第2話

翌日のこと。僕は放課後の図書館で、古い資料を片っ端から読み漁っていた。普段の自分なら、ここまで必死になることはない。それだのに、あの「人間の顔をした犬」を見てから自分の中で何かが変わった気がした。


「異能力の歴史…、それとも異能力の起源か……?」

図書館の検索端末にキーワードを入力して、表示された本を引っ張り出した。

何故かわからないけれど、少し焦りを感じていた。


異能力が公然に認められたのはおよそ50年前というところだ。それ以前の書記や神話にも異能力を示唆するものは幾つも残っていたが、正式に記録されるようになったのは第二次世界大戦後のことだった。


ページを捲るたびに、能力者たちがいかにして戦争を終結させ、社会に受け入れられてきたかという話が綴られていた。しかし、読み進めていくごとに疑念が深まってしまっていた。


「……なんだこれ?」

一部の記述が極端に曖昧だったり、矛盾しているのだ。例を言うと、異能力が改めて発見されたのが「1947年」と書かれた本と「1953年」と書かれた本とがある。或いは、当時の政府がどのように能力者を管理していたかも、本によっては大きな差異が感じられた。


「…これ……、出鱈目ばかりじゃないか…?」

どう考えてもおかしいと思われるような内容の本もあった。

昨日と今日のこの変な感覚、今まで普通としていたものから感じるその違和感は、頭痛と吐き気を催させた。


僕は苛立ちながらも、調べるのを続けた。

遂には、インターネットで調べることになったのだが、多様な情報があるが故に、かえって混乱してしまった。


「 この世界の異能力は、ある日突然自然発生したもの、と言う説が濃厚です。」

「いや、異能力は特定のウイルスが引き金となった可能性があります。」

「異能力は神の祝福だ!!!」


まるで誰かが不自然に核心を暈しているかのように、僕は確固たる真実に辿り着けなかったのだった。


「……一体、本当のことを知っているのは、誰なんだ?」

頭に思い浮かんだのは、昨日見たあの"犬"の姿だった。あいつが何かを知っている。いや、確実に真実を知っている筈なのだ。



「魔物って…いつからいるんだ?」

ふとそんな考えがよぎった。異能力についての文献を漁ると魔物の文字と何度か出会ったのだ。

そして僕は気づいた、異能力が一般に認知されてきた時期と、魔物が現れた時期がかなり一致していたのだ。


またも、古い新聞記事のデータベースを検索し、「魔物」という単語が含まれる記事を片っ端から読み込んだ。


最も古い記録は、50年前の中部地方で起きた家畜襲撃事件だ。記事には「野生動物では説明できない痕跡が残されていた。」とある。その後、同様の事件が各地で相次ぎ、遂には目撃情報とともに「魔物」と呼ばれるようになっていた。


色々な記事を読み進める中、一つの文献が目に入った。

「魔物の進化……、か。」

惹きつけられるような題名の論文は何が異彩を放っていた。

どんなことが書いてあるのかと、表紙を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは———。

この名前は………。


背後に只ならぬ気配を感じて振り返る。

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