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私は増田財閥の分家、小関の“家”の秘書として生まれた加藤望。
私自身の幸せは小関の“家”の人達の幸せであり、小関の“家”の人達の幸せの向こう側には増田財閥の繁栄と維持が組み込まれている。
だから青さんが認めるような私自身の幸せは存在していない。
存在していたら私は私の仕事が出来ない。
小関の“家”の秘書としての仕事が私には出来ない。
だからお父さんもお兄ちゃんも私には家政婦の仕事しかさせなかった。
奥様のお手伝いで清掃会社で働いている時も、“普通”の掃除しかさせてくれなかった。
だって、私はこんなにも“ダメ秘書”で。
私自身の“幸せ”も妄想してしまうくらいの“ダメ秘書”で。
「青さんの弱みを握らないと・・・。」
小関の“家”に帰されるその日までに、私は必ず青さんの弱みを握る。
こんなにも“ダメ秘書”の私を譲社長が任命してくれた。
小関の“家”の為、今まで何も出来なかった私がやっと役に立てる。
だから私は今日も・・・
「逃げたくない・・・。」
秘書なのに何の役にも立てていない私のことを心から愛してくれている小関の“家”の人達の為、私は絶対に逃げない。
どんなに苦しくても。
どんなに悲しくても。
みんなが求めるような“幸せ”を私は望めなくても。
「私は可哀想なんかじゃない・・・。」
小さな小さな声で呟き、それでもしっかりと前を向いた。
増田財閥の分家は今では小関の“家”しか機能していない。
そして分家の“秘書”も加藤の“家”しか残されていない。
その事実をこの心にもう1度刻み込む。
そしたらこの心がとても痛くなって。
凄く凄く痛くなって。
スーツのブラウスの下、胸の間にある一平さんの第2ボタンをギュッと握り締めた。
“大丈夫”
“大丈夫”
“私にはコレがあるから大丈夫”
“これだけは貰うことが出来たから大丈夫”
“これだけがあれば頑張れる”
“私はまだまだ頑張れる”
そう思いながら、目を閉じた。
“一平の、奪い取ってきてやった!!”
高校の卒業式の日、優しい優しい笑顔でこのボタンを渡してくれた青さんの姿を思い浮かべ、私は少しだけ笑いながら頷いた。
私は加藤望。
加藤の“家”の中では“ダメ秘書”というポジションになってしまうけれど、私だって物心がついた頃から学び続けてきた。
“綺麗で正しく”生きる一平さんと一美さんの手となり足となくるべく、私だってどんなに大変でも学び続けてきた。
そう思いながら、パソコンの電源を入れた。
でも、何故か画面は真っ黒なままで。
「すみません、電源どこですか?
そういえば私、パソコンとか全然使ったことなかった・・・!!」
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