2.築10年マンションの202号室のとある日の営み。



 付き合って10ヶ月。少し高級なイタリアンのお店に行った日の帰り。僕の家でお酒を飲んでいた。僕は何がとは言わないが「そろそろ」かと思っていた。でも無理強いは絶対にしたくない。23時を回り、「そろそろ」という単語をお互いに探し始めていた。その「そろそろ」はたぶん意味が違う。だから、

僕は、君に近づいた。別れの時にハグをするから違和感のないように。僕は君にもたれかかる。これは初めてしたことだった。君は動揺していないように見えるが、少し身体がビクついたのを覚えている。僕は消え入るような声で、

「今日さ、泊まって行かない?」

と言った。それはつまり、行為を含むお泊まりということを意味することは、関係性からも明らかだった。5秒後に、

「うん」

と、言ってくれた。僕はその瞬間からテンションがエベレストもといヒマラヤ山脈の山々をを超えていたがそれを隠し、トイレに行く。少しでも綺麗に、余計なことを考えないようにしたかったから。戻ってきた時、君はまだそのまま座っていた。僕は君の後ろに座って、後ろから手を回した。君は、また少しビクッとしていたが抵抗はしなかった。良いんだと思った。首をこちらに向けさせ、キスをした。長く、優しく。一度離し、今度は対面してまたキスをした。少しずつ、探るように舌を絡ませて。大好きだったから気を抜くと、顔や全身から力が抜けそうだったが、僕がリードしなきゃと躍起になっていたからなんとか力を保っていた。5〜6分ほどキスした後、君をベッドに連れていった。君を寝かせ僕は上を脱ぐ。君に見せるのは初めてで、とても恥ずかしかったが平気なフリをして君の首筋をなぞる。キスをし、なぞり、服の上から身体を愛撫する。君は顔を覆っていた。僕はゆっくりとまるで新品の道具を汚さないように扱うように丁寧に愛撫した。時折声が漏れているのが聞こえるのが何より安心した。服を脱がせ、僕も君も全てを脱いだ。君と顔を合わせられない。お互いに恥ずかしいのだろうと思った。僕は君の胸を触り、下も触り、舐める。君も僕の身体を舐めてくれた。お互い優しい人間なんだなって実感するセックスだった。日付が変わる頃、どうにかこうにか壁を超えて、初めての記念日になった。今日が大きな1歩目になると確信していた僕は、終わってからもずっとくっついて、キスを求めた。君は全て応じてくれた。でも、もしかしたらこの時だったのかな。少しずつ違和感があったのかな。




________________________________




 (欲が一方通行だと、こうなってしまう大きな退歩だったかもしれないな。何も歩く行為は前に進むことだけをいうわけじゃないのかもしれない。って、ぼくは思うよ。ぼくは、今のぼくならきっともっと上手くできる。だから、どうにかやり直せないのかな。って久しぶりに電話をかけた。出ることはなかったし折り返しもなかった。でもきっと元気で生きているだろうと思った。それで良いと思った。)




















未来の僕の本音。
「そんなわけないよ、なんでなんだろうな。
なんでなんだろうな。なんで僕がダメなんだ。他に誰かいるならまだしも、なんで僕がダメなんだ。誰でもダメなのか分からないけどそれがわからないから納得がいかない。僕は僕じゃなきゃ嫌だ。欲がない人間って周りから思わせるくらい遠慮してるけど、本当はそれの真逆。自分の思い通りにならないことが1つでもあることは納得いかない。だから、
ふざけんな。僕とずっと一緒にいて。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る