第3話
人生最大の修羅場。そういうのは何度も経験はしたくはない。
記念すべき1回目は、知らないお姉さんと抱き合ってるのを幼馴染に見られるというのは些か災難すぎるんじゃなかろうか。
「ちょ、ちょ!! 知らないわよ、そんな女! あんた誰!? さっきバイト終わってゲーセン寄ったらこれよ!?」
「あら、なーくんのお友達? 知らない女...まあそうよね。私となーくんは秘密の関係だもんね?」
上城さんは人差し指を口の前に立てて、秘密だよというポーズをしているが冗談じゃない。この人はこの状況をさらに悪化させている。どうにか振り解こうとするが、上城さんの力は思う以上に強く離してくれなかった。
「ひ、ひみつ?...あんたら、もしかして変な関係なんじゃないでしょうね!? ちょっと早く離れて...って本当に、付き合ってるの?」
「淑乃待ってくれ! これは本当に誤解なんだ! この人さっき会ったばっかだし! だけど...!!」
どうにか弁明しようとしている時に、淑乃から今まで聞いたことないような大きな声で叫ぶ。
「はぁぁぁ!? あんた...さっさとなーくんから離れなさいよ!!」
なんと淑乃が突っ込んできて肩を思いっきり掴んで引き離そうとしてきた。
「ちょ痛い痛い! 淑乃の馬鹿力で逆に肩折れるわ!!」
「あんたは黙って!! さっさとこの悪女から引き離すのよ!!」
やばい。まじで肩外れるんだけど!! 淑乃は昔、柔道黒帯だっただけに力が半端じゃない。
「わーん、ひどーい! 淑乃ちゃんってば私たちの仲でも引き裂く気なの?」
「こ、こいつびくともしないじゃない!! もうこうなったら...」
すると淑乃は上城さんの腕を思いっきりひねった。
「...!! いったぁ!! お姉さんに何するの!?」
その時、上城さんの腕がゆるみ、その隙に俺は腕から抜ける。
「黙りなさい! あんたねぇ、どこの馬の骨かわからないけど、幼馴染のなーくんを急に襲うのやめてもらえます!? なーにが秘密の関係よ!! 私はなーくんとは10年以上の付き合いがあるのよ!!」
すると淑乃は、俺を胸まで引き寄せて抱きつくようにしてきた。ええ!? ちょ、これはこれで...。
「あたしはね...な、なーくんのことずっと大切な友達だし...それに、これからもずっといたいし...。こんなところで...あんたなんかに取られたくない!!」
初めて聞くセリフだった。淑乃は中学から、いつも俺といるのが嫌みたいな態度を取り続けてきた。絶妙な距離感のまま同じ高校に受かって、家も近所だから最初は一緒に行ってたけどそれも徐々に無くなって...。今となっては幼馴染というのが薄れていたのだ。
上城さんのひねらた部分は真っ赤になっており、それを片手で押さえながら言った。
「淑乃さん...私は、なーくんにとってすっっっごく重要な存在なんです。タイムカプセルのこと知ってますか? なーくんと一緒に月にタイムカプセルを埋めたこと。私は、なーくんがそれを見つけ出すのを助けるために現れたんです」
「なーにが月よ。タイムカプセルなら、あたしがなーくんにあげたわよ。ね?」
へ? どうなってる。俺はもう訳がわからなかった。月に埋めたという証言は置いといて、淑乃には...いやあれか!
「俺にくれた手紙のことか...? 南京錠がついた箱に手紙が入ってるって、中1の時に」
そうだずっと俺の部屋の机に飾ってある箱。なんと淑乃お手製の木箱で、エイプリールフールの時にくれた謎の箱だった。当時、俺はパスワードがわからなくてヒントを聞いたが、淑乃は全く答えてくれなかった。とびっきりの嘘が入ってるとか言ってたけど、俺は開けられずにそのまま部屋に飾っていたのだ。
「あれってタイムカプセルだったのか?...ヒントもくれないから今も開かずに部屋に飾ってあるぞ」
「大事に持ってくれたんだ...嬉しい」
なんか小声で言ってるが、ゲーセンの中もあって騒音で聞こえなかった。
「淑乃さん。さっきは誤解を招くような言動をしてしまい申し訳ありませんでした。それに私の行動に不快感を抱いたのも、なーくんを守ろうとした行動も理解できます。ただ...お話だけ聞いて欲しいのです」
上城さんは突然として真面目な雰囲気になった。さっきからこの態度で対応して欲しかったんだけど...。
「淑乃。俺の方こそごめん。こんなことに巻き込んで。でも、上城さんは俺のことを最初から知っていたんだ。すごい怖いけどね...。ただ約束のことだけが引っかかってたんだ。「宇宙の外側に行こう」って約束にどうしても、上城さんが関係してると思うんだ」
まだ真相はわからない。ただ上城さんの今の表情は、最初会った時の面影など忘れるような真剣な顔だった。
「宇宙の外側って...。あんたそれあたしにも小学生の時に言ってたじゃない。それに、小4の将来の夢は「宇宙飛行士になって、宇宙の外側に初めて到達する人」って発表してたでしょ?」
「ば、ばか!! そんな恥ずかしいこと言うなよ! なんであの時の発表なんて覚えてんだよ!!」
「はははっ!! あんたの馬鹿みたいなデカい夢忘れるわけないでしょー? 当時のあたしもびっくりしちゃったわよ」
久しぶりに見た淑乃の笑い顔に俺は少し胸がざわついた。なんでこいつに...。ん...てか距離近くない?
「淑乃...お前いつまで俺を抱いてるんだ? 抱き枕なら買ってあげるぞ?」
その瞬間俺は思いっきり投げられた。長年やられてきた技なので、上手く受け身を取ったが、危うくお菓子のクレーンゲームにぶつかりそうになった。おまけに小さい子供に嫌な目で見られた。ごめん。
「はぁ!? きっも。近づくなし。ばーか、ばーか!! あんたが危ない女に絡まれてたから、距離が近かっただけだし! はいもうあたしから5m離れて」
めちゃくちゃだけど今回はこっちにも非があるのでなんとも言えない。
「その...よければなんですが。どこかゆっくり話せるところはないでしょうか」
上城さんはおろおろしながらも聞いてきた。さっきまでの天然ぶりはどこいった。
「じゃあ、なーくんの家でいいじゃない」
おい待て、淑乃さん。それまた修羅場到来じゃないですか?
その発言の後というのは、一悶着あった3人がゲームセンター内でお互い無言のまま立ち尽くす謎のオブジェと化していた。
「お兄ちゃんたちそこどいて。お菓子取れない邪魔。」
ごめんなチビ。
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