5

一平さんの部屋からこんなに声が聞こえてきたことは初めてで。

この部屋の扉がこんなに声を廊下に漏らしてしまうことを私は初めて知った。




「で?で?小関は?」




「いや、だから俺はそういうのはないって。」




「嘘つくなって!!

亜里沙から聞いたけど、お前あの女子高の女の子達からめっちゃ人気じゃん!!

彼女の1人や2人いるだろ!!

チ◯コ付いてんだろ?マ◯コ必死だろ?」




「彼女の1人や2人いるのは青だろ?」




「はあ!?俺亜里沙しかいねーし!!

亜里沙としか付き合ったことねーし!!

あんなにタイプな女と出会えたのは亜里沙だけだし!!

ああいうキツい顔をした美人が笑うとヤバいな!!

めちゃくちゃ可愛い!!ギャップすげー!!!

・・・って、彼女の1人や2人どころじゃないのは鎌田だろ!?」




「俺はそんなこと・・・あるね!!」




「こいつヤリ○ンなんだよ~!!

小関説教してやれ!!

その優等生キャラで“鎌田君、ヤリ○ンはよくないよ”・・・・って。」




下品な会話と下品な笑い声がこの扉から聞こえてくる。




“審査するまでもなくダメだな。”




そう思い、取りあえずお兄ちゃんに報告をしようとリビングに戻ろうとした。




そしたら、聞こえた。




「あーっっ、俺も亜里沙とやりたい!!!

やっぱクリスマスか!?」




「うん、クリスマスだろうね。

デートどうするの?」




「それを鎌田に相談したくて今日こうして小関の家に集合したんだよ!!

ファミレスだと亜里沙の友達が聞いてるかもしれねーし!!」




「え、そうだったの?

生徒会のことで相談があるって話だと記憶してるけど。」




「生徒会のことだろ!!!

お前が副会長に立候補したことにより、他の誰もお前の上に立てないとかいう意味不明な理由で会長にならず、お前のせいで俺は会長に推薦された男なんだぞ!?

生徒会長である俺の初体験がかかってるんだぞ!?

俺の初体験によって今後の生徒会がどうなるか左右されるんだよ!!!」




「え~・・・それなら星野君の家や鎌田君の家で2人で相談するのは?」




「こいつの家にはめちゃくちゃ美人な姉ちゃんが3人もいるからな、俺女きょうだいとかいねーし緊張するから却下。」




「青の家は自宅もオフィスになってるからね。

家にいるとお父さんが仕事をさせようとしてくるんだよ、空間デザイナーの。」




「空間デザイナーとか俺サッパリだしな。

・・・でも金は良いからデート代を稼ぐ為にも仕方なくやってるけどな。」




「ここどう?この前行ったけど良かったよ?」




「どれどれ・・・・いや、これ狙い過ぎじゃね?

小関君、どう思います?

この店でデートをした後にすんなりやれると思います?

ちなみに胸派?巨乳派?ケツ派?」




星野青さんという人が一平さんにそんなことまで聞いた所まで確認し、私は慌ててノックをした。




「はい。」




そしたらすぐに一平さんから返事が来て、私はゆっくりと片手で扉を開けた。




「あ、小関君の妹か・・・。」




凄く綺麗な顔をしたお兄さんが優しい顔で笑い、でも私の顔を見て少しだけ驚いた顔になった。

私のセロハンテープに気付いたのだと分かる。




もう1人のお兄さん、恐らくこっちが星野青さん。

整った男らしい顔をしたお兄さんで、その顔を物凄く怒った顔にして私のことを見上げている。




私が話の腰を折ってしまったからだと分かる。




“鎌田さんはギリギリセーフかな。”




そう思いながら、私はしっかりとお辞儀をした。




余計なことを言わないように口にセロハンテープが貼られている姿で。




お盆を両手で持ちながら、しっかりとお辞儀をした。




そしてゆっくりと、ゆっくりと顔を上げ、目だけで2人に笑い掛けた。




それから一呼吸置き、数歩だけ歩いた。




“絶対に失敗するなよ。”




お兄ちゃんの指示を守り、私はお茶がのったお盆を持ったまま、転んだ。




わざと転んだ。




その瞬間の2人の顔、その後の2人の様子や動向を審査する為に。




一平さんのお友達としての審査をする為に。




これは毎回凄く凄く恥ずかしいけれど。




2人にお茶が掛かる位置で思いっきり転んでみせた。




お兄ちゃんと同じように、私は今回も転んでみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る