第2話 ルール

眼前のトラック


これは流石にお決まりすぎるだろって

自分でもそう思う


自分の人生ここで終わるという確信

嫌になるくらい冷静で嫌になるくらい走馬灯がつまらない

なにも特別なことがなかったなって


まあそれもそうか

キラキラした世界に憧れたことはなかった

だってその世界は生き残りを賭けてみんな努力している闘いの世界


争いごとは苦手だからいつも避けてきた

でも嫌われるのも嫌だから当たり障りのない生き方をしてきた

敵を作らない、でも信用する人もいない

そうしていつの間にか周りからついた評価が「優しい」


優しいんじゃない

ただ競走ごとから逃げてばかりいた臆病者

みんな特に褒めるところがないから気を遣ってつけてくれた評価


知っている

俺は負け犬だって


その負け犬の最後がこれかって

雨の中フラフラ歩いている少女がいたから

危ないぞってちょっと体を張ってみたが

普段からやらないことやるとこうなる


人間の体は軽くない

やるなら勢いよくやらなきゃただ体勢を崩すだけ

ここでも傷つけたらまずいという臆病さが仇となり

二人一緒にトラックに…


こんなダメダメな俺

せめて少女だけでも救えたなら気持ちよく死ねたのに

それすらできないなんて

そんなどうしようもない罪悪感を抱きながら


意識は暗転する





意識がなくなってからどのぐらい経っただろう

目の前はまだ闇の中

それなのにだんだん誰かが椅子に座ったまま近づいてきている


??「初めまして、人間さん」


聞き慣れない挨拶の仕方で面を食らったが

まぁおそらくそう言うことなんだろう…


男「初めまして女神様」


女神「あら。どうして女神だと思ったの?」


男「あまりにもお約束すぎる展開ですし、それに神々しいというか人間とは雰囲気があまりにも違うので」


女神「ふ〜ん?察しはいいのね?じゃあこのあとどうなるかわかる?」

まあこのままいけば次は


男「俺は異世界に飛ばされるんですか?」

女神「正解。説明が省けるは助かるわ」


男「それで…俺はその世界で何をすればいいんですか?」

女神「?何をすればいいって?何かしたいの?」


ん?どういうことだろう?お約束からなんか逸れてる気がする


男「え?世界を救うとかそんな話じゃないんですか?」

女神「何それ?世界を救うためにわざわざ誰か一人選出するの?そんなことしなくても世界なんて救おうと思えば救える力は持っているわよ?」


ますますわからなくなってきた?


男「じゃあ俺をここに呼んだ理由はなんですか?」


女神「理由は特にないわ。たまたまあなたが丁度よかっただけ」


丁度よかった…俺が?


女神「まず説明するとね、これはゲームなの。私たち女神主催の悪趣味な娯楽。転生者によるサバイバルゲーム」


女神「私も本当はこんなこ…、いやなんでもないわ」


女神「あなたと同じように不慮の事故で亡くなった人があと5人、私以外の女神にすでに選ばれていて、すでに同じ異世界に送り込まれています

あなたはその最後の一人、六番目の異世界転生者」


女神「その世界で最後まで頑張って生き残ったものには約束された来世が用意してあるわ」


最後まで生き残る?

男「それって刻限とかあるんですか?」

女神「ううん、ないわ。生き残れるのであれば寿命まで生きていても大丈夫」


なんだそれ?そんな長い時間かけたゲームなんて成立するのか…?

女神「あなたたちからしたら気の長いゲームって思うわよね?けど私たちからしたら大した時間じゃないから気にしないで」


男「じゃあ死なないように気をつけていればいいんですか?」


女神「そうね。あなたはただ逃げ回っていればいいわ。得意でしょ?逃げる回るの?だからあなたが丁度よかったの」


俺がどう言う人間か知った上での皮肉なのかはわからなかったが

その言葉に返事はできなかった

自分にとって一番触れてほしくないこと

何かしてみたいことがあっても、失敗したときのことを恐れ

やる前から言い訳をし、逃げ回っていたから

それが自分の得意なことと言われても…認めたくなかったが…


男「そう…ですね…」

それを否定することもできなかった


女神「……あら、図星を突いてしまったかしら?ごめんなさいね」


男「いえ、大丈夫です…」

こうやって誰かに嫌なことを言われても飲み込んでやり過ごしていた

俺の弱さ


しばしの静寂

痺れを切らした女神が口を開く


女神「異世界で絶対にやってはいけないルールだけ教えてあげるわ

まず一つ、自殺はだめ

それは生きることの否定、せっかく第二の生を与えたのに

自殺なんて逃げ方は興醒め、多分私が許しても他の女神が許さない

だから絶対にやめてね?」


自殺はダメなことだと俺も思っている

だけどその異世界が俺がいた世界より辛い世界かもしれないのに

は許してくれないのか…?


男「もし、自殺してしまったら?」

女神「あなたたちでいう地獄行きね?なんの楽しみもない、辛くて苦しいだけの世界に堕とされるわ。永遠に」


リタイヤした人に対してそこまでするか…

そんな理不尽を押し付けてるとは…

女神なんて高尚なものではなく、悪魔なのではないのか


女神「次に、殺されてもダメ

自分は勝てないから降参です。諦めたので優しく殺してください〜

なんてものも見たくないの

最後まで頑張って生きようとする姿をみんな見たがっているから

逃げてもいいけど、負けちゃダメよ?

あなたが一番やりそうなことね」


自殺しちゃだめ、諦めて殺されるのもだめ

生き残ろうと頑張る姿を見せる


と言うことはこのゲームの手っ取り早い攻略方法は…


女神「最後に…殺してもダメ」


男「え…?」

殺しもダメ…?なんだそのルール?ゲームとして成立してなくないか?

じゃあ転生したものが何もせず、ただ逃げていれば終わる話じゃないか


男「それって…俺たち転生者が話を合わし、何も起こらず終わらせれることも可能なのでは?」


女神「そうかもね?そうなった試しはないけど」

…なんだその意味深な発言は?


男「どういう意味ですか…?」


女神「そのままの意味よ?過去に5回、あなたと同じように異世界に送ったわ

だけどみんな話し合いで平和に終わったことは一度もないから」


過去に5回…それで一度も平和に終わってない…

死んでもダメ、リタイアもダメ、殺してもダメなメチャクチャなルールなのに

談合しようとしなかったのか…?


女神「最初見せた察しの良さはもうなさそうね?もう時間だからあとは現地で考えてちょうだい」

男「まって!俺が行かされる異世界がどういうとこだとかも」

女神「それも全部現地を見て考えて、じゃあ…頑張ってね?期待はしてないけど」


人を勝手に選出して説明も中途半端なまま異世界に飛ばし

最後のセリフがそれかよ…とも思ったけど


けどそうだな…今まで誰にも期待してもらったことなんてなかった

なら異世界で…今までと同じように…逃げ続ければいいか…

どうせ俺には誰も殺せないし…


また暗闇の中にいる

ちょっと違うのは


誰かが話す声が聞こはじめたこと


男の人と女の人の声


その声は嬉しそうで、聞いてて心地がいい


そんな声を耳にしながらしばらく時間が経ちようやく目の前が明るくなってきた


男の人が俺を抱き上げている

嬉しそうに、愛おしそうに


ただその男は俺が知っている人間の姿と少し違った


頭頂部に耳があり、そして背中からチラチラ見える尻尾


それだけでなんとなく理解できた

俺は獣人の子供として生を受けたことに

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