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「ただいま。」




帰ってからすぐにリビングに行くと、お母さんが奥様に夜ご飯を出している時だった。

時計を見ると19時前。




“帰りたくない”と思ってしまい、私はこんな時間まで帰れずにいた。




こんな“いけないコト”を私は初めてしてしまった。




「お帰りなさい、望。

一美も塾だし私1人で寂しかったの、一緒に食べよう?」




私が遅くなったことには何も言わず、奥様が優しい笑顔でそう言ってくれた。




それになんだか泣きそうになる。




泣きそうになってしまう。




思わず奥様から視線を逸らした私の目線の先にいたのは、お兄ちゃんだった・・・。




「もうすぐ一平さんが帰ってくる。」




お兄ちゃんが真剣な顔で私にそう言って、私のお母さんのことを見た。




「あと2人分のご飯出せる?

小関“家”と同じメニューの。」




「・・・分かった。

望、手伝える?」




お母さんの言葉には頷き、ダッフルコートを脱ごうとした。

でもその手をお兄ちゃんから素早く止められて。




「お前は先に飲み物出してきて。」




少しだけ悩んだ顔をしたお兄ちゃんが奥様のことを見た。




「俺、どんな風に見えますか?」




ニコッと可愛い笑顔で笑った、私とは違う公立中学校の制服を着ているお兄ちゃんが奥様に聞いた。




「凄く良い男の子。」




「ですよね。」




そう答えてから私のことをもう1度見た瞬間、玄関の開く音と一緒にガヤガヤと煩い声が聞こえてきた。




こんなに広い家なのに、そんな声が響いてきた。




「一平さんと同じ生徒会の人達。

生徒会長と書記の人。」




「・・・内部生じゃなくて高校からの外部生の2人?」




「そう、一平さんの今までの友人達とは違う。

望が審査してこい。」




「私が・・・?」




お母さんが準備をしたお茶がのったお盆を、お兄ちゃんが私に持たせた。




「望、コート。」




お母さんからコートを脱ぐように言われたけれど、お兄ちゃんは首を横に振った。




「このままで良い。

望はまだ中学1年生で、“普通”の女の子だから。」




お兄ちゃんがポケットからいつものセロハンテープを取り出し、私の口にいつものようにバツになるように貼り付けた。




お兄ちゃんにしか取れないセロハンテープを。




私が余計なことを言わないように私の口を封印するセロハンテープを。




「言ってこい、望。

これがお前が出来る秘書の仕事だ。

絶対に失敗するなよ。」




その言葉にドキドキと心臓が煩いくらい鳴っていく。




「口での自己紹介が出来ない分、しっかりお辞儀をして挨拶するんだぞ?」




頷く私にお兄ちゃんはめちゃくちゃ怒った顔になった。




「もしも失敗したら、学校でもセロハンテープをつけさせるからな。」




そんな恐ろしいことを言ってきたお兄ちゃんに、私は何度も何度も頷いた。

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