鬼灯す琥珀眼と青槍少女 ~特殊な眼を持っていると隣の席の最強妖狩美少女にバレた結果、何故か唇を奪われる生活が始まりました~
アイノス
プロローグ:琥珀眼、青槍少女とキスをする
いつもの学校からの帰り道の近く、住宅街にあるおしゃれなカフェとごく普通な一軒家の間の路地裏。そんなあまり立ち入らないが見覚えのある場所で俺は――。
「ちゅっ……んっ、んむ……」
どういうわけか学校で隣の席な女の子に唇を奪われていた。先に断っておくが、俺と彼女の間柄は残念なことに彼氏彼女のそれではない。どちらかといえば俺が便利にパシリられてるくらいの軽い関係だ。
今俺の唇を食んでいる彼女の名前は水無月 真雲(みなづき まくも)。藍髪ショートに可愛げが残る凛とした顔。身長は高校一年の女子としては少し低い。いつも無口で表情も固いため皆は彼女のことをクール、もしくは落ち着いた子だと言うが、近くで見ている身からすると……どっちかといえば不思議ちゃんって印象だ。
そして……女性の特徴を形容するのに大変失礼なのは存じ上げているがこれだけは言わざるをえない。……彼女は、真雲は胸がとても大きい。その上で今キスをしているということは距離が急接近しているというわけで……。つまり、いつもそのワイシャツからはち切れんばかりに主張を続けているその双丘は今現在、無防備にも押し当てられ俺に幸せな圧力を伝え続けてくれていた。
「ぷはっ、ありがと」
「……別に、俺は何もしてないんだから感謝される筋合いはないだろ」
同級生、しかもいつも隣の席で顔を見合わせている美少女に胸を押し当てられながらキスをしてもらった上に感謝までされてしまった。そんな健全な青少年なら一度は夢見るようなシチュエーションが目の前で起こったことに動揺をしてつい感謝への返答がそっけなくなってしまう。
「じゃ、全滅させてくる。応援よろしく」
「お、おう。……頑張れ?」
「がんばる」
真雲はそんな俺の様子を全く意に介さず、青色の長槍を展開して走り出した。……そして、路地裏で蠢いている化け物共に向かってその長槍を振るった。
「じゃ……いくよ、【円舞槍(ワルツ)】」
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
「これで終わり、【回旋槍(ロンド)】」
「ギョエエエエエエエエエエエエ!!」
長槍の円閃に貫かれ、叩き潰され、切り裂かれた化け物共の断末魔が路地裏中に響き渡り、黒いチリになって消滅していく。十秒程度で二桁数の化け物を淀みなくぶちのめしたあたり、やはり真雲は普通の人間ではないと再認識させられる。
「終わった」
「お疲れさん」
「うん、疲れた。帰って寝る……あっ、そうだ、えいっ」
真雲は槍をしまったかと思うと急に俺に突進をして体を押し当ててきた。さわやかな女の子の匂いが鼻腔をくすぐり再び彼女の豊満な胸による幸せな圧力が俺に押し付けられる。正直、こんなに体をくっつける季節でもないと思っているのだが、そんなのが気にならないくらい彼女の存在感は……すごかった。
「ど、どうした?そんな近づいて……」
「……琥珀色の眼、何回見ても綺麗。あと、明日もちゅー、よろしくね」
「……真雲はそれでいいのか?俺たちはそういう関係でもないのにこんなことをするなんて……」
真雲にとって必要だからキスをしているとは分かっているが、それはそれとして真雲自身がどう思っているのかは別の話である。真雲は表情筋を全く動かさないタイプだから猶更、俺からすれば照れているか嫌がっているかすらも判断できない。そんな俺の質問に対しても真雲は眉一つ動かさず、俺の顔をじっと見据えたままだった。
「うん、いいよ。むしろそっちは大丈夫?私とちゅーするの嫌だったり」
「えっ!?いや、そんなわけない。むしろ、その……男冥利だと思ってる」
「だったらよかった。これからもよろしく」
恥ずかしいことを言ってしまったのと、上目遣いの真雲の可憐な顔が迫ってきたことでつい顔が熱くなってしまう。だが、真雲はそんな俺の気持ちも知らず、手をきゅっと握ってきた。
「どうせ帰り道は同じ方向だし、一緒に帰ろ」
「え、いや、誰かに見られたら……」
「私は気にしないし、別にいい。ほら、行こ」
「わっ……ちょっと待っ……!」
長槍を軽々と振り回すパワー満点のその細腕に引かれ、今日も俺は真雲に振り回されるのであった。
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