第9話
すでに何度かこの村で夜を超えたが、目が覚める度にゆるゆるとした平凡な日々が幕を開ける。朝陽が昇れば人々は活動を開始し、やることを終えれば家のなかへと姿を隠し、のんびりと過ごす。まるでこの盆地のなかだけで、終わらない夏休みが繰り返されているのではないかと錯覚してしまうほどに、その風景には緊張感も焦りもない。
それゆえか、民泊で日々を過ごせば過ごすほどに、優人はどうにも体の調子が狂っていくように感じてしまう。ありえない話ではあるが、都会と今いる田舎では根本的な時間の質そのものが異なっているような気すらしてしまった。
ストレスなく過ごす毎日は本来ならば体と精神に染み付いた疲れを癒してくれるのだろうが、今の優人にとってはどうにも煩わしくてならない。
やるべきことがあるからこそ、ここへと舞い戻ってきたのだ。このまま周囲の空気にのまれてしまっては、元も子もない。
一方で相棒の川嶋はというと、数日でこの幸人村独特の空気感にすっかりと適応してしまったようだ。彼は民泊が出す旨い飯を堪能し、フィールドワークと称しては各地を観察し、熱い風呂に入って疲れを癒している。
彼は部屋にいるときも調達した飲み物を片手に愛機であるノートパソコンをいじっているのだが、そのどこかはつらつとした横顔に優人は微かな苛立ちすら覚えてしまった。
窓のすぐそばで椅子にもたれかかったまま、優人はパックのコーヒー牛乳をちびちびと飲みながら、少し目を細める。
「なんだか楽しそうだな。そんなにこの村が気に入ったのかよ」
「別にそういうわけじゃあないさ。けれど、調べれば調べるほど、この村は興味深いところだよ。〝幸人〟――僧侶・浄優が伝えた風習が、それこそ数百年も経った今でもしっかりと残っているんだからね。調べたところ、確かに集落の四方には結界として建てられた石灯篭が残っていたし、墓地の丸太に張ってるあれも、浄優の教えによって作られた護符なんだとか」
「へえ。じゃあ、当時からこの地域は変わらず、その〝幸人〟って奴の言いつけを守ってるわけだな。殊勝なことだよ」
「こういった閉塞地だからこそ、できることなのかもしれないね。この間のあれ――夜中に亡くなった方を連れて村を練り歩く儀式だって、当たり前のように行われてきたことみたいだ。亡くなった人が持つ穢れを浄化して、清らかに生まれ変わらせるという意味合いが強いらしい」
穢れ――その単語に、優人の顔が不機嫌に歪む。それではまるで、亡くなった人間の側に非があるようなものではないか。
だとすれば、かつてこの地で亡くなった恋人・真名にすら、〝死んで当然な理由〟があったということになる。そんな馬鹿げたことがまかり通っているこの場所に、より一層、嫌気がさしてしまった。
それをどこか嬉々として語る川嶋にも憤りをあらわにしてしまいそうになるが、あくまで彼は歴史学者という生業上、自然な反応を見せているだけなのだろう。優人はどこか釈然としないまま、なおも空気が混じるようになったコーヒー牛乳を音を立ててすすり続けた。
そんな二人の耳に、突如として喧噪が飛び込んでくる。最初は気のせいかとも思ったのだが、耳を澄ますと微かに男の声が聞こえた。
都会ならばこの程度のことは日常茶飯事なのだろうが、あいにく、ここは平穏極まりない山間の限界集落である。優人と川嶋は互いの顔を見合わせた後、反射的に開け放たれた二階の窓から外を見つめた。
「なんだろう? 随分と若い男の声だね。ま、まさかまた、人が死んだんじゃあ――」
「どうだろうか。なんとなくだが、これまでとは様子が違っているように思える」
優人も一瞬、川嶋同様に推理を働かせたのだが、今回に限ってはそれが間違いなのではないかと思ってしまう。なにせ、今までと今回とではある要素が決定的に欠けているのだ。
――〝鐘〟はまだ、鳴っていない。
二人は無駄口を叩くのをやめ、直ちに行動を開始した。示し合わせるように最低限の準備を整え、民泊の部屋を後にする。
以前、佐久間一茂のときもそうだったが、狭く、閑散とした村ゆえに騒ぎの出所を辿るのはたやすいことであった。声の方向にしばらく歩くと、すぐにまた人だかりができているのを発見する。
どうやら今回の騒ぎは、村唯一の食料品店で起こっているらしい。佐久間一茂が亡くなったときに比べれば人だかりはまばらだったが、それでも住人たちは店を外から眺め、その騒動の行く末を見守っている。
優人らもしばらくその輪に加わったまま、様子をうかがっていた。優人は耳をそばだて、さらに身に着けた〝読唇術〟も駆使し、村人たちの会話を読み取っていく。
「なんだぁ、ありゃあ。おいおい、また余所者かよ」
「随分派手な格好だったけど、芸能人かなにかしらね?」
「いやぁ、なんでもインターネットってので活動してるやつらしい。何者か知らねえけど、随分とやかましいなぁ」
事態はまだ見えてこないが、それでもどうやら優人ら同様、村の外部の人間がまたやってきたらしい。優人は素早く視線を走らせ、あぜ道の脇に停められている場違いなオフロード車を発見した。
「これは、思いがけない乱入者のお出ましってことか。ついさっき、あれに乗ってやってきたってところだろう」
「ああ。けれど、どうやら村人たちの第一印象は良くないみたいだね」
声をひそめていた二人だったが、店の中から響いた大きな声に息をのんでしまう。周囲の村人たちも恐れおののいてしまったようで、何人かは厄介ごとに巻き込まれないよう退散してしまった。
川嶋が眼鏡を直し、「ふむ」と唸る。
「第一印象どころか、さっそくトラブル発生ってところかな。どうする、優人?」
「面倒に巻き込まれたくはないが、それでも村で起こった異変には違いないからな。一応、遠巻きにどんなやつか確認しておこう」
わざわざ混沌とした状況に飛び込むのは気が引けたが、なにかこちらにとってもプラスに転じる事柄が待っているかもしれない。そんな一縷の望みを賭け、優人はあえて目の前の店に踏み込む覚悟を決めた。
川嶋も「だね」と了承してくれたが、どこか彼の表情が妙に弾んでいるように思えてならない。その場違いな気配が気掛かりではあったが、優人はひとまず目の前の事態に集中する。
あくまで二人はふらりと立ち寄ったていで、小さな食料品店のドアをくぐる。二人が一歩を踏み入るのと、騒動の主が声を張り上げるのはほぼ同時であった。
「お願いしますよぉ~、そこをなんとか! 知ってるんですよぉ、この村の〝鐘〟のこと。本当、どんな小さなことでもいいんで、是非是非!」
声の主は若い男で、彼はカウンターの向こうにいる妙齢の女店主を捕まえ、言い寄っているようだった。聞き耳を立てずとも、下品なまでに大きい彼の声が店内に響き渡る。
「大昔から伝わる〝鐘〟が鳴ると、誰かが死ぬ――考えてみたら、すっごく奇妙な話ですよね? 村の人たちは、なにも疑問は持っていないんでしょうか?」
男がなおもぐいぐいと詰め寄っているが、もはやそれは会話のていをなしていない。女店主は眉をひそめ、分かりやすく困惑の表情を浮かべている。彼女は迫る男に対し、あくまで「いや」だの「その」だのと口ごもるしかなかった。
客のふりをしながら、優人たちはゆっくりと立ち位置を変えていく。冷蔵食品の棚の前に立ちながら、横目に男の容姿を観察した。
男は服装こそ半袖のシャツに夏用ジーンズという簡素ないでたちだったが、なにより目も覚めるような金髪と、耳につけたおびただしい銀のピアス、両手に装着した大量のアクセサリーが目を惹いた。
年齢はかなり若めで、男というよりも青年という呼称がしっくりくる。見れば、彼は自撮り棒に装着したスマートフォンで、絶えず自分と女店主を撮影しているようだった。
都会ならば別段、どうとも思わないのだが、こんな田舎の村ではいささかその見た目は派手すぎる。そして装いに反さず、なんとも軽々しい態度で彼は女店主を問い詰めていった。
場違いな乱入者の見た目もさることながら、優人は彼の口走った数々の言葉にも強く意識を向けざるをえない。
(たしかに今、〝鐘〟と言ったか)
それからもしばらく、あまりにも無作法な男の追求は続いた。彼はひたすらに〝鐘〟のことを問いただし続けたが、やはり店主の女性はまともな回答をする気はないらしい。10分ほど不毛なやり取りを続けた後、ようやく男性は諦めて会話を打ち切った。
しかし、店主から離れた後も、彼はスマートフォンで自撮りを続ける。高らかに持ち上げた自撮り棒の先に焦点を合わせ、どこか大げさな身振り手振りを交えながら声を張り上げた。
「これで4人目になりますが、いまだに目ぼしい情報は出てきておりません! なんとも不穏ですが、しかし逆を言えば彼らにとって触れたくないなにかが、その〝鐘〟に潜んでいるのではないでしょうか? 引き続き、調査を続けたいと思います!」
小さな端末の画面に向けて敬礼をした後、彼はようやく録画を停止する。これまで終始、ハイテンションに立ち振る舞っていたのだが、録画が終わった途端、彼自身もスイッチが切れたかのようにけだるい表情を浮かべ、そそくさと店の外へ出ていってしまった。
取り残された店主と優人たちは、まるで嵐が過ぎ去った後のように嫌な沈黙に包まれる。二人はどこか唖然としたまま、視線を店の外に向けてしまった。
「一体全体、ありゃあなんだ? なんだか終始、わざとらしい立ち振る舞いだったな。まるで、あのスマートフォンに向かって演じているみたいな言動だったぜ」
眉をひそめてしまう優人だったが、一方で川嶋だけは青年の正体をいち早く察する。いや、むしろもっと早い段階から〝知っていた〟のだ。
「いやぁ、噂通り――むしろ、噂以上だね。生で見るとこう、迫力が違うなぁ」
「なに? お前、あいつを知ってるのかよ」
「まぁね。というか、ネット上じゃあかなりの有名人さ。特にここ最近だと、かなりバズってる存在だよ」
優人もかつてエンジニアを生業にしていた際はSNSを覗いたり、ネットサーフィンをするのが当たり前だったのだが、数年前の事件をきっかけに仕事を辞め、以降は暇さえあれば真名の死――今いる『幸人村』という存在を調べることに時間を費やしてきた。
それゆえ、巷で流行となっている存在などにはまるで興味がなく、随分と疎くなってしまったのだ。
まだ全貌は見えてこないが、とにかく二人は店を出た青年を追う。彼はまだ店の前で自撮り棒を振り回し、様々な角度の動画を撮影していた。
「なんとも謎多き場所ですねぇ。けれど、『オカルトイーター』たる者、必ずや皆さんに、この集落に潜む謎を解明し、お届けしちゃいたいと思っております!」
少し離れた位置から彼を眺めていたが、やはり店内のそれと同様、しばらく大げさにふるまったかと思いきや、スイッチが切れたかのように冷静になり端末をいじり始めた。
優人は距離を置いたまま怪訝な表情を浮かべていたが、急に川嶋がぐいと近付き、声をかけてしまう。
「あの、『オカルトイーター』・戸倉清二さん――ですよね?」
川嶋の問いかけに青年は「はい?」と物静かに首を傾げた。その表情は先程とはまさに別人で、快活さも陽気さもまるでなく、ただただ気だるさのみが伝わってくる。
「僕、先日、メッセージを送らせていただいたものです。ほら、〝鐘〟についての情報をお伝えした」
「ああ、あんたが〝TOMOさん〟? あー、なんだ、あんたも来てたの? 有力情報、どーもで~す」
川嶋に応対する青年の態度はなんともふてぶてしい。だが優人はそんなことよりも、川嶋と彼との関係性がとにかく気になってしまった。優人は慌てて駆け寄り、川嶋の肩を叩く。
「おいおい、どういうことだよ? まるで話が見えてこねえ。お前の知り合いか?」
「いやぁ、会うのは今日が初めてさ。もっとも、前々からネット上ではそのチャンネルは拝見していたんだけどね」
優人が「チャンネル」と繰り返すなか、金髪にピアスの青年・戸倉清二はポケットから煙草を取り出し、迷うことなく火をつける。優人は鼻をつく臭いに顔をしかめてしまったが、とにかく今は川嶋の話に耳を傾けた。
「『オカルトイーター』って通り名で活躍されてる、動画配信者さんだよ。各地に眠っているオカルトを掘り当て、白日の下にさらす――今までも色々なスポットに突撃しては、体当たりの取材で謎を解明してきた、すごい人なんだよ」
「へえ……まぁ、動画配信者ってのは分かるけど、この人がねぇ」
優人はどこか驚いたように煙草をふかす彼を見ていたのだが、唐突に『オカルトイーター』こと戸倉清二が問いかけてきた。
「つーか、まさかあんたらもここで、その〝鐘〟の謎ってのを調べてるわけ? 困るなぁ、そういうの。それじゃあ、俺の取り分が減っちゃうじゃあないのさ」
「は……取り分?」
「てっきり、俺の独壇場だと思ってたのに、勘弁してよぉ。視聴者はさ、誰にも手を付けられていない、世の中の謎ってのを求めてるんだよ。既に別の誰かが調べてました、なんて情報じゃあ鮮度に欠けちゃうじゃない」
どうやらそれは、彼が動画配信者として活動する上でのこだわりなのだろうが、とにかくその態度は迷惑そうだ。優人と川嶋に対し、友好的な態度など微塵も感じ取れない。
まだ会って数分なのだが、優人は彼のふてぶてしい姿に早くも嫌悪感を覚えつつあった。だが、戸倉は興味ないと言わんばかりに、唐突に背を向けて歩き出してしまう。
「まっ、情報いただいたのは、ありがとよ。分かってると思うけど、本当、余計なことだけはしないでくれよな? なにせこっちは、あんたらみたいなのと違って、お得意様ユーザーが何万といるんだからさ」
言いながら、彼は中途半端に吸い終えたタバコの吸い殻を、あぜ道の上へと放り捨てた。優人はその軌道を反射的に目で追い、ついにはたまらず声を張り上げてしまう。
「おい、ゴミぐらい決まったところに捨てろよ。村の人が迷惑だろうが」
一瞬、戸倉は足を止めてけだるそうに振り向いた。だが彼はすぐに「くすくす」と小馬鹿にしたような笑い声をあげる。
「随分とお利口なんだなぁ、あんた。見た目に反して――いや、見た目通りか? その坊主頭、品行方正な野球部みてえ」
けらけらと笑うその声が、とにもかくにも不快に響いた。明らかに売られた喧嘩に、さしもの優人も追撃しそうになってしまう。
だが、隣に立つ川嶋が「まぁまぁ」と間に割って入った。いきり立つ優人に構わず、戸倉はまた新たなタバコに火をつけ、煙をくゆらせながら停車していた自身の愛車に乗り込んでしまう。車はすぐにけたたましい音を立て、実に無遠慮に彼方へと去っていってしまった。
小さくなっていく車体を睨みつけたまま、優人はようやく憤りをあらわにする。
「なんだよ、あいつ。『オカルトイーター』か何か知らねえけど、他人をなめすぎじゃあないか?」
「そうだねぇ。まぁ、人ってのは表裏があるもんだけど、まさかあそこまでとはね。ネット上で見る姿とは別人だよ」
「ここの店主だって明らかに迷惑そうだった。あの野郎、あんな態度で取材を続けていくつもりかよ」
きっとこれからも、戸倉はこの幸人村を練り歩き、随所で村人に突撃取材を敢行するのだろう。先程同様、無遠慮に、まるで人としての礼儀もなっていない強引な手法で。
優人にもようやく、戸倉がとっていたあの大げさな態度の理由が理解できていた。あれは、スマートフォンの画面越しにいる視聴者に対しての、動画配信者としての独特の立ち振る舞いだったのだ。
できるだけ場を盛り上げ、緊迫感のある絵を作り上げるために、戸倉はこの村を自身の撮影所として選んだのだろう。
この村に眠る〝鐘〟の謎を解明するため――そこまで考えた時、優人の意識が戸倉ではなく、すぐ隣に立つ川嶋へと向けられてしまった。
「ちょっと待てよ……おい、確かさっき、あいつはお前に有力情報がなんだとか言ってたよな? あれは、どういうことだよ」
優人の問いかけに、川嶋はなんともばつが悪そうな笑みを浮かべる。明らかに彼がはぐらかそうとしたことを察知し、優人は追撃した。
「あいつは、この村の〝鐘〟のことを知っていた。おい、まさか……お前――!」
思えば、優人が川嶋に対しここまで鋭い眼差しを向けたのは、初めてのことだったかもしれない。しばらく川嶋は視線を泳がせていたが、やがて観念したように苦笑いのまま答えはじめる。
「この村に突入するって決まったときに、前もって彼に連絡しておいたのさ。『人を殺す、奇妙な〝鐘〟がある村』の情報をね」
「そんな……なんでそんなことするんだよ? 協力者なら、荒木探偵事務所がいるだろう」
「なにも、協力してもらうために彼を呼んだんじゃあないよ。彼ならさっきみたいに、この村のあちらこちらで勝手に探りを入れてくれる。そうすればきっと、村の人も彼に注目せざるをえないだろう? その方が村人たちの注意を拡散しやすいし、僕らとしても動きやすくなるって踏んだのさ」
予想だにしなかった回答に、優人は開いた口が塞がらない。なにより、自分に隠れて川嶋が独自の計画を練っていたということが、どこかショックでならなかった。
優人はこれまで優人なりに、巻き込んでしまった川嶋のことを信頼し、行動してきた。だからこそ、どんな些細なことでも彼に共有し、共に作戦を練ってきたつもりである。
だが、川嶋は優人とは違い、もっとドライに今回の一件を捉えていたのだろう。その熱量の差が、どうしても優人の表情を曇らせてしまう。
「お前の考えは分かったよ。けれど、それにしても、もっとマシな奴はいなかったのか? あれじゃあ、村中の人間に迷惑がかかる。無駄なトラブルが増えるだけなんじゃあないか」
「あれくらい強烈な人間だったほうが、インパクトだって強いだろう。それに――そもそも、僕らだって部外者には変わりないんだ。僕らがやってることだって、とうの昔に村人からすれば迷惑だと思うけど?」
なんとも割り切った言い回しに、優人はたまらず川嶋の顔を見上げる。川嶋は眼鏡を直し、なおも戸倉が去っていった方角を見つめていた。
これこそが、かつて川嶋が言っていた〝波〟なのだろう。彼はいずれ、戸倉がこの幸人村にたどり着くことを知っていたのだ。
言わんとしていることは優人にも理解できる。このまま村の中で停滞し続けるよりも、なにか無理矢理に動きを作り、その隙に手がかりへと近付く方が手っ取り早いのだろう。
実に効率的で、ロジカルな思考だと思う。だがそれゆえに、なんだか優人にはその手法が倫理というものを無視した、あまりにも無遠慮なものに思えてならない。
川嶋という男は、ここまで容赦のない男だったか。隣に立つ友人の横顔を眺め、改めて優人は考えてしまう。いつも通りにこやかに笑ってこそいるが、共に活動してきた友人の隠れた一面を覗き、ほんのわずかに背筋が震えてしまった。
やってきたあの男の存在は吉となるのか、凶となるのか。どこか不穏な気配を感じつつ、優人も昼下がりの原風景へと視線を投げてしまった。
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