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そんな発言にはパッと顔を上げてその男の人のことを見た。

その男の人と目が合うと、二重瞼ではないけれど大きな目を優しい三日月にした。




「社長って人間よりネコの方が異常なくらい大好きな人だからさ。」




「そうですよね・・・。

キツそうな目でたまに甘えてくるからめちゃくちゃ構いたくなるらしいですね・・・。」




「あ、そんなことまで知ってるんだ?

加藤さんは全然キツイ顔でもなく“誰が見ても可愛い顔”でしかないけどね、社長にとってはネコなんだね。」




「加藤さんはね、僕の知り合いの家にいた子猫で。

“構って構って・・・いや、やっぱりそれ以上来ないで”の子でさ。」




青さんの言葉に他の人達は笑い続けていたけれど、三日月の目を持った男の人だけは興味津々な顔で私のことを見続けている。




「真白(ましろ)。」




青さんが少しだけ“青さん”の声で“真白”と呼んだ。




「絶対に手を出さないでね。

僕の知り合いから返すように言われたら必ず返さないといけない子だから。」




“俺の弱みを握る為に一生だってこの“家”にいられるからな?”




青さんは今朝そう言っていたのに。




私にとってはクリスマスプレゼントみたいなそんな言葉をくれようとしたのに。




私は返されるらしい。




私は“あの家”に帰らないといけないらしい。




一平さんと奥さんが幸せそうに住む“あの家”に。




「もしかして加藤さんって、ワンスターエージェントの“ワン”の人の所にいた子?

加藤っていう名字だし。」




小関“一”平と“星”野青で、ワンスターエージェントという会社名になっているこの会社。




一平さんのことを言われたのだと分かり頷こうとした。




でもそれよりも先に青さんが・・・




「真白、ちょっと。」




完璧な営業スマイルで真白さんのことを手招きし、真白さんは「はいはい」と言いながら青さんの方へ歩いていった。




でもその途中で真白さんがクルッと私のことを見て、不思議と青さんによく似ている意地悪な顔で笑った。




「俺、社長の弟の真白、よろしくね。」




それを聞き私は何度も頷きながら真白さんに向かって指を指した。




「ああ・・・!白!!

真ん中の弟だ!!

1番下の弟もここにいるんですか?」




「いるよ、今掃除中。」




「真白。」




「はいはい。」




“はいはい”と言いながらも真白さんは楽しそうな顔で私のことを見続けていて・・・




「“ワン”の所に帰れるよ。

社長が絶対に帰してくれる。」




“私は帰りたくない”




“私は青さんの家に一生だっていたい”




そんな“望み”が浮かび上がってきてしまい、でもすぐにまた奥底へと沈んでいった。




何処にいたって私の存在は変わらないから。




“ほぼ家族の家政婦”




青さんにとっても私はソレでしかなくて、何処に行っても私の愛する人が、私の好きな人が、他の女の人と幸せそうにしている姿を眺めているだけ。

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