旅路の先にあるもの

夜が明けて、冷えた朝の空気が廃寺を包んでいた。シンと剣助は山道を進んでいく。夜露に濡れた笹の葉が足元でさらさらと音を立てる中、二人の足音だけが静かに響いていた。


しばらく歩いた後、シンがふと口を開いた。

「師匠、秘術学校ってどんなところなんですか?」


剣助は前を歩きながら一瞬だけ足を止めると、淡々と答えた。

「広い場所だ。侍や忍者、陰陽術士が共に学ぶ学校だと言っただろう。」


「うん、そうだけど……具体的にはどんな授業があるんですか? 剣術とか、忍術とか?」


「授業の内容か……」剣助は少し考えるような仕草をして、答えた。「例えば、妖を呼び寄せる術式の作り方を学ぶかもしれないな。」


「妖を呼び寄せる!? 怖いじゃないですか!」

シンが驚いて声を上げると、剣助は微かに笑った。

「嘘だ。」


「ええっ!」シンは思わず立ち止まり、剣助を睨みつけた。「そんな嘘、つく必要ありますか!?」


「お前の反応を試しただけだ。」剣助は振り返りもせずに歩を進めた。その背中はいつもと変わらず堂々としているが、どこか余裕が漂っている。


「もう、師匠って本当に……」

シンは呆れながらも木刀を握り直し、再びその背中を追いかけた。



山道を進むうち、周囲の雰囲気が徐々に変わっていく。木々が高くなり、葉が密集して日光を遮り始めた。辺りはひんやりとした空気に包まれ、薄暗い森の中を歩いているような感覚に陥る。


シンはその不気味さに思わず足を止めた。「師匠、この道で本当に合ってるんですか?」


「心配するな。」剣助はさらりと言い切る。「俺は何度もこの道を通ったことがある。」


「そうなんですか?」

「そうだ。」


その言葉を信じて歩き出したシンだったが、剣助の言葉には何か引っかかるものを感じていた。師匠が「本当にこの道を知っているのだろうか?」という疑念が頭をよぎる。


しばらく進むと、霧が立ち込め始め、周囲の木々が白い幕に飲み込まれていく。足元の道も徐々に見えにくくなり、シンは不安げに剣助に声をかけた。


「師匠、この霧、大丈夫なんですか?」


剣助は平然と頷いた。「問題ない。この先には茶屋がある。」


「えっ、こんなところに茶屋が?」


「そうだ。そこで休憩できる。」


その言葉に少し安心したシンは、剣助の後ろをついていく。しかし、歩き続けても茶屋らしきものは一向に見えてこない。霧はますます濃くなり、ついに視界は数歩先しか見えなくなった。


「師匠、本当に茶屋があるんですか?」シンが疑いの目を向けると、剣助は小さく笑いながら言った。

「嘘だ。」


「また嘘!?」

シンは思わず叫んだが、剣助はまるで気にする様子もなく前を向いている。


「道中、少しでも気を抜かせようと思ってな。」剣助はさらりと答えたが、その言葉にシンは違和感を覚えた。気を抜かせようとする理由が、ただの親心だけではないような気がしたからだ。


その後も霧の中を進み、やがて目の前にぼんやりと鳥居が現れた。剣助は振り返り、真剣な表情で言った。


「この先が秘術学校への裏道だ。」


「今度は本当ですか?」シンが念を押すように尋ねると、剣助は微かに微笑んだだけで何も答えなかった。その沈黙が、逆に本当のことを語っているようにも、また嘘を含んでいるようにも感じられた。


シンは不安と期待を胸に、剣助の後を追い、鳥居の下をくぐった。霧が薄れ、少しずつ視界が開けていく。その先には、秘術学校への道が続いているようだった。だが、その道の先に待つものが、シンにとってどんな運命をもたらすのかは、この時まだ分からなかった。


霧の中を進む中、空気が徐々に重くなっていくのをシンは感じた。周囲は静まり返り、風の音も鳥のさえずりも消え失せている。足元の道は草に覆われ、獣道のような荒れた状態になっていた。


「師匠、本当にこの先に学校があるんですか?」

シンが不安げに尋ねると、剣助は答えずにただ前を歩き続ける。その背中にはいつも以上の緊張感が漂っていた。


やがて道が開けると、目の前に古びた鳥居が現れた。その鳥居は赤く塗られているはずだったが、塗料の大半は剥がれ落ち、苔がびっしりと生えている。両脇には奇妙な模様を刻まれた石像が一対置かれていた。それは狐にも犬にも見えるが、どこか異様な存在感を放っていた。


「これが……秘術学校の入り口?」

シンは無意識に呟いた。剣助は一歩前に進み、鳥居の下で立ち止まった。



霧の中を進む中、空気が徐々に重くなっていくのをシンは感じた。周囲は静まり返り、風の音も鳥のさえずりも消え失せている。足元の道は草に覆われ、獣道のような荒れた状態になっていた。


「師匠、本当にこの先に学校があるんですか?」

シンが不安げに尋ねると、剣助は答えずにただ前を歩き続ける。その背中にはいつも以上の緊張感が漂っていた。


やがて道が開けると、目の前に古びた鳥居が現れた。その鳥居は赤く塗られているはずだったが、塗料の大半は剥がれ落ち、苔がびっしりと生えている。両脇には奇妙な模様を刻まれた石像が一対置かれていた。それは狐にも犬にも見えるが、どこか異様な存在感を放っていた。


「これが……秘術学校の入り口?」

シンは無意識に呟いた。剣助は一歩前に進み、鳥居の下で立ち止まった。


「ここから先は、学校の結界領域だ。」剣助の声は低く、厳粛だった。「この鳥居を通れる者だけが、学校への道を進むことを許される。」


シンが鳥居に近づくと、足元に微かな震動を感じた。鳥居の下から立ち上る薄青い光が、足元の草を揺らしているように見える。


「通れなかったら、どうなるんですか?」

「……試してみればわかる。」剣助は短く答えたが、その声には僅かに緊張が滲んでいた。


シンは深呼吸をし、鳥居の前に立った。その瞬間、まるで目に見えない壁に阻まれるような抵抗感を感じた。空気が重く、肌にじんわりとした圧力がかかる。


「うっ……!」

思わず足がすくむシンに、剣助が静かに声をかけた。

「力に逆らわず、受け入れろ。お前自身の存在をこの結界に認めさせるんだ。」


シンは剣助の言葉を思い出し、もう一度足を踏み出した。目を閉じ、心を落ち着ける。自分が半妖であること、普通の人間とは違う存在であることを受け入れる瞬間だった。


鳥居をくぐり抜けると同時に、周囲がぱっと明るくなり、結界が青白い光を放った。その光は柔らかく、包み込むようにシンの体を暖めた。


「通れた……?」

シンが振り返ると、剣助がゆっくりと頷いていた。


「お前を受け入れたようだな。」


剣助も鳥居をくぐると、光は次第に消えていき、再び静寂が戻った。シンは胸を撫で下ろしながら鳥居の向こうを見た。そこには新たな道が続いていた。


「この道の先に、学校があるんですね?」

シンが確認するように尋ねると、剣助は淡々と答えた。

「その通りだ。ただし、学校にたどり着くまでの道は容易ではない。結界はあくまで最初の試練にすぎない。」


その言葉に、シンは背筋が少し伸びる思いがした。自分が認められたことへの安堵と同時に、これからの旅路に待ち受ける困難への緊張感が胸を締め付けた。

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半妖と星の礎 ごんぞう @tatata68

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