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翌日
「ねぇ、望の隣の席の奴さ、絶対望のこと好きだよね?」
「あと2組の男子も望のこと好きらしいって私聞いたよ?」
学校からの帰り道、友達数人と歩いていたら同じクラスの男子グループに話し掛けられ、友達2人からヒソヒソとそう言われた。
「今度2組のその男子いたら、望に教えるよ。
結構格好良い男子だった!」
「何?何の話だよ?」
「え~?望って可愛いよね~って話!」
友達が笑いながらそう誤魔化すと、私の隣の席の男子は私のことを見ずに口を開いた。
「別に普通じゃね?」
「えぇぇ~!?普通のレベル高!!」
みんなで大きな声で笑う中、私も笑顔を作りながら歩いた。
“楽しい”気持ちと“苦しい”気持ちが入り交じる。
なんだかザワザワとする。
昨日あんなに“完璧な秘書になりたい”と思ったのに、今日はまたこんなにもザワザワとしてしまう。
「俺ら今日部活休みだからさ、向こうにある公園にみんなでちょっと寄ってく?」
男子の1人の言葉に私の友達が頷き、それから1人の女の子が私のことを見た。
「望も行こう?」
「私は家の手伝いがあって、ごめんね?」
「えぇ~、また~?」
「家の手伝いって?
加藤の家ってなんか店でもやってんの?」
「店じゃなくて~、なんだっけ、なんか凄いの家の~、凄い家の・・・凄い家で、凄い家のやつでさ~・・・みたいな。」
「凄い家しか情報ないじゃん!!!」
大笑いしているみんなを眺めながら、私も笑った。
それは全然楽しくなくても笑った。
みんなが笑っているから私も取りあえず笑っておいた。
そしたら、私の隣の席の男子が私に向かって少しだけ恥ずかしそうに口を開いてきた。
「委員会があったとかテキトーに言って、少しくらい良くね?」
そう言ってきた男子の向こう側には、もうその公園に向かっているみんなの後ろ姿があった。
女の子達はみんな可愛いピーコートを着ていて。
凄く可愛い後ろ姿で。
“良いダッフルコートだね。
少し大きめだしきっと長く着られるよ。”
一平さんの言葉を思い出す。
こんなに高いダッフルコート、それも“Hatori”のダッフルコートを着られて喜んでいた私に、一平さんはそう言った。
ドキドキとしながら一平さんの反応を待ってしまった私に、一平さんはダッフルコートの感想を言ってきた。
ダッフルコートだけの感想を言ってきた。
それが凄く“悲しい”と思った。
“全然似合ってないんだな”と思ってしまった。
“全然可愛くないんだな”と、そう思ってしまった。
私は一平さんのことが好きで。
凄く凄く好きで。
生まれた時から・・・いや、きっとお母さんのお腹の中にいた時からきっと愛していて。
死ぬまで一平さんのことを愛し抜くのだともう分かっている。
小関の“家”の人としてだけではなく、“家族”としてでもなく、異性としても愛し抜くのだともう分かってしまっている。
それくらいだった。
それくらいの絆だった。
小関の“家”と加藤の“家”は、そのくらい強い絆で結ばれていた。
ずっとずっと昔、大昔からの絆で結ばれていた。
「加藤、行こうよ。
たまにはちょっとくらいサボったって大丈夫だって!!」
隣の席の男子がそんなことを言ってくる。
そんな無責任なことを言ってくる。
ザワザワとしてくる。
ムカムカとしてくる。
ムシャクシャとしてくる。
なんでか分からないけれど、どうしようもない不安感に襲われる。
どうしようもない虚しさに襲われる。
怖くて・・・。
凄く怖くて・・・。
凄く凄く怖いから、私はピーコートを着ているみんなの後ろを慌てて追い掛けた。
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