語源厨【メロンパン、妖怪、乗っとり】
「いやぁ、もうマジでビビったよ。ブラクラこえぇって」
四限終了のチャイムと同時に、ユクアキが隣の席のリサに喋りかけた。傍で聞く者には、甚だ唐突に始まった会話のようだが、リサにはそれが先ほどの休み時間の続きであることが分かった。しかし、言葉の意味が分からない。
「ブラクラ? ブラックライト、とか?」
「違うよ。僕さ。ちょっとエチチな雰囲気の動画再生してたんだよね。そしたらさ、ここぞってとこで……」
「やだ、あんた。そういうの見るの?」
「そりゃ、僕だって男だし。しょうがないよ」
「……(いや、いや、いや。だとしても、そんな話を女子にする? コイツは昔から、私を女子扱いしねーんだよな)」
リサの眉間の皺が深くなるのにも気が付かず、ユクアキが続けた。
「そしたらさ、めっちゃホラーな奴がバーンッ! ってなって、マジでビビったぁ〜」
「ユクアキ殿、あのですね」
ユクアキとリサの会話に割って入ってきたのは、同じクラスのゴローだった。
「それはブラクラではありませぬ。ブラクラというのは、そもそもブラウザークラッシャーの略。小さなウインドウが無限に表示されるとか、画面がフリーズするとかのブラウザーに対して直接なされる攻撃をブラクラと言うのです。ユクアキ殿の場合にはマインドクラッシャーと呼ぶべきではないでしょうか!」
早口で捲し立てるゴローにたじろぐユクアキとリサ。しかし、リサはある事に気がついた。
「え、じゃあ、マインドクラッシャーは、略すとマイクラ……」
「おおっと! リサ殿。そのように人の揚げ足を取るのはいだけませんな」
どっちが。いきなり割り込んできて、揚げ足を取ってきたのはそっちじゃないかと言いかけたリサに、ゴローが詰め寄る。
「ならば、リサ殿は『壁ドン』の意味をご存知か!」
「なによ。その位知ってるわ。男の子が女子を壁際に追い詰めて、壁をドンッて……」
チッチッチッ。ゴローが舌打ちしながら、人さし指を左右に振る。
「元は安普請のアパートで、隣室の騒音がうるさいと、壁をドンッと叩いて苦情を伝える行為を指していたのです! それを共通認識は熟成されていながら、その行為を指す言葉の無かったところへ投げ込まれ、言わば単語の乗っとりが行われた結果、リサ殿が仰る意味での使用が主流派となってしまったのです!」
「単語の乗っとり……」
「今、リサ殿がお手に持っておられるメロンパンも左様。元のメロンパンは、かような、アーモンド型のピラフやケチャップライスの型を流用したパンを指していたのです」
「うそぉ。メロンパンは、メロンパンでしょ? じゃあ、このパンは……」
「元はサンライズと呼ばれていたそうですよ」
メガネをクイッと元の位置に直しながらゴローが言った。
「まったく。妖怪語源め!」
ゴローは、そんなリサの非難を物ともせずに言った。
「良いですか、妖怪というのは……」
「もう、えぇわ!」
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