第6話 ジャーロ
翌朝、荒野の空には薄い雲が漂い、太陽はぼんやりと霞んでいた。アレンが築き始めた新拠点では、小屋の前で難民たちがかがみ込み、わずかな種子を植え、泥まみれになりながらも畑を拡張している。彼らの顔には昨晩より幾分か血色が戻っている。清らかな水と簡易な食糧、そして何より「ここで生き残れる」という確信が、死んだようだった瞳に薄明りを宿していた。
「おい、お前たち、畑はそのまま南側にも広げろ。もう少し気密性を高めた囲いも必要だ。」
アレンが指示を飛ばすと、男たちは素直に頷く。昨日、アレンは彼らに清水と薬、仮住まいを与えた。結果、彼らは半ば崇拝にも似た従順さを示すようになっている。底なしの飢えと絶望を経た者にとって、この地は奇跡に等しいのだろう。もし逆らえば、この恵みが失われるかもしれない。それが、彼らを従順に縛り付ける鎖となっている。
アレンはグリモワールを開く。錬金術の知識を高速で脳裏に流し込み、畑に必要な微量元素を効率的に生成する手法を試す。土壌には適度な栄養分が不可欠だ。木の灰や、魔力で合成したミネラルを微細な粉末として散布すれば、植物の成長が促される。
彼は指先で半透明な紋様を空中に描き、魔力カプセルを触媒にして煙のような粒子を畑一面に拡散する。男たちが驚きの眼差しを向ける中、細かな微粒子が土に溶け込み、早速いくつかの芽がぴんと背筋を伸ばしたように見えた。
「凄ぇ……なんだあれは……」
「魔法? いや、錬金術だって聞いたけど、ここまでとは……」
難民たちがざわめく。アレンは口元に冷たい笑みを浮かべる。恐怖と畏怖、そして期待。その感情が混ざり合い、彼を神秘的な領主として認識させるには十分だ。忠誠心を育むには、こうした“奇跡”を適度に見せつければいい。
「よし、今日は追加で住居を増やす。お前たちの中で木工や漁業の経験がある者はいないか?」
アレンが尋ねると、痩せた男が手を挙げた。
「私は元々、小国の端っこで細工師をしておりました……微妙なものですが、木製の家具や簡易な釣具くらいなら作れます。」
彼は声を震わせながらも前に出る。
「ならお前は木材加工を手伝え。他は引き続き畑や施設建設だ。」
指示を受けた難民たちは素直に散っていく。もうここは「アレン領」と呼べる場所だ。支配者はアレン一人、逆らう理由もなければ術もない。
日が高くなるにつれ、遠方からまた人影が近づいてきた。今度は少し規模が大きい。10人近くの男女が、ボロボロの服を着込み、ヨロヨロと歩いてくる。まるで腐った大地から湧き出るように、難民が流れ込んでくる。この辺境には逃げ場のない放逐者が散らばっているのだろう。弱き者たちが奇跡の泉を発見し、噂を広げる。迅速だ。既に「辺境に豊かな水場あり」と風評が広まっているのかもしれない。
「領主様……新たな人たちが来ました……」
昨日からいる難民の一人が、アレンにおずおずと報告する。
「領主様、だと?」
アレンはその呼び方に眉を上げる。言った覚えはないが、彼らは勝手にそう呼び始めているようだ。面白い。もう少し権威付けるのも悪くない。
「まあいい、対応しよう。」
新来者たちは、より悲惨な状態だった。腕に包帯を巻いた男は泣き叫ぶ幼女を抱えているし、壮年の女は両足に擦り傷や切り傷を負っている。彼らは水を見て一様に驚き、アレンが錬成した木造建築や畑を見て戦慄する。
「ここ、こんな場所が……?」
不安げにうつむく彼らに、アレンは冷酷ながらも威厳ある口調で声をかける。
「ここは俺が築いた領地だ。お前たちも行き場がないなら従え。水、食料、薬を与える代わりに、労働力を提供しろ。裏切りは許さないが、従順なら生きる道をやる。」
その宣言は効き目抜群だった。何もない荒野で、これだけの資源が得られる地点を見て、彼らは狂喜と戦慄の間で揺れている。必死に頷き、何でもするから助けてくれと懇願する。
アレンは淡々と薬草を錬成し、傷を負った者へ与える。数種の薬草を掛け合わせて作った軟膏を塗れば、回復が早まる。飢えた子どもには流動食を与え、喉の渇きを癒やす清水を注いだ壺を差し出す。こうして“恩恵”を与えれば、彼らは自分たちを救った奇跡の領主を崇め、従わざるを得ない。
こうして、わずか二日でアレン領には20人近い定住者が集まった。加えて、その噂が広まるほど、新たな流民がやってくるのは時間の問題だ。
アレンはグリモワールを再び開き、さらなる計画を練る。次は防衛設備だ。魔物や盗賊が本格的に狙ってくる前に、守備用の柵や塀を作る必要がある。それから治安維持のために、信頼できる人間を監督役に抜擢しなければいけない。
「領主様……」
また一人、男が近づいてくる。少し背が高く、肩幅があり、日に焼けた肌。かつてはどこかで農地を守る村の自警団でもやっていたのか、右手に曲がった棒を持っている。
「俺は元々、小さな村で魔物避けの見張りをやっていました……訓練らしい訓練は受けてないが、剣を多少扱えます。もし ガードが必要なら使ってください。」
彼は必死の面持ちだ。水と食料をもたらしたアレンに恩を売りたいのか、それとも地位を得たいのか、理由はどうでもいい。とにかく戦力になる人間が欲しかったアレンにとって、願ってもない申し出だ。
「いいだろう、お前を治安維持役に任命する。他の者にも告げよ。俺に楯突くことは許さんが、ここで騒ぎを起こすやつがいれば力で抑え込め。」
男は安堵の笑みを浮かべ、「はい、領主様!」と嬉々として応じる。簡単なことだ。人心は餌を与え、地位をちらつかせれば転がる。兵がいないなら、今いる住民から育てればいい。木材で簡易な槍や盾も作れる。錬金術で軽合金を生成すれば簡素な金属武器も作れる。多少の訓練をすれば、雑魚の盗賊くらいは一瞬で払えるだろう。
アレンはふと、王都や勇者たちの動向が気になった。
あの連中は今、どうしているだろう。以前はアレンの献身によって潤沢だったポーションや改良武具がなくなっているはずだ。供給源を失い、遠征ごとに消耗し、魔王軍との戦いで苦戦していることだろう。
自業自得だ。やがて、彼らは「優れた生産能力を持つ領主が辺境にいる」という噂を聞きつけるかもしれない。そのときアレンはどうする? 即座に門前払いか、それとも条件を突きつけて相手を土下座させるか。いずれにせよ、今はまだ準備不足だ。もっと兵力や物資を蓄え、領土を拡大してからでも遅くはない。
「よし、次は外へ通じる簡易道路を作ろう。商人が来たら交易で利益を得られる。」
アレンは思いつくままに計画を口にする。この辺境から王都へ続く道は遠いが、錬金術で安定した補給所を作り、荷車隊が休息できるオアシスを点々と配置すれば、交易路が生まれるに違いない。
実際、難民たちがこの場所の噂を広めるなら、いずれ商人や冒険者、さらには他国の密偵が流れてくる。情報が広まるのはリスクも伴うが、それ以上に有利だ。なにせ資源は無限なのだから、権力が欲しければ物資で買えばいい。鉄が欲しい国には鉄を、食糧不足の王都には穀物を、強欲な貴族には贅沢品を。すべて生み出し、価値をコントロールできる。
その時、遠くから甲高い悲鳴が上がった。アレンは顔を上げる。
集落の端で、荒野の砂塵の中、何やら影が見える。先ほど流入してきた難民の一部が逃げ出そうとしたらしい。ある二人組が、勝手に水を持ち出して荒野へ逃れようとしているのかもしれない。
「なるほどね……裏切り者が出るのは早かったか。」
アレンは苛立ちを抑え、治安維持役に指示を送る。
「逃げ出そうとしている奴がいる。捕まえろ。見せしめにする必要がある。」
治安維持役の男は一瞬震えたが、すぐに頷き、何人かの若い男たちを引き連れて追いかけていく。まだ装備も不十分だが、逃走者も疲れ切っているはず、捕まえるのは難しくあるまい。
少しして、治安維持役たちは捕まえた二人を引きずって戻ってきた。男と女で、どちらも飢え痩せた姿だが、彼らは必死の形相で叫ぶ。
「くそっ、離せ! 俺たちを奴隷にする気か!?」
「こんな得体の知れない領主なんて信用できるか! 私たちは自由に……!」
難民たちが作業を止め、ざわつく。アレンは冷え切った視線で二人を見下ろした。
「逃げるも自由だが、俺が与えた水や食糧を盗もうとしたな? 一度手に入れた恩恵を踏みにじって立ち去るのは許さない。」
そう言い放つと、周囲の者たちがゴクリと唾を飲む。この世界の秩序はアレンが握る。裏切りは容赦なく罰する。それを示すには、残酷な見せしめが最適だ。
「治安維持役、こいつらに軽い教訓を。」
アレンが顎で指示すると、治安維持役は戸惑いつつ、ナイフの柄で男の後頭部を殴り、女の腕を捻って地面に叩きつける。悲鳴が響き、他の住民たちは顔を背けるか、怯えた目でアレンを見る。
「言っておくが、俺は慈悲深いわけじゃない。ここで生き残るには、俺のルールに従うことだ。」
アレンは抑揚を抑えた冷たい声で言う。
「今は殺さないでおく。だが、畑で倍働いて罪を贖え。次逃げたら足を折るぞ。」
男と女は震えながら泣き叫ぶが、アレンは聞く耳を持たない。周りの住民たちは完全に萎縮した。こうして恐怖と恩恵の二重支配が確立されていく。
誰もが気づいているだろう。この地で生きていくには、アレンに従う以外の選択肢はないと。
翌日から、領地はさらに拡張を続けた。
新たに流れ込む難民たちから職能を聞き出し、適材適所に配置する。ある者は医療知識を持っていたが道具不足で活かせなかった。アレンが錬金術で医療器具や清潔な包帯を生み出せば、即席の診療所も作れる。そうすれば病人を治し、働き手を増やせる。
また、鉄鉱石を錬成し、粗末な農具を改良することで作業効率が上がる。村はあっという間に農地を広げ、仮設住居を増やし、井戸や簡易倉庫も整備していく。わずか数日で、ここは何もなかった荒野から、ある程度形を成した小規模集落へと変貌した。
人々はすでにアレンを「領主様」と呼び、逆らおうとしない。むしろ、懇願が増えている。「もっと衣類を増やしてほしい」「子どもたちに安全な寝床を」「獣害を防ぐ柵を作れないか」などなど。要求が積み重なれば、その分アレンは彼らをさらに働かせることができる。彼はすべてを錬金術で生み出し、対価として忠誠と労働力を要求する。完璧な支配関係だ。
「よし、次はもう少し先に展望台を建てよう。」
アレンはつぶやく。高い木製の見張り台を建て、周辺に近づく危険をいち早く察知すれば、敵対者を排除したり、逆に有益な来訪者を交渉で取り込んだりできる。
展望台の建設には大量の木材が必要だが、材料錬成は容易い。複数の男たちが、アレンの指示に従い木材を組み上げていく。短時間で粗末ながらも5メートルほどの監視塔が立った。これで周囲の地形を見渡せ、接近する者を先に発見できる。
思えば、信じられない速さで国づくりが進んでいる。まるで童話の錬金術師が、魔法の道具で理想郷を作るかのようだ。だが、これは現実。アレンはその絶対的なチート能力で、大陸の秩序を根底から覆そうとしている。
集落の中心で、アレンはグリモワールを開き、さらなる錬成法を学習する。精巧な金属加工で高度な農具や武器を作る術を、効率のよい魔素圧縮による持久的な魔力運用法を、さらには魔物を懐柔する手段すら。
そう、魔物……この大陸には人外の獣が溢れ、各地で被害をもたらしている。もしその魔物たちを捕え、錬金術で鎮静・飼育し、労働力や守護獣にできれば、さらなる脅威への対抗手段となる。獣を農耕や運搬に使うことも夢ではない。
「領主様、報告です!」
見張り台に登った衛兵役の男が、慌てた声を上げる。
「西の方から馬車が来ます! 4、5台ほど、商人でしょうか、それとも盗賊か……武装してる様子もあります!」
馬車、商隊か。もう商人が噂を嗅ぎつけたのか? それとも略奪者かもしれない。ここでの対応が重要だ。
アレンは冷笑する。相手が何者であれ、こちらは恐れる必要はない。無限錬成力を背景に、取引条件をこちらに有利に運べる。仮に盗賊なら、見せしめに葬ってやればいい。
「皆、武装しろ! 農具でもいい、簡易な槍や弓を急いで錬成する! この集落は俺のものだ、侵略者は容赦なく叩き潰す!」
アレンの下知により、住民たちが慌てて集まる。彼は錬金術で鋭い槍頭を生み出し、木製の柄にはめ込んで簡易な武器を量産する。ほんの数分で20本近い槍ができあがり、意気のいい若者がそれを受け取り、柵の裏で身を潜める。
「もし商人なら、こちらが資源を持っていることを示し、交易条件を提示する。彼らは驚くだろうが、それでいい。」
アレンは余裕の笑みを浮かべる。
馬車が近づき、砂煙を上げている。前衛らしき男たちは革鎧を着ているが、精鋭には見えない。標準的な護衛商隊だろうか。もし商人なら、物資を示してこちらの優位性を確立し、高値で何かを売りつけることもできる。金貨や情報など、今後の発展に役立つものを手に入れられる。
やがて馬車隊が柵から50メートルほど手前で止まった。
「おい、中にいるのは誰だ!? この荒野に集落とは聞いてないぞ!」
先頭の男が喚く。おそらく商隊のリーダーだろう。彼らは半信半疑で、ここが奇跡の泉を持つ集落だとは思っていないようだ。
「ここはアレン領だ。俺が領主だ。」
アレンは柵の上から高らかに声を上げる。
「用があるなら名乗れ。俺はこの地の支配者として、お前たちの意図を聞こう。」
「領主……? こんな辺境に? 俺はナルケン商会の副長、ジャーロと言う。近くの小国へ抜ける交易路を探していてな、ここに集落があるとは知らなかった。水場があるなら、休ませてもらいたいが……」
ジャーロと名乗る男は戸惑いを露わにしている。無理もない。地図にも載らない荒野に、急に集落ができているのだから。
「水なら有る。食糧もある。」
アレンは冷淡に告げ、集落の中庭へ魔力カプセルを掲げると、その場で小麦粉を錬成し、それを握りしめてジャーロたちに見せつける。遠目には白い粉が手から湧き出るように見えるだろう。不自然すぎて信じられないかもしれないが、それでいい。
「な、何だ……手品か?」
商隊員たちがざわめく。アレンは続ける。
「ここは資源が豊富だ。が、取引条件を俺が決める。もしお前たちが取引を望むなら、金貨、情報、もしくは特殊な素材を出せ。俺はそれに見合う物資を提供しよう。ただし、俺に刃を向ければ即刻処刑する。理解したか?」
ジャーロは唾を飲み、周囲を見回す。普通なら荒野の小集落など脅せば従うだけだろうが、この領地には不可解な魔力と大量の物資が存在する。相手は少数の住民しかいないとはいえ、その背後に潜む謎は侮れない。
「わ、わかった。取引だな……うちは王都近くから来たが、王都は今、魔王軍への対処に苦慮していて物資不足だ。もしお前が豊富な物資を持つなら、高値で買い取る貴族がいるかもしれん。情報ならいくらでも教える。」
思わぬ展開にアレンは喜びを感じる。王都の現状や各勢力の動きを知ることは、有利な戦略を練るのに欠かせない。
「情報には価値がある。ならば先に情報を出せ。その内容しだいで水や食料を分けてやろう。」
こう告げると、ジャーロはしばし考え込み、やがて言葉を紡ぐ。
「王都リュミナはポーション不足で困っている。勇者パーティーが前線で苦戦中だ。とくにある錬金術師が追放されてから、装備とポーションの供給が滞っているそうだ……あんた、その話を聞いたことは?」
アレンは笑いをこらえ、涼しげな声で応じる。
「錬金術師ね……面白い話だ。何があった?」
「詳しい事情は知らないが、その錬金術師がいなくなってから、勇者たちは昔ほど輝かない。魔王軍との戦いで手痛い傷を負い、王都は戦況悪化に焦っているそうだ。ポーションの価格は跳ね上がり、偽物まで出回っている。貴族たちは対策に頭を抱え、勇者たちは苛立っていると聞く。」
ジャーロはここぞとばかりに情報を売り込む。アレンは内心で快哉を上げた。やはり自分を追放したことで連中は苦しんでいるらしい。最高の“ざまぁ”展開ではないか。
「なるほど、貴重な情報だ。」
アレンは頷くと、水の壺を一つ錬成し、食糧をわずかに提供してやる。視覚的な魔力の行使は避け、地面に隠しておいた錬成品を取り出したように見せかけることで奇妙な印象を残す。商人たちは目を丸くして大喜びし、水と食糧を手に入れた。
さらにアレンは続ける。
「その錬金術師がどこにいるか、王都は探してるかもしれないな?」
「さあな……噂では、王都はその錬金術師を戻そうと必死らしいが、見つからない。もしかしたら死んだのか、どこかで隠れているのか……」
ジャーロは首を振る。
アレンは嘲笑を噛み殺した。錬金王はここにいる。いずれ連中がこの奇跡の集落の噂を知って来るだろう。その時、思い知らせてやる。
「今後も俺と取引したければ、誠実な態度を示せ。俺は物資を無限に生み出せる。お前たちが儲けたいなら、俺と手を組め。」
この言葉に、ジャーロたち商人は瞳を輝かせる。金貨が欲しいなら、ここほど都合のいい場所はない。資源を安価で仕入れ、王都で高く売れば莫大な利益が出るだろう。
「もちろん、領主様。是非また来ますよ! あんたほどの奇跡を起こせる人物に、何か隠された秘密があるのだろうが、まあ余計な詮索はしないさ。」
ジャーロは笑い、馬車隊を進めていく。ひとまず今日のところはこれで満足したらしい。彼らが噂を広めれば、さらに多くの商隊や人間が押し寄せるだろう。資源を武器に、アレンは着実に影響力を拡大していける。
領地で待機していた住民たちは、商隊が引き上げた後も興奮冷めやらぬ様子だ。「凄い、領主様はあの商人たちを言いくるめた」「あんな荒野で商取引が成立するなんて……」。彼らはますますアレンを恐れ、畏み、従うようになる。利害が一致するかぎり、彼らは安定した生活を享受できる。
そして、アレンはさらなる野望を秘めている。
「よし、今度は武具の質を上げよう。将来に備えて訓練も必要だ。」
アレンは住民の中から体格の良い者や元冒険者を探し出し、半ば強制的に戦闘訓練を課す。食料と水、医療を与える代わりに、彼らに槍の振り方や簡単な戦術を教える。自らも錬金武器を試して改良し、最終的には小さな私兵集団を確立させるつもりだ。
夕暮れが近づく頃、集落はさらに一歩前へ進んだ。畑は広がり、倉庫に食糧が溜まり、簡素な家屋は増え、外敵に備える衛兵隊すら形成されている。まだ脆弱だが、成長の速さは常軌を逸している。誰もが感じている。ここには尋常ならざる力がある、と。
アレンは焚き火の前に座り、明日の計画を考える。多種族との交流方法、魔物の利用、王都へのスパイ派遣、いくらでも手はある。すべては、この錬金術の無尽蔵な創造力があれば可能だ。
夜空に瞬く星々が、かつて王都で嘲られた地味職の錬金術師が、今や世界を再編しようとしている皮肉を見下ろしているようだった。
「待っていろよ、勇者リオネル……あの傲慢な聖女や剣士たちも……」
アレンは微笑む。その微笑は優雅で、同時に狂気じみている。
「いずれ、お前たちが俺の前に膝をつく時が来る。ポーションが欲しいなら、武器が欲しいなら、頭を垂れて命乞いしろ。俺は“錬金王”として、お前らを選別してやる。」
焚き火がぱちぱちと薪をはぜる音を立てる中、アレンはグリモワールを指でなぞりながら思考を深める。善意ではない、正義でもない、ただ自分の意志でこの世界を弄ぶ。それでいい。誰もが彼に寄りかかるしかなくなるまで、この覇道を進み続けるのだ。
星々が静かに微笑む中、風が荒野を撫で、アレン領には異様な繁栄の種子が根付きつつあった。
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