メロンパンの野望
「この店は今日から我々メロンパンのものだー!!」
「「「だー!!」」」
夜明け前、仕込みのため店の厨房へやってくると、そこはメロンパンのゆるキャラのような謎の存在が大量にひしめき、完全に占領されていたのだった。
……悪夢かな?
一応、目をこすってみたが、残念ながらそいつらの存在は消えない。
間違いなく我がパン屋の要である厨房が、よくわからないゆるキャラに乗っ取られている現実がそこにあった。
「そうして、我々メロンパンはここを拠点に世界征服を成し遂げるのだー!!」
「「「のだー!!」」」
大量のメロンパンゆるキャラがいる中でも、ひと際大きいメロンパンが声を上げると、その他の小さなメロンパンたちも呼応するように声をあげる。おそらくあの大きなメロンパンがコイツらのリーダー格なのだろう。
それにしてもコイツらなんて言った……?
「おい、今、世界征服だとか……」
「そう!!我々は愚かな人類に代わり世界を支配し、メロンパンによるメロンパンのための世界を作り上げるのだー!!」
「「「のだー!!」」」
メロンパンによるメロンパンのための世界ってなんだよ、もしかしてリンカーンか!?
え、コイツらパンのくせに、そんな教養まであるっていうのか。ちょっと怖いぞ……いや、喋って動いてる時点で十分怖いけども。
「貴様とこの店は我々の理想の礎になれることを光栄に思うがいいー!!」
「「「がいいー!!」」」
「は!?ふざけるなよ、俺がこの店を開業して軌道に乗せるため、どれほど苦労したと思ってやが……「では、いらない」
「あ?」
今までは意気揚々と喋っていた大きなメロンパンだったが、急に一段低くなった声で俺の言葉を遮って、先程までとは違う冷たい雰囲気でこう言った。
「我々の野望と行動を拒むのであれば、貴様の存在は不要。どこへなりとも失せるがいい」
「「「失せろー!!」」」
「だーかーらー、ゆるキャラども、ここは俺の店だと言って……」
「出ていく気がないのなら、追い出すまでだ。やれ」
「「「やるー!!」」」
「はあ!?」
その瞬間、小さなメロンパンたちがピョーンとこちらへ向かって飛びかかってきた。
い、痛い!!メロンパンのクッキー生地の部分が結構痛いんだが!?
咄嗟に腕で顔を守りながら俺は後ずさる。それでもメロンパンたちの猛攻は止まらないので、俺はひたすらに後ろに下がっていくしかなく。気が付けば裏口を出て、外までやってきてしまっていたのだった。
「「「バイバーイ!!」」」
ようやくメロンパンが飛びかかってくることがなくなり、俺がゆっくりと顔を上げると、嘲笑うように店の扉が閉まった。
「み、見事に追い出されてしまったんだが!?」
俺の店なのに……俺の店なのにぃー!!
「ねぇねぇ、ちょっとそこの人」
「なんだよ、俺はいま色々忙しいんだが……」
後ろから声を掛けられ反射的に振り返ると、明らかに不自然な魔女みたいな風体の女がそこにいた。
「はぁーい、私は通りすがりの魔女」
……今日はなんか変なものばかり見かけるな。
「なんというかこう……大量のメロンパン的なもの見かけなかった?」
「たった今見掛けたし、なんなら追い出されたところなんだが!?」
「あら、まぁ……」
「まさか見た目ゆるキャラなのに、危険思想のうえ動くメロンパンを野に放ったのはアンタなのか!?」
「放ったというか……うっかり逃がしちゃったというか」
「ならサッサと捕まえてくれ!!」
こうなれば、突然現れた不審者だとか、現代社会に魔女が存在してることについての真偽については、もはやどうでもいい。さっさとあのヤバいメロンパンたちを回収して貰えれば、他はなんだって構わなかった。
「ええ、もちろん。私だってそのために来たわけだし……あら?」
「なんだよ、後ろにそんなに気になるものが……」
自称魔女に釣られて後ろをみると、そこには先程まで話していたメロンパンたちがいた。大きいのも小さいのも全部揃っていそうだ。
それだけならば別によかったが、なんとそのメロンパンたちは包丁やナイフ、フォークなどの明らかに武器になりそうな危険物をそれぞれ手に持っていた。
あ、これってつまり……。
「よくよく考えると我々の存在と野望を知っている、貴様らの存在は危険だ。よって早急に始末することにした」
「「「したー!!」」」
まぁ、そういうことですよね!?見た目が菓子パンのくせして、思考回路は全然甘くなくねぇな!!
飛びかかってこようとするメロンパンたちを慌てて躱し、俺はそのまま道をそのまま走り出す。その隣には自称魔女も並走していた。って、おい!!
「アンタは残ってアレをどうにかしろよ!!」
「無理無理!!だって武器持ってるもん、せめて無力化しないと!!」
「んなもの、どうやって!?」
「一緒に考えてよ!!」
「無茶言いやがって!?」
「「「まてー!!」」」
げ、早くはないけどメロンパンも追いかけて来ている。
くそっ、一体どうすれば……。
そんなことを考えながら走ってくると、ぽつぽつと冷たいものが体に当たるのを感じる。見れば着てる服の所々が濡れていた。雨だ。
いや、徹底的にツイてねぇな!?
ぽつぽつと降り出した雨は、一気に雨脚を強めザーザー降りの雨へと変わった。
濡れるうえに走りづらくなると、絶望していると背後から「きゃーきゃー」というメロンパンたちの悲鳴が聞こえてきた。
え?不思議に思って振り向いてみると、地面に崩れ落ちるメロンパンたちの姿がそこにあった。
「うぅぅ、メロンパンは水に弱い。このサクサククッキー生地がずぶ濡れてしまっては、もう終わりだ」
「「「うえーん!!」」」
あ、え、そうなんだ……言われてみれば、確かにそうか。
菓子パンなんて濡れたら形を留めておくのは難しいからな。
「だから死ぬ前の最後に一つだけ……我々はゆるキャラではなくメロンパンの妖怪、なんなら付喪神的な存在なのだ」
「「「妖怪ー!!」」」
「……それ、死ぬ間際にわざわざ言うことなのか?」
「絶対に間違えるなー!!」
「「「るなー!!」」」
「あ、うん、はい」
よく分からないが、彼らには彼らなりの謎のこだわりがあるらしい。
それから程なくしてザーザー降りの雨に打たれたメロンパンたちは、完全に原形を失いメロンパンとは呼べないボロボロの何かに成り果てたのだった。
「終わったのか……」
「うん、終わったわね。よかったよかった~」
「何もよくねぇよ。とりあえずメロンパンたちが持ち出した、包丁やらナイフやらフォークやらを店まで持って帰るのを手伝ってくれ」
「え……なんか残骸に埋もれてベタベタしてそうなのに?」
「元はといえばアンタのせいなんだろう」
「……やります」
そうして自称魔女に手伝って貰いつつ、小降りなった雨の中、持ち出されたモノは全ての回収した。そうして店に戻った後は、濡れた服を着替えたのちに、全ての器具の洗浄をし、多少荒らされていた建物内の掃除もした。もちろん全て元凶である自称魔女にも手伝わせて。
色々と被害は受けたものの、彼女の仕事は思った以上に丁寧だったから、まぁ良しとしよう。
と、終わって振り返ると面白い経験をしたかもしれないな。
今回一つ勉強になったのは、メロンパンの妖怪は水に弱いということ。うん、何一つ今後の人生に役に立たないであろう知識だ。脳の容量の無駄だろうし早急に忘れよう。
何よりもう二度とメロンパンの妖怪なんて見たくないからな?実際、俺があんなものに会う機会は二度とないだろうが……。
「ねぇねぇ見てみて~!メロンパンのアレ可愛かったから、またちょっとだけ作ってみたんだけど、どうかしら?」
「ボク、かわいい~」
「忌まわしい
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