再会
飛ばされた地域は、冬は愚か夏の期間もあるかないかの、穏やかな地域だった。1年の半分以上を春の精が受け持っていて、残りの半分くらいを秋の精が、そのまた残りを夏の精と俺とで分け合っているかのような感じだ。
この地で俺ができることといえば、ほんの僅かばかり気温を下げることだけ。春に目覚めて夏に成長し、秋に実を実らせた植物たちの疲れをそっと癒すことだけだった。
四季の精の神様の計らいだったのだろうか。地域の特性なのか、この地に桜の姿は見当たらなかった。
それでも俺はつい、桜の姿を探してしまうのだった。あの桜を見つけることなんてできはしないと、分かっているのに。
この穏やかな地域で桜の姿を探し続けているうちに、俺はようやく分かった。
この、桜を探しているものこそ、あの桜が俺にくれた『心』なのだと。そして、あの桜を見つけることができなければ、凍ってしまった俺の『心』は溶けることなど無いのだと。なぜなら、俺の『心』を凍りつかせたのは、もう二度とあの桜と会うことができないという悲しみと、その悲しみを生み出したのが俺自身だという絶望感だからだ。
長い時が過ぎ、相も変わらず桜を探し続けていた俺は、ある時じっと俺を見ている人間が居ることに気付いた。それは、まだ自分の力だけでは移動することすらできない、小さな女の子。
「さくら、大丈夫? 寒くない?」
「あぁー」
親の言葉を理解することも、言葉を発することもまだできないようだったが、俺を見て俺を指差して、女の子はニッコリと笑った。
「ご機嫌だなぁ、さくら」
「ほんとねぇ。ここなら気候もいいし、さくらもきっと元気に……」
「そうだな。きっと大丈夫だ」
あの人間の女の子は、あの桜の生まれ変わりだ。
俺はそう確信した。
なぜなら、普通の人間には四季の精の姿なんて見えないはずだから。ましてや、冬の精の俺を見て嬉しそうに笑うなんて……そんな物好きは、あの桜以外には考えられなかったのだ。
人間のさくらは体が弱いらしく、あまり外には出てこないらしい。特に、名ばかりではあっても気温の下がる冬の間は、滅多に出てくることは無かった。
それでも、たまに外に出てきて俺の姿を見つけると、嬉しそうに笑うのだ。
そうして何年か経つと、車椅子に乗ったさくらの隣には、親ではない人間の男がひとり、寄り添うようになった。
「さくら、寒くない? 大丈夫?」
「大丈夫。ありがとう、はるき君」
じっと2人を見ていると、時々男がキッと俺を睨むことがあった。だから俺は思ったんだ。
あぁ、こいつはあの春の精の生まれ変わりなんだな、って。
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