第3話
薫緑はベンチで、空を見上げながら雲の数を数える。どこか遠くで猫が遊ぶ音が聞こえ、ふと目を向けると、先ほどの猫が今度は木陰で眠っているのが見えた。その穏やかな光景に少し笑みがこぼれる。しばらくそのままの猫を眺めていると、風を少し冷たく感じた。
ある予感?不意に感じた洞察?という目眩に…促されるように、薫緑は立ち上がり、気がつけば自然と歩き出していた。心地よい風を感じながら、足は無意識に噴水の方へ向かっていく。噴水の音が遠くから聞こえてきて、その音が次第に近づいてくる。
少し足を速めて歩きながら、空気の冷たさを感じた。風が軽やかに吹き抜けていくたびに、木々の間で葉っぱがさわさわと揺れ、風の音が心地よく耳に届く。その音に包まれながら、噴水の音が聞こえてくる。水が勢いよく飛び跳ね、太陽の光を浴びて煌めく様子が、薫緑の目に飛び込んできた。その水のしぶきは、空気中の微細な粒子を輝かせ、あたりの景色を少しずつ染めていく。太陽が高く、空がひときわ鮮やかになり、噴水から飛び跳ねた水滴が、虹のように微細な色彩を放ちながら空に昇っていった。
薫緑は噴水をじっと見つめる。虹のかかる姿がどこか神秘的で、見るたびに水の粒子や分子の新しい発見があるように感じられた。水が空気とともに踊るように弾けるたび、その静かな力強さに心が引き寄せられる。小さな虹は時折消え、またすぐに現れた。
噴水の近くから歩を進めると、小川が公園の一角を流れ、水が岩にぶつかる音が響き渡り、その水面が太陽に照らされてきらきらと輝く様子が目の前に広がっていた。川の両岸には、しっとりと緑が生い茂っている。
薫緑は、川のほとりに腰を下ろすことにした。涼やかな風が木々を揺らし、その風が顔を優しく撫でる。周囲の木々が木の葉を揺らし、その音が心地よく響いてくる。少し目を閉じて、その音に耳を澄ませる。風が葉を揺らす音、そして川の流れの音、それらが交じり合い、ひとつの音楽のように心の中で鳴り響く。
薫緑はゆっくりと目を開ける。目の前には緑の葉が織りなす美しい模様が広がっている。その葉の一枚一枚が、静かに揺れる…その瞬間、薫緑は自分をふくむ現実が自分の目の前に広がっていることに…周りに広がる景色、風の音、川の流れ、噴水の虹。すべてがただ「今、ここにある」ということに…生と死の境界を見たような…気がして胸が震えた。
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