第4話
結局、俺の家が集合場所となり3人は解散となった。
うん。俺の家で本当に良かったのか?
すっごい不安になってきたが、淑乃は何か考えているのだろうか。
ちなみに、上城さんとは後で合流するという形になり、俺の家の近くの公園で一旦集合することになった。
そして、俺と淑乃は帰りのバス停まで一緒に歩いていた。
なんだか久しぶりだな一緒に歩くのって。
「本当に俺の家で良かったのか...? 場所知ったら上城さんに変なことされそうなんだけど...」
「そこは大丈夫安心して。私がいるから。それに、なーくんの家にしたのは、私のタイムカプセルを見せるためなの...あたしの想いはあの頃から変わってないんだから」
最後の方が聞き取れなかったが、要するにそれだけ重要なメッセージがあるということだろうか。
「てかあんたが弱っちい男だから、あんな女に絡まれるのよ?」
「いや確かに俺は物理攻撃はゼロに近いけど、そんなナヨナヨした男ではないと思うんだが...」
現状、俺は幼馴染に守られているという立場にある。男としてはプライドがズタボロだが、割り切るしかないだろう。
「なーくんって、あーゆーお姉さんが好きなんだね。まあ、しょーがないかぁ。突然現れて、自分に好意を持ってくれてる天然美人お姉さん。好きになっちゃうね? へっ、どこのフィクションガールよ。まあ現実なんだけど」
「す、好きかは置いといて、男だったらみんな好きだろ。顔も可愛いし、スタイルも抜群だし...まあ言動はアレだけど、なんだかほっとけない感じがさ」
「きも。ヘンタイ。ばーか」
正直に答えて罵詈雑言なんですか? うーん、キモイ発言してる自覚が足りなかったか。
「どーせ、胸が大きいお姉さんが好きなだけでしょ? いやだいやだ。なーくんは絶賛盲目状態だよ。お姉さんのことがキラキラ見えちゃってるの。ばーかみたい」
俺への被害がある発言ばっかだが、他に被害を出てないからヨシとしよう。
だけど、俺もこんな言われたら言い返しはしたくなる。
「なんだよ。嫉妬してんの?」
つい口が滑ってしまった。
「はぁ!? うっざ。こっち来ないで勘違い男。もう後10m離れて」
指示通り10m距離を置いて歩く。ここは素直に聞いておこう。あいつを怒らせると、かなり大変だ。
「ムカつく...何あいつのこと好きになってんの? あたしといる方がずっと長いのに。夏のばーか」
なんか向こうで変な呪文唱えてるな...。俺に対しての不満だろう。
でもなんだろう、さっきから不自然な淑乃に違和感しか感じない。
淑乃とは、小学生からの付き合いだ。
家が近所だから毎朝一緒に学校に行ってたし、帰りも柔道の教室がない時は、必ず一緒に帰っていた。よくお互いの家に行ったりして遊びに行ったものだ。
小学生の時のあいつは本当に男みたいなやつで、基本的に女児っぽい遊びが嫌いで可愛げがないやつだった。
時には取っ組み合いのケンカなどもした。もちろん俺は負けていたけど...。
とにかく猛獣みたい奴で、クラスのやんちゃ男子にも警戒されていたな。それだから、俺みたいな鈍感な奴にも結構キツく当たっていた。けど、俺が同学年のやんちゃ野郎や高圧的な高学年に絡まれた時には助けたりもしてくれた。
「あんたが弱いだけよ。強くなりなさい」
そんな戦闘民族みたいなセリフも助けた後にはお決まりだった。
でも小4ぐらいかな。俺と淑乃が付き合っているという噂が流れ始めた。
根も葉もない噂だ。まあ遅くとも、小4ぐらいからそれぞれ異性として意識し始めて、誰があの子が好きだのなんだのその話題ではいつも男子でも女子でも盛り上がっていた。
まあ当然、俺と淑乃もずっと一緒にいたもんだから、よくそんな噂話のレギュラーになっていたな。
まあ小学生のお付き合いなんてお遊びなんて言うけど、俺たちはそんなの微塵も感じないで友達として遊んでいた。でも周りの奴はどんどん変な勘違いをしていったんだ。
そして、小6年になってそれが明白になった出来事があった。
今思えば馬鹿みたいな話だ。喧嘩で解決なんて今思うと恥ずかしすぎる。
クラスのちょっとイケメンだったかな。結構当時モテるとかで同学年では噂になってたんだけど、そいつと小6の時に俺と淑乃とクラスが一緒になった。
そんで、そのイケメンくんはあいつに告白した。
まあ淑乃の性格もあって、散々に振ったらしいけどね。
今思うとあいつは小6になってからは、すごい女の子らしくなっていた。当たり前っちゃ当たり前だが、低学年の時と比べれば可愛いやつになっていた。
それからイケメン野郎が腹いせのように淑乃に嫌がらせを始めたんだ。その取り巻きの女子も参戦していて、あまりにもグロかったことを覚えている。
そして事件が起きた。
丁度、淑乃が風邪で学校を休んでた日だ。ずっと淑乃のいやがらせを近くで見ていた俺はいてもいられなくって、イケメン野郎にこう言ったんだ。
「あいつは弱いやつが大嫌いなんだ!! だからよ...俺に喧嘩で負けたら、一生あいつに関わるなよ!!」
それからクラス中大騒ぎになって、昼休みの決闘の時にはギャラリーまでできてた。
机や椅子をどけて、教室の真ん中にできたリングには俺とあいつが立っていた。
「青下。お前、淑乃と昔からの幼馴染ってだけで一緒にいられるだけなんだぜ? 勘違いすんなよ。お前は勉強もスポーツも平均以下のろくでなしなんだよ」
当時は本当に馬鹿だったな。確かに勉強もスポーツも何もかもダメだった。けど淑乃は俺と一緒にいてくれた。
「夏と一緒なら馬鹿なことができて恥ずかしくない」
とか言っていつも一緒にいた。ただ一緒にいるのが楽しかったんだ。
けどこいつはそれを壊そうとしている。それが許せなかった。あいつは強いやつだから嫌がらせなんて気にするような素振りはなかったけど、確実にダメージは入っていた。
ああそうだ。イケメン野郎、奏(かなた)って名前だったな。
「奏。お前はなんもわかってないな。淑乃と何度喧嘩したと思ってる? あいつには勝てたことないけどさ...お前みたいな素人には負ける自信は微塵もわかないね」
その後は呆気なかった。奏くんめっちゃ弱かったんだよ。まあ戦う前から、武者震いか恐怖かわからなかったけどプルプル震えていた。
あんなに煽っといて実際はヘロヘロだったんだ。まあ風格だけはあったけど。
俺が突っ込んだら、ふらっと倒れて泣き出したんだ。ちょっとギャラリーも引いていたね。
その後というのは、担任にめっちゃ怒られてリングを片付けさせられていた。
そんで、奏くんの評価はガタ落ちで周りの女子も思いっきり冷めてたな。
まあ悪い気はしなかった。むしろせいせいしたね。
それからかな、もう俺たちは正式に付き合ってることにされたんだ。
いやなんでだよ。俺は嫌がらせを止めたかっただけなのに。
でも俺はそんな悪い気がしてなかったかもしれない。
その日の帰り、淑乃の家に行ってお見舞いに行った。
淑乃のお母さんはすごく喜んでいて、2階の淑乃の部屋へ向かった。
「淑乃、大丈夫か? お前でも風邪引くんだな。ほら、学校のプリントと今日の給食のデザートのゼリー。これ好きだったろ?」
「もう腐ってる。食べたくない」
「ちゃんと冷蔵庫に入れてもらったわ! 食わないなら俺食うぞー」
淑乃が急に飛び起きる。
「食べりゅばか」
「食べりゅってなんだよ」
「うっさい」
ゼリーを食べている淑乃は少し表情が緩んでいて、優しい顔になっていた。
「あんた怪我したの? 膝擦りむいてる」
「ああ、ちょっと奏と喧嘩して...もうあいつらからの嫌がらせも無くなると思うぞ」
俺はちょっと恥ずかしかった。なんかこいつのために喧嘩したと思うと急に顔が熱くなっていた。
「そ...そうなんだ。なに勝ったの? へへ、あんな弱っちぃ夏が喧嘩でねぇ...。うむ、あたしのおかげだな」
「へいへい。感謝してますよー」
「...あ、あのさ。ご褒美とかじゃないんだけど...」
「もしかしてゲーム買ってくれんの?」
「んなわけないでしょ...えーっとね...その」
淑乃はモジモジし始める。なんだこいつ。
「な、名前で呼んでいい?」
「は? いつも呼んでんじゃん」
「違うばか。あだ名みたいの」
「なんだそれ。それがご褒美なの?」
突然の沈黙が流れる。
なんかこいつすっごい顔真っ赤なんだけど。また熱でも上がったのかも。
「お前もう休んだ方が...」
そして、淑乃はこっちを真っ直ぐ見てそっと言った。
「なーくん...ありがと」
その瞬間、部屋から逃げ出したもんだ。よくわかんなくてさ。
なんたってあだ名で呼ばれて、初めてあいつのことを意識したから。
おいおいこんなに可愛いかったのかよってね。
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