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電車での移動中に青さんからある程度の事前情報は聞いていた。

“知り合いの社長からの紹介”というこの三山さんは、旦那さんとの関係でとても悩んでいると。




沈んだ顔でこの繁華街のファミレスに座っていたこの女の人のことを、私はファミレスに入った時から確認が出来ていた。




「このお店にはよく来るんですか?」




聞いた私に三山さんは少しだけ微笑み小さく頷いた。




「飲み物を持ってきますね。

三谷さんは何が飲みたいですか?」




そう聞いた後に自分で続けた。




「昔はここで何のジュースをよく飲んでいたんですか?」




聞いた私に三山さんは少し目を見開き、立ち上がった私のことを見上げた。




「旦那さんとは中学生の時からの同級生ですよね?

ここは三山さんのご自宅からは遠いですし、でも近くに私立の中高一貫校がありますよね?

そこが出身校ですか?」




聞いた私に三山さんは深く頷いた。




「はい、主人と私はそこの学校に通っていました。

でも、どうして・・・」




「旦那さんとの出会いは中学校で、高校も一緒でその時に付き合い始めたって聞いていたので。

そこの高校、青さんの出身校なんですよ。

青さん達が入学する少し前に男子校になっちゃって、“女がいない!!右を見ても左を見てもどこもかしこも男しかいない!!”って大騒ぎしていたあの高校。」




それから、めちゃくちゃ驚いた顔をしている青さんに向かって笑った。




「青さん達も小関家に集まるようになる前はこのファミレスに毎日のように集まってるって言ってたから。

ここは近くに移転してきた女子校の女の子達も集まるファミレスで、ここのお店で青さんと亜里沙さんが出会ったと聞いていたので覚えていました。」




ドリンクバーの場所を眺めながら続けた。




「三山さんのご自宅とも距離がありますし、何か思い出のお店なのかなと思って。」




そう言ってから、三山さんのことをゆっくりと見下ろした。




「青さんって凄く意地悪だけど優しいから、人のことを絶対に突き放したりしないんですよ。

亜里沙さんからも何か頼まれ事をされたみたいですね。」




笑顔を作り聞いた私に、三山さんは困った笑顔で頷いた。




「その通りです。

ここは主人と私が毎日のようにデートをした場所。

そして亜里沙さんと青さんが出会った場所。

おっしゃる通り亜里沙さんから頼まれました。

青さんは自分のことを本当のところどう思っているのか、そのことも聞いて欲しいと。」




三山さんがドリンクバーの方に視線を移した。




「私は久しぶりにメロンソーダを飲もうかな。

昔は主人が何を飲みたいのか聞いてくれて持ってきてくれたんです。」




「分かります、青さんもそうやって亜里沙さんのことを甘やかしまくっていたらしいので。」




「昔は・・・とても優しくて私のことを大好きでいてくれたんです。」




「まったく・・・男ってやつはどいつもこいつも、ですね。」




私の言葉に三山さんは小さくだけど楽しそうに笑い、青さんのことを見た。




「星野社長はレモンティーですよね?」




青さんが答える前に私は口を開いた。




「青さんは水でしょ?」




めっっっっちゃ驚いている顔をしている青さんに笑い掛ける。




「青さんがシャワーを浴びてる間に冷蔵庫を見てみたら飲み物が何も入ってなかった。

青さんってハマってる時はめちゃくちゃハマるけど、その後はあんなにハマってたのに一切興味なくなるから。」




亜里沙さんのこと、他の彼女さんのこと、そして“友達の家にいた秘書の女の子”である私のこと、食べ物や飲み物だけではなくそれらも思い浮かべながらそう言った。




「失礼な奴だな、俺が今も何の為に・・・誰の為に頑張ってると思ってるんだよ。」




「一平さんの為でしょ?」




「そうだよ。」




勢い良く立ち上がった青さんが私のことを見下ろし、凄く怖い顔で私の胸ぐらを掴んできた。

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