青春の放課後はキミとの日々。

 部活の帰り道、夕日に照らされながら一組の男女が河川敷で駄弁っている。時刻はまだ5時半、日も短くなったため時間を考えれば、本来まだまだ部活動に勤しんでいるはずの時間だった。


「なあ歩美、そっちも同じような状況だろ? コーチは何を考えてるんだろうな」

「翔琉が思うほど考えていないんじゃないかな? あの宮本先生って今年から教師になったみたいだし、どうしていいかわからないから放置しているんだと思うよ」

「こっちの対応が甘いせいで女子に迷惑かけて悪いな。練習中にナンパしてくるんだろ? あいつら」

「男子に思うところがある子もいるけど、遊べて嬉しいって子たちの方が女子は多いから今のうちはまだいいよ」


 大和やまと翔琉かける男子バスケット部男バス小坂こさか歩美あゆみ女子バスケット部女バスに所属しており、現在、男バス、女バス共に現在、不良共に体育館を占領されて活動休止中。二人はパン屋や八百屋など、町をぶらついて河川敷へとやってきていた。

 

「あ、メロンパン食べる? はい、半分」

「……おい、どこからそれ出した?」

「鞄だよ? 翔琉の」

「さっき一緒に買ったのクロワッサンだったよな?! なんで俺のメロンパン持ってるんだよ!!」


 歩美がしれっと自分の鞄から抜き取ったメロンパンを半分差し出してきたことに翔琉はツッコむが、歩美は知らぬ存ぜぬでもう半分のメロンパンを口に運ぶ。


「うん。美味しい」

「メロンパンだからな。俺の……あ、うまいなこれ」

「でしょー。絶品。けど、さすがにそろそろ遊んでばかりじゃなくて練習したいよね」

「じゃあ食べたら早速やるぞ。身体が訛るのは避けたいしな」

「うん。手抜いたら殴る」

 

 そして時間を持て余した部員たちは放課後を自由に満喫し始めたが、すでに1週間が過ぎ、大会も近いこともあって皆が焦りを覚え始めていた。それは歩美も同じで、ここ数日は翔琉と河川敷へとやってきて1on1で二人で練習を続けていた。そして、メロンパンを食べ終えた今日もまた二人で持ってきていたバスケットボールを使って練習を始める。


「ねえっ! 翔琉の持ってる漫画でさ!」

「ん? どうした?」

「不良がバスケ部に入ってたよね! ――隙ありっ!」

「あ、ずりーぞ!」


 ダムダムしながらボールを自在に操って、足の間を八の字に回したり前後左右にフェイントを入れながら歩美がボールを奪うのを阻止している翔琉は、歩美が言ったような展開になったらどうなるかを想像している間にボールを奪われた。


「現実は一緒に大会を目指すんんじゃなくて乗っ取りにあってたまり場になるだけだと思うぞ? てか、現在進行形」

「じゃあこのまま明け渡すの? 私たちも困るから男子で解決してよ~って言いたいところだけど……」

「何か秘策があるのか!?」

「それを今から一緒に考えようね。それじゃ一旦休憩」


 二人で知恵を出し合う。お互いに高校2年生の今まで必死に頑張ってきたバスケットだ。ふざける気も負ける気もない。真剣な話し合いは暫定的に市民体育館や小学校の体育館など、市の施設を使えないか宮本先生に掛け合ってもらうことにした。


「うん。いいと思う。申請が通るかは別だし一時的な使用許可になると思うけど、その間にみんなで話し合って対策を考えればいいし」

「うちの高校って私立じゃなくて市立だもんな。じゃあそれでいこう」


 追い出すのが一番だが、相手は不良。漫画じゃないが喧嘩になり怪我をしたり問題となって大会への出場停止にでもなったら目も当てられない。なので、今はとりあえず練習を定期的に行うためのコートの確保と時間稼ぎを行うことに決めた。


「日も落ちるの早いよね。もう外ではボール追えないし室内の施設がやっぱり欲しいかも」

「だな。あとゴールは絶対にあったほうがいい」

「うん。あの音が私も聞きたい」


 比較的平らでイレギュラーなバウンドの少なそうな場所を選んでも小石などで簡単に変な動きをするボールを思い出しながら二人は笑い合いながら帰路についた。




 翌日、宮本先生は二人の話に真剣に耳を傾け、場所の確保ができないかやってみることを約束してくれた。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「――失礼しました」


 二人は職員室を出て他の部員たちに話を回した。そして放課後、歩美は女子部員たちにファミレスに誘われて女子会に参加することになった。


「でさー。あの不良共、オンナ~オンナ~ってうるさいの。お化けかよ」

「せめて名前呼んで口説いてほしいよね~」

「わかるー。わたしはオンナ~って名前じゃねーっつーの!」

「あははは……みんな不満すごい溜まってるね」


 歩美は女子部員の話を聞いて自分には翔琉という男子が近くにいてよかったと心底思った。


「歩美は翔琉がいるからね。ほら、真面目に運動してる男だから筋肉凄いし。細マッチョっていうのかな?」

「翔琉はマッチョじゃないよ」

「なんであんたそんなこと知ってるの!? どこでみたの? 詳しく! 詳しく!!」


 恋バナなんて女としてみられていない自分には関係ないと、のらりくらり躱し……歩美は自信を無くしていく。そして返す言葉も失い無言でストロベリーパフェを黙々と食べ出してしまった歩美に周りの女子たちは焦ってフォローに入る。


「ちょ、ちょっと歩美!? 大丈夫よ!」

「うんうん! 一緒にいて楽しい。相手からも楽しいと思ってくれてるならそれはもう両思いだから!」

「ねね、この近くに縁結びの神社あったよね? みんなで今からいこーよ!」

「ほーら! 歩美もいくよー! あ、話題を振って悪かったとは思うけどおごらないから。会計は別々ね!」

「っぷ。なにそれ」


 高校生のお小遣いは貴重だ。奢ってもらえるとは思ってないが、その言い草に無言だった歩美も小さく笑うのだった。




 公園横にある木々に囲まれたその神社は鳥居をくぐると一変して空気が変わった気がした。


「ね、恋みくじだ! ね、みんな引こうよ~!」

「ちょっと花梨。さすがに恋みくじは子供っぽくない?」

「けどさ、縁結びがとか言いながら神社来てる時点でもう五十歩百歩じゃん! 歩美も引くよね!?」

「一回200円か~。絶妙だね……」

  

 その出せない額じゃない価格設定に結局みんなで引くことになり、せーので一斉に見せ合う。


「あ、吉だ! あれ? 美夏、小吉なの?」

「はいはい! もしかして花梨って吉の方が上だと思ってたりする系?」

「え? そうじゃないの? 小って付いてるし小さい吉で合ってるでしょ」

「残念、おみくじは上から大吉、中吉、小吉、吉、末吉でーすっ!」

「うわっ! いいかたーーー!」


 花梨と美夏が騒いでる中で歩美はひそかにつぶさないように気を付けながらぐっと大吉のおみくじを握りしめる。


「よかったね。高校生活ももう折り返しだしさ、歩美ちゃんも心配なら勇気出してみなよ。好きなんでしょ? 翔琉くんのこと」

「うん。バスケばかりやってて考えないようにしてたけど、最近二人でそれ以外に一緒にいることが増えて――私は翔琉のこと好きだって気付いたよ」

「なら応援してるから頑張ってみようよ! ダメでも別に諦めることないしさ、歩美は試合終了時間まで何度もシュートするじゃん! それと一緒だって」

「さすがにそれは違うと思う。けど勇気でた。みんなありがとう!」


 それからお参りをして社務所へお守りを見にいく。もう歩美の大応援団と化した女子グループは他に参拝客のいない静かな境内をかしましく練り歩いた。


「あっ! 絵馬とかどう? 私たちって部活部活で青春っぽいことしてなかったし、ここに思い出刻んでいこうよ!」

「いいねー! まったく、あの馬鹿どものせいで散々だけど、遊ぶ時間と理由ができたのには感謝してあげなくもないけど……やっぱり許さーん!」

「そういえばさ、絵馬って本物の馬を奉納できない人が代わりに奉納したことが始まりって言われてるらしいよ?」

「じゃああのオンナ~オンナ~言ってるお化けたちのために女の子のイラストを奉納してあげようじゃないか!」

「お、いいねー! みんな、バスケのためにイラスト書くよー!」

 


 

 何気ない会話がそこにいたナニカに届いた。



「ねえ、聞いた? 不良たちが体育館からいなくなったらしいよ?」

「酷い落書きみたいな女性が毎晩襲ってきて、バスケ部には行くな~、神社に来い~って脅されてるって聞いたけど?」

「あ、それわたしもー。しかも不良たち全員が同じ夢を見てるっていうし怖いよねー」

「なんでも『絵馬の精』っていう妖怪が私たちに嫉妬して夢にでてきてるんじゃないかって誰かが言ってたけど……」

「それどこ情報よ。……え? ……うわ。……まじか」


 不思議な現象にあった不良たちは自分で調べて『絵馬の精』と言い出したらしい。そして、歩美たちの奉納した絵馬、その女の子のイラストが描かれた絵馬は、血の涙を流していたらしい。


 噂は瞬く間に広まり、女性の嫉妬は恐ろしいと、教師も含めた男性全てが肝に銘じる事態となった。



「なあ、困らせるかもしれないけどちょっといいか?」

 

 クリスマス直前、カップルたちが手をつないで歩いているのを羨ましいなとあの河川敷から歩美は眺めていると隣に座っている翔琉から声を掛けられた。


「歩美、俺と付き合ってほしい」

「――え?」

「交際。最近、ちょっと色々あって好きって気持ちに気付いた感じ。今更だけどな」

「ううん。今更なんかじゃないよ。私もずっと好きだったみたい」

「そうなの?」

「うん。じゃあ、いっせーのででお互いに言おうよ」


 微笑み合う二人はお互いに気持ちは同じだったんだと安堵し、嬉しくなり――寒空の下なのに体が暖かくなるのを感じた。


 ――そして。

 

「「よろしくお願いします」」

 

 想いは結ばれる。

 妖怪が嫉妬する隙もないくらい、二人は固い友情と見守りたいような初々しい恋心を抱えて青春を歩んでいく。


「あ、メロンパン食べたくなったかも」

「今度は自分で買えよな」

「かけるのけちー。なーんてねっ♪」


 半分に割ってもしっかりと甘いメロンパンのような日々は、パンの上にかかった砂糖のようにキラキラと輝き続ける。

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