第3話 犬の獣人 カニスアミークス

俺が転生した先は犬の獣人

カニスアミークスと言われる種族だった

名前の由来はわからない

かなり古い時代からこの名前が使われているらしく、カニスと略されている


見た目は人間とそんなに大差ない

違いがあるとしたら耳が頭頂部にあり、お尻から尻尾が生えている

あと手のひらに肉球があり

手先は人間より不器用のようでものつくりは得意ではないが人間より力が強く

嗅覚や聴覚は犬と同様で人間より優れている、だけど味覚は人間ほど鋭くはない


最初は困惑した 

特に困惑したのは成長の早さ

人間の倍の速度で体が成長していく


俺がこの世界に生を受け、おそらく二年は経ったが

今の俺の体は4〜5歳程度の体つきをしている

だが成長の早さに困ってはいない

むしろ前の世界の人格はそのままなせいで精神と肉体に乖離があり

肉体が早く追いつこうとしているのは俺にはむしろメリットだと思っている


女神のメチャクチャなルール説明を聞いてこの世界に不安しかなかったが

もしかしたら杞憂だったかもしれない

むしろ俺にはこの世界の方が幸せまである


その理由は…


???「シア〜ン!夕飯だからもう帰るよ〜」

シアン「わかったよお母さん〜」


家族がいること


前の世界に家族はいなかった

両親は俺が物心を持つ前に他界していた

唯一の身内である祖父が俺を引き取ってくれ育ててくれたが

その祖父も高齢だったため、俺が18歳の時に逝去 

それから数年間天涯孤独に過ごした俺にとって、この世界は…幸せだった


カーネ「シアン、はい」

この白い髪の女の人はカーネ、スピッツと何かのミックスのカニス

俺の母親に当たる人

そしてそのシアンと呼ばれてるのが俺

この世界での俺の名前


シアン「……」

カーネは両手を広げている

おそらくハグなんだろうが…正直恥ずかしいから戸惑ってしまう


カーネ「早く!シアン!はい!ほら!お母さん寂しいから!ね!?」

ああ、カーネが妙なテンションになってきている


シアン「……///」

観念してカーネの腕の中に入る

この温もりは好きだ。だけどまだ照れくさい

誰かに抱きしめてもらえたのなんて記憶にあったろうか


カーネ「ぎゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

シアン「お母さん苦しい…」

カーネ「お母さんを寂しがらせたから3割増しでぎゅーしちゃうもん」


3割どころか倍は力入れてる気がする

だけどそれでも嬉しかった


カーネ「それにしてもさ〜もしかしてシアンもお父さんと一緒で女の人苦手なの?」

苦手というかあまり関わったことがないから接し方がわからない

というかカーネは母であり異性として意識していないが…とりあえず

シアン「…わかんない」

あまりウダウダ言い訳を並べると年相応と思われないかもしれないから

いつも言葉少なく答えてる


カーネ「お母さん悲しい!シアンはお父さんとお祖父ちゃんばっかりに懐いちゃって!もっと『ママ〜大好き〜チュッチュ♡』とかして欲しい〜!」


そんなことする息子いるの?いや、いるんだろうな…

けど俺には絶対そんなことできないな


カーネ「また照れてる…!昔のお父さん思い出すわ〜私が話しかけるだけでモジモジして照れちゃってさ〜最初は変な男〜!って思ったな〜」

父の昔の話はよく聞かされる

なんでかというとこのカーネは父である男のことが大大大好きだからだ


そんな父と母の昔話を聞きながら手を繋ぎ、家路につく

カーネ「シアンは今日何食べたい?」

シアン「お母さんのご飯ならなんでもいい」

その返事にカーネはうわぁっという顔をしている


え?そんなダメな返事だろうか…?


カーネ「そういう返事の仕方もお父さんそっくり…私に似てる要素どこ!?」

そういうことか…

そんなこと言われても俺にはわからないよ…


カーネ「ちなみにシアンくん?その返事は将来お嫁さんができた時困らせるだけだから今のうちに言わないようにしましょうね?」

ああ、そういうのも世間ではあるあるなんだっけ?…それなら答えは

シアン「うん。わかった」と答えるだけ

自分に将来お嫁さんができる未来なんて想像したことはないけど…


家につき、カーネは料理をはじめ、俺は簡単なお手伝いだけする

ずっと一人だったが俺の家事スキルは高くない

だから余計なことはしない

せいぜい食器を運んだり井戸の水を運ぶくらい

水道も流し台もそんな便利なものはこの世界にはない


この世界は俺がいた世界より文明が遅れている

わかりやすく言えば中世ヨーロッパレベルか

異世界の定番の世界だな


生活に必要な衣食住はしっかりとあるが、電気はまだない

火がこの世界のエネルギー


そして俺が生まれたここはプリムラの村

地図のはずれ、辺鄙な地にあるらしい

犬の獣人カニスアミークスと人間が共生している村


カニスが近くの大森林で狩りを行い、人間がそれを捌き離れた城下で売る

そうやって種族は違えどうまく共生している


村は至って平和だ

人間とカニスが喧嘩してるところは見たこともあるが

差別などはなくお互いが尊重しあっている


前の世界も平和だと思っていたけど

他の人と関わりも持たずにいた俺にはあの世界は虚無だった


それに比べれば家族がいて、平和なこの世界の方が幸福に溢れていた


あの女神が説明していたルール

死んではだめ 自殺もだめ 殺してもだめ

考えてみれば自ら争いを犯すこと自体がルール違反になりかねないのだから

このまま平和に終えれるんじゃないかと




そう思っていた

この日までは





平和だったプリムスの村が燃えている

穏やかな村は地獄になっていた


たくさんの仲間が死んでいる

それはカニスだけじゃなく、人間も例外なく死んでいる


なぜこんな酷いことをするのか理解できない

なんでこんなことになったのかもわからない


ただこの時俺が理解したのは

俺はちゃんと女神が説明したルールを理解してなかったこと



ルール1 死んではだめ

転生者は他の転生者を殺したりできない

だが転生者以外の人間に殺されたらどうなる?


ルール2 自殺してもだめ

どれだけ辛い状況になっても逃げることは許されない

この地獄から逃げてもさらなる地獄、無限地獄に堕とされる


ルール3 殺してもだめ

もし自分の大切な人を殺めようとしている人間が目の前にいて

その人を殺めないといけない状況になった時、どうすればいい?



何が許されて何が許されないのか

そのことをちゃんと聞こうとしなかった俺は本当に間抜けだ


そして俺は女神に言われたように逃げ纏うことになる

死ぬのも怖い、諦めるのも怖い、殺すなんてもっと怖い

言葉通り尻尾を巻いて逃げ出した負け犬



俺の幸福は村と共に燃え灰になり舞い上がって消えた

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任(ま)け犬の遠吠え (改稿版) ノライヌ @Noradog1231

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