」
先程僕を苛んでいた悩みが解決した。なんせ、両方を得られる。
彼女の命も、UFOの情報も…!
なら、眼前の壁なんて大した事ない!ちゃっちゃと登ってやる。
その準備として、少女の体を僕に巻き付けた。
ロングコート男が気前よくベルトを貸してくれたので、それでキツく縛ることに成功。
「…ふぅ。一先ず準備は整ったね。助かったよ。また今度お礼するね」
「問題ない。汝を観劇するのは面白そうだからな。またゆっくり話そうではないか」
神視点か?まあ、恩人にとやかくツッコむのは野暮だ。多少気になっても聞き過ごしてやろう。
「そうだね。じゃ」
踵を返し、壁と対面する。
「む…待ち給え。重要なことを伝えそびれていた」
「ん~?」
呼び止められた僕を待ち構えていたのは、信じられない情報であった。
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