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“望とちょっと仕事をしただけなのにどっと疲れたから、俺はトンカツ。”




青さんの会社の最寄り駅で電車を降りた後、一緒にお昼ご飯を食べてから会社に戻る話しになった時に青さんがそう言って。




「ここのトンカツ屋がめちゃくちゃ旨いんだよ。」




青さんがそう言って連れてきてくれたお店はトンカツ専門店だった。

お昼時ということもあるからか結構並んでいて、でも出ていく人達も多い。




青さんと並びながらチラッと店内を覗くと、そこにはカウンター席しかない古めの内観だった。




味は美味しいのだと思う。




こんなにサラリーマンの男の人達が並んでいるのだから、きっとそんなに高くもなくて美味しいのだと分かる。




それは分かるけれど・・・




“いいな”と思ってしまったから言ってしまった。




今日は亜里沙さんの話が出てきてしまったからか、昔青さんから聞いていた色々な話を思い出してしまい、“いいな”と思ってしまって・・・




「他に美味しいお店はないんですか?」




隣に並ぶ青さんのことを見ずにそう聞くと、青さんは不機嫌な声を出した。




「お前が依頼人の前で俺が元カノと初めてやった話まで出すし、俺の失言まで失言し出すし、その他にも諸々・・・とにかく俺はめちゃくちゃ疲れたんだよ。

めちゃくちゃ疲れた時はここのトンカツって決めてるんだよ!!」




そう言われたけれど、私は言った。




・・・いや、やっぱり言えなかった。




“もっとお洒落なお店が良い”なんて、やっぱり言えなかった。




“いいな”という気持ちが浮かんできてしまった後、次から次へと色々な気持ちが浮かんできてしまって・・・。




それは止まることなく浮かんできてしまって・・・。




“青さんと初めて外で一緒にご飯を食べられるから、私はもっとお洒落なお店が良い”




“私“も”もっと、お洒落なお店に連れて行って貰いたい”




“昔青さんが加藤家のバイトで稼いだお金で彼女さんとデートをしていたみたいなお洒落なお店に、私も連れて行って貰いたい”




私は男子とデートなんてしたことがなくて。




私は一平さんとデートなんてしたこともなくて。




当たり前だけど青さんともデートなんてしたことがない。




「なんだよ?何か言えよ。」




「何もありません。」




「出た、女のソレ。

絶対何かあるのに何故か言ってこないで心の中で勝手に怒ってるやつ。

それで後で色々と言い出してくるやつ。

ソレ何なんだよ?

女きょうだいがいない俺への試練?」




最後の表現には思わず笑ってしまい、思わず青さんのことを見上げてしまった。




そしたら、目が合った青さんが凄く意地悪な顔で笑っていて・・・




「望は俺には何でも言えるだろ?」




そんなことをまた言ってくる。




青さんは昔からそうやって私に言ってくる。




そんな風に私のことを甘やかしてくる。




その“暗示”や“洗脳”のような甘い言葉に引き寄せられ、私の心の奥底に沈んでいった気持ちがまた引き上げられてしまう。




「言ってみろよ。

どんな話でも俺が聞いてやるから。」




そう言われ・・・




そう言ってくれて・・・




「私・・・もっとお洒落なお店に行きたい・・・」









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