第5話

一方その頃、上城麗華は軽い足取りで公園に向かっていた。


「また、なーくんと会えるぅ!! えへへっ、早く会えないかなぁ...」


本当に久しぶりに会えて嬉しかった。それなのに、バイバイしてまたこの後会えちゃうの!? 幸せすぎぃ...。


「でも一緒に帰りたかったな。なーくんのけちんぼさん...。」


私はぷくっと頬を膨らませて、なーくんへのイヤイヤポイントを加算した。イヤイヤポイントとは、なーくんに対してのみ存在する特殊ポイント!!

イヤイヤなことがあったら加算されて、一定を過ぎたら私の温もりでぎゅーしちゃうの!!

私の優しさで改心してくれるだろうな...うんうん。


「今頃楽しく淑乃ちゃんと仲良く帰ってるんだろうなぁ...」


あの後、私は淑乃ちゃんとは別々で帰るようになーくんに言われてしまった。

当然あんな出来事の後には、一緒に帰るのはまずいとでも思ったのかな。私は全然気にしないのに!! てかその後会うじゃん!! どして!!

ま... 淑乃ちゃんは爆発しちゃうかもだけど。


まだヒリヒリする腕を擦りながら、私は2人が帰ってるところを想像してしまう...。

や、やだやだ!!

あれ以上、なーくんが淑乃ちゃんと仲良くしちゃイヤ!! だってあんなに可愛いんだもん!!

髪の毛もクルクルのフワフワで、ぽよぽよ揺れてるポニテがすっごい可愛かった...。それに強気な態度と芯のある行動。まさにかっこいい女性って感じ...

あれはハムハムしたい。

後ろからお耳をこっそりハムっと噛んじゃうの!

あ、でも怒られちゃうかな? 背負い投げでもされちゃうかも。でもお耳が弱かったら...えへ、えへへへ...カワイイ。

っていけない!! だ、ダメよね!!

けどぜっったい淑乃ちゃん落としたら素直になってもっと可愛くなっちゃうもん! それだと負けちゃうかも...。まあお姉さんは可愛いもの大歓迎ですから!!


私は、淑乃ちゃんの可愛さにテンションを上げて足

を早める。

けどやっぱり...

なーくんと帰らないとつまらない!!


私はバックから、なーくんが取ってくれたくまっまちゃんのぬいぐるみを取り出す。

この聖母のようなお目目。大変お可愛いです...。

本当に取って貰えるなんて...嬉しすぎて倒れる。

それから、ぬいぐるみをぎゅーっと両手で掴んで顔に近づける。


「なーくん、かっこよくなってた...声も低くなってたし...背も伸びてたね。お姉さんをこんなに夢中にさせるなんて罪な男だぞ...」


でも、あの頃のなーくんの面影はあった。どこかに行ってしまうような面影が...。


すると突然、スマホに着信が鳴る。


「ん? 誰かなぁ...あ! 連絡してなかった!!」


私は急いで電話に出る。


「...ちゃん! つ...通信悪...。あー、あー、よしいい感じ。....麗華ちゃん! 会えたらすぐ連絡してって言ったじゃん!! 」


「ご、ごめん!! なーくんに会えたら嬉しすぎて連絡するの忘れちゃってた!!」


「もー...わたしは直接会えないんだからさ。ちゃんと会えたんだね。よしよし...。てか、なーくん呼び禁止。わたしが考案者なんだから」


「や、やだやだ!!」


「子供じゃないんだから...まあいいわ。ちゃんと連れて来てくれるんだよね...?」


「そこは安心して! これでも安心、安全、信頼の麗華お姉ちゃんだから!!」


「...気長に待つわ。でも...本当はなーくんにはすぐにでも会いたいの...。あ、もう時間...ごめん。この通信ほんと一瞬だから切るね」


「ええ!? まだ声聞きたい!! こんな天使みたいな可愛い声を1日に3分摂取しないとダメな身体になっちゃたの!!」


「ま...ま、ま。ま、たね」


「きゃー!! 待ってよ...」



「...澄ちゃん!!」




切れてしまった。悲しい。

もっと声聞きたかったのに。


澄ちゃん。私がここに居れる限り、頑張るからね。


麗華は空を見上げると、西の空にはキラキラと光る一番星、金星があった。


一番星...てかもう夕方じゃん!!

これ歩いていったらすぐ暗くなっちゃわない?

ここから歩いてなーくんのお家の近くの公園までどれだけあるっけ...えーっと...このスマホ使えないんだった!!...うーんおそらく3kmちょい?

まあ頑張れば歩けるけどぉ...てかなんで私歩いてんの!! 別々に帰れとは言われたけど、バスの時間ずらせば良かっただけじゃない?...まあ、いっか。うん。


国道沿いから離れた住宅街には、西日が当たってオレンジ色に光っている。

ここの景色はあまり変わらないなぁ。

そういえば、この近くに河川敷があったよね...寄り道しようかな。

なーくん、あの場所好きだったもんね 。


住宅街を抜けて、河川敷に出ようとする。

あれこの十字路を...真っ直ぐだよね?

しばらく歩いてみるが、向こう側に車が頻繁に通るのが見える。

あ、あれぇ...こっちだとさっきの大通りに出ちゃわない?


てか公園こっちの方で合ってるっけ...


わ、私としたことが...道を迷った?

この街なら結構歩き慣れてるのに!! いや待てぇ!!

文明の機器を使えば...って思ったけど!!

澄ちゃんが貸してくれたスマホ、この星の位置情報取得できないとか言ってたな...。実質、澄ちゃんに電話する用途でしかないんだよね。

自分のスマホはお家に置いて来ちゃったし...。

うわーん! お姉さんを誰か助けてぇ!!


すると脇の大通りの路地から、見覚えのある姿が息を切らしながら走ってきた。

「え、淑乃ちゃん!? なーくんと一緒に帰ったんじゃあ...って、えええ!! 行っちゃうのぉ!?」


「このぉ...!!! なーくんのばかぁ!!」


私の横を思いっきり横切っては、そのままどこかに行ってしまう。


「ちょ、ちょっと!! 淑乃ちゃん何があったのぉ!?」


私は追いかけようとするが、淑乃ちゃんの足が速すぎて全然追いつかない。


ほんのちょっとしか顔が見れなかったけど...淑乃ちゃん、泣いてたよね?

あんな強い子を泣かすなんて...もしかして、なーくんのせいで泣いてるの?


「淑乃ちゃん待ってぇ!! お姉さんがお話聞いてあげるからぁ!!」


日が沈み始めた住宅街を駆けていく2人。


偶然なのか。

彼女たちは、あの一番星に向かって走っていた。

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