育ってきた環境は違うけど
「なぁなぁ、サンライズ食べたない?」
安普請のワンルームの一室。
寒さが厳しいからとひっ付き妖怪になってた彼女が唐突にそんな事を言い出した。
関西から上京(と言うと彼女は怒るが)してきた彼女と付き合い始めたのは、大学生になってすぐのことだった。
そして今は二年目の冬。
なんだかんだとお互いの家に入り浸り、半同棲のような生活を送っている。
チラリと今まで見ていたパソコンのモニタに視線を映せば、何処かの芸能人が東名高速でも一際大きいサービスエリアの特集をしていた。
それを見て僕は思わず首を傾げる。
いったいどこから出てきた? サンライズ。
だって……。
「……僕の知ってるサンライズは……食べられる気がしないんだけど?」
サンライズと聞いて思い浮かぶものと言えば……。
ロボットアニメの名作をいくつも打ち出しているアニメ制作会社。
今では珍しくなった寝台特急。
そう言えば、今年の夏にサークルの合宿で千葉に行った時泊まったのもサンライズだった気がする。
そしてそれらのどれもが……食べられる気はしない。
「えー? 何言うてるん? サンライズうまいやん!」
「いやぁ? さすがに1企業や鉄道、宿泊施設は美味しくないねぇ……ぐぇっ!?」
ひっ付き妖怪の彼女が、僕のお腹周りに回していた腕をギリギリと締め付けてくる。
「誰もそないな事言うてへんで! うちはサンライズ食べたいって言うてるのっ!」
なんで泊まりに行ったとこ食べなあかんの!? と怒る彼女の柔らかな身体が押し付けられて、本能に理性が乗っ取られそうだ。
「ちょ! マジで! 苦しっ……」
苦しいのはお腹じゃないけど……なんてちょっと下品なことを考えてるなどお首にも出さず、彼女と適切な距離を取る。
「ちょっと我々の間に認識の齟齬がある気がする」
そうなん? と首を傾げる彼女の髪からふわりと甘い香りがして……いやいや落ち着け僕。
「君が今食べたがってるサンライズってどんなの?」
「サンライズはサンライズやわぁ。それ以外にあるん?」
「うーん。あると思う。例えばどんな形なの? サンライズって」
僕の問いかけに、不思議そうな顔をして君が答える。
「えーっとなぁ? 丸おして黄色い色で、こう……格子状に模様入っとって……」
僕の脳裏にふわふわと形状が浮かぶ。
「で、表面はサクサクで、中はふんわりしとって……」
うん? これって……。
「めっちゃうまいパンなんやわぁ!」
「メロンパンじゃん!?」
僕のツッコミに何故か呆れた顔をする彼女。
「何言うてるん? メロンなんてどこにも入ってへんで」
入っとっても白あんやわぁと呆れる彼女を後目に、僕はパソコンを操作する。
「あ〜、なるほどね。関西の一部の地域の人はメロンパンをサンライズって言うんだね」
僕の言葉に彼女はビックリして、慌てて僕の胡座の上に陣取る。
僕のパソコンを乗っ取って、幾つかのページを読んでから、呆れたようなため息を吐いた。
「何これ? メロン入ってへんのにメロンパン名乗るやら烏滸がましない?
サンライズでええやん。見た目もお日様っぽいし」
そう思わへん? って彼女は言うけれど。
僕からすればサンライズよりよっぽど馴染みが深い訳で。
まぁでも。
同じ物を別の言葉で言い表していた僕達が、今一緒にいるということ。
そんな奇跡に感謝しながら、僕は彼女を誘うのだ。
「じゃあ、今度の休みにさっきのサービスエリア行こうか? ……メロンパンを食べに……」
サンライズや言うてるやん! って叫ぶ彼女をバックハグしながら、僕は幸せを噛み締めるのだった。
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